人にものを頼むのが苦手だ。


横柄な物言いをして相手を怒らせる、とか、交渉が下手すぎてとても頼みを聞いてもらえない、とかいうわけではない。ただ、なんだか相手に自分の都合を押し付けるのが申し訳ない気がして、そんならちょっと無理しても自分でやったほうがいいか、などと遠慮してしまうのである。


頼まれごとのほうは、別に嫌いではない。調子よく引き受けて自滅しそうになることもあるが、概ね、約束を守る男として通っている。でも、ある程度年齢を重ねてくると、自分で何かをする能力以上に、人にものを頼む能力が重要になってくるらしい。なかなか面倒なことだ。



話は変わるが、太宰治の「人間失格」を読み返している。本当によく書けた小説で感心しきりなのだけれど、特に女性の描写がいい。顔かたちの描写とか、科白とかはごくごく少ないのに、さらりと一筆書きでいろいろな女のかなしい、おろかな、そして魅力的な姿がきちんと描かれているのは、作者が本物の色男であった証拠であろう。


こんな一文がある。


用をいいつけるというのは、決して女をしょげさせる事ではなく、かえって女は、男に用事をたのまれると喜ぶものだという事も、自分はちゃんと知っているのでした。


後年ヒモのような暮らしをすることになる主人公らしい、怠惰で傲慢な発言であるが、これは確かにある程度真実であるような気がする。いくらいい男だって、自分のことは全部自分でしてしまい、女性に何をする余地も残さないのでは、つまらないだろう。女に限った話ではなく、誰だってたまには好きな人から頼りにされてみたいものである。


ところで、これが僕にはうまくできない。別にヒモになりたいとか、何人もの女性を道連れに自殺未遂を繰り返したいなんて思わないけれど、躊躇なく人にものを頼めるようになれればもうちょっと艶福にも恵まれるんじゃないか、なんてひそかに考えているのは事実である。だいたい、デートの申込も告白もプロポーズも、みんな「頼みごと」ですものね。ためらってる場合じゃない。