恋人、という言葉を使うのは何となく気恥ずかしい。


たとえば「恋人はいるの?」と日常生活で質問する人はどちらかというと少数で、「彼氏/彼女はいるの?」「付き合ってる人はいる?」という科白のほうが一般的な気がする。ちょっと前の世代なら、「いいひとはいるの?」という聞き方もあるか。でも、それらの言い回しにはいずれもどこか不要な照れがあって、表現としてちょっと軽いように思う。


昔から日本では、そういう意味の言葉を表現するのが苦手だったのかもしれない。古語では「をんなともだち」、「いも(妹)」、「わぎも(吾妹)」、「思ひびと」などと呼んだらしいけど、いずれもなんとなく婉曲的な匂いがする。


江戸時代、明治時代には「恋人」にあたることばをどう呼んでいたんだろう? 漱石は「三四郎」「それから」「こころ」をはじめたくさんの恋愛小説を書いた人だけれど、作中で「恋人」にあたる語をどのように処理していたか、記憶にない。作家の立場にしてみれば、その語を使わずに恋愛小説を書くのはずいぶん不便だったんじゃないかと思うけれど。


僕としては、やっぱり「恋人」がいちばんシンプルでおごそかで、いい言葉だと思う。歌の歌詞だけで使うなんてのはもったいないので、みんなもっと照れずに使っていけばいいのにな。