シャガールの馬と女の絵を指して「これ、あたしたち」と彼女は言った
何というタイトルの絵なのかは、知らない。なにやら赤い馬のようなものが、十字架にかけられたイエスにマリアが抱きついている絵の前にいて、その背後に、青い色をした髪の長い女が覆いかぶさるように立っている。二人の頭上には、ふたつの手のひらの生えた、奇妙な柱時計が空を飛んでいる。
マルク・シャガールにしては暗い色調のその絵を、彼女は何故かとても気に入っていて、その絵が描かれたポストカードを、僕にプレゼントしてくれた。西洋絵画史に暗い僕が
「これはどういう意味の絵?」と訊くと、
「悲しい絵なの」と、彼女は言った。「これがあたしで、こっちがあなた」
ポストカードは、僕のデスクの前の壁に貼ってある。仕事に飽きると、それを眺める。今でもときどきぼんやりと、彼女のことばの意味を考えてみる。