君の声を通す受話器のケーブルを首に巻きつけ告げるさよなら
フランスの作曲家・プーランクが書いたオペラ「声」を下敷につくった歌。このオペラのキャストはソプラノ一人という変わった編成で、主人公である女性が自分を棄てた男と延々と長電話した挙句、最後には通話中にケーブルで縊死してしまうというストーリーである。
自分を裏切り他の女と結婚するという男に怒りをぶつけるのではなく、主人公はあくまで明るく優しく振舞おうとするのだけれど、楽しかった思い出を語るときにはつい感傷的になったりして、その心の動きはまことに細かい。原作の戯曲を書いたのがあのジャン・コクトーなのだから、それも当然というべきか。ちなみにオペラでは最後の科白は「さよなら」じゃなく「Je t'aime.」。こんな凄絶な「愛してる」は他に聴いたことがない。
惜しむらくは、携帯電話が普及した現代では、電話のケーブルを首に巻きつけるという行動自体がピンとこないことか。物理的な一本の線が巡りめぐって相手の家まで届いている、というイメージは、考えてみるとけっこうロマンチックだし、だからこそこの主人公はそのケーブルを使って死のうなどと考えたんだろう。村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」にも、電話線でつながっている世界について書いた箇所があった気がする。末端を電波でつないでしまう携帯電話の場合、どうもそういう「つながり」の感じが薄く感じられますよね。