美しき夢は終りぬ、歯車の解けて崩れて果ててゆく夏


漱石の「それから」のラストシーンの印象が強いからだろうか、僕の中で夏=狂気という悲劇的なイメージは一種の固定観念となっている。しかし、ほんとうの悲劇は、始まるべき悲劇が始まらないことだ。狂気などというものは決して都合よく我々のもとを訪れない。醒めた目で不幸を眺めれば、そこに見出しうるのは悲劇ではなくただ悲惨である。