夏風邪や咳で埋まらぬひと刹那


風邪をひいてしまった。熱もないし身体も元気なのだが、やたらと咳が出て困る。ただ辛くもないのに咳だけ自由に出せるというのはそれなりに便利な能力であって、気に入らないことがあるとさりげなく咳を連発して相手を牽制したり、言うに事欠いたとき何となく咳き込んでみせたりもできる。でも、本当に困ったときにこの手でごまかしをやろうとすると、なぜだか妙に白々しく響く。無かったことにしたい一瞬だけは、咳では埋められない。僕が死ぬまで、そこは真空のまま残されるのだ。