手

淋しいからだから爪がのび出す  ――尾崎放哉『尾崎放哉句集』より



僕は爪を切るのが好きで、

できれば喫煙者が煙草を吸うように

仕事の合間ごとに切りたいぐらい

好きなのだけれど、

そういうわけにも行かないから

週に一度切っている。


不思議なもので、いつも決まって

右手の爪の方が伸びるのが早い。

そういう個人的な傾向を

週ごとに確認するのも楽しい。

たぶん、僕はそれを見て、無意識に

「生きてる」という感覚を再認識しているのだと思う、

ちょっと大げさに言えば。


でも爪は、結局のところ僕の意志とは

全く関係のない「命」という大雑把な何者かによって

生やされているものだ。


どんなに嬉しいときでも、

どんなにつらいときでも、

爪はそんなことは知らぬ顔で、

生きている限り伸び続けている。

人の身体はいずれ必ず

死ぬようにできているのに、

爪はそれでも、最後まで

伸び続けようとする。

それは半ばやけくそとさえいえる、

絶望的な反逆だ。


ときどき、僕は自分の中にそうした

理不尽な力があることに

違和感を覚える。

その薄くて硬い、見ようによればひどく

唐突な物体が指先から生えている事実が、

不可解に思える。


とはいえそれは僕の爪に違いないのだし、

関係ないからといって伸ばし放題にすると不便だし、

何より僕は爪を切るのが好きだから、

やっぱり週に一度は爪を切る。


そうして三日月の形をした細いその切れ端を拾うとき、

僕は一抹の淋しさを覚える。


     ☆


11月になって夜の冷え込みがいよいよ厳しくなってきましたね。

僕は昨日、コタツを出しました。

中に猫がいます。


皆さんも風邪などひかれないよう……