牡蠣に目がない。
牡蠣フライ、牡蠣鍋、牡蠣ご飯、生牡蠣、何でも大好きである。
ところで世間では牡蠣というのは思いのほか怖がられてるものらしく、先日先輩宅で鍋を囲んだときも、牡蠣の人気はいまひとつであった。僕一人がフィーバーしてバクバク貪っており、その様は多分客観的に見るとかなり貪婪な感じがしたことだろうと思う。
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これまでに何人かの牡蠣に「当たった」という人に出会ったことがある。嘔吐と下痢が際限なく続くその地獄は、二日酔いを3倍ぐらいにパワーアップさせたような凄まじいものだと聞いた。全くお気の毒な話だが、僕は未だに牡蠣に当たったことがない。でも僕が消費して来た牡蠣の量は、平均的な日本人よりはかなり多いのではないかと思う。
特に昨年の冬は凄まじかった。毎日のように会社帰りに24時間営業のスーパーに立ち寄り、牡蠣を買った。帰宅するなり、寒さに震えながら牡蠣を水洗いし、ビールを呑みながらポン酢で食べる。一冬で少なくとも200個ぐらいは食べたと思う。
今にして思えば、ちょっと疲れていたのだろうと思うが、フランスの文豪・バルザックは一度に144個の牡蠣を食べたという。僕の疲れなんて彼に比べたら大したことはなかったのかも知れない。歴史に名を残す人物が背負わなくてはならなかった疲労、それは凡人には推し量り難い。
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牡蠣というのは強精剤として知られているらしい。
特にヨーロッパなんかでは、デートの夕食に牡蠣を頼んだりすると、ちょっと色っぽい合図として受け取られかねないと聞いたことがある。僕は最近までそのことをよく知らずに、だれかれ構わず牡蠣好きをアピールしていた。もしかしたら大変な絶倫男として誤解されているのかも知れない。でもわざわざ「僕は別に絶倫ではないんだ」と弁明するのも面倒だ。
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栄養ドリンクなどで、牡蠣から抽出したタウリンが1000ミリグラム入っているといううたい文句を掲げているものがある。
学生の頃、夜勤のアルバイトをしていた友人がよくそういったドリンクを飲んでいた。僕が
「ほんまにそんなもん、効き目あるんか?」
と懐疑的に質問すると、友人は
「タウリンが1000ミリグラムも入ってるんだから効くに決まってるだろう」
自信満々に答えるのである。
「そうか。……そんなに入ってるんなら効くかもな」
僕はタウリンが何か知らない。しかし有無を言わせぬ友人の口調に反論することができない。
「そうだよ。1000ミリグラムだからな、なにしろ」
「でも1000ミリグラムってたかが1グラムやで?」
「むっ……(少し考える)1グラムって言ったら1円玉1枚分の重さだろう。こんな小さなビンに1円玉が入ってると考えたら結構な量だと思わないか?」
「なるほど! それは多そうやな」
「そうだろ? そうだろ?」
「タウリン、万歳!」
僕はタウリンの威力に落城した。
「(ふたり、声を合わせて)万歳!!」
四国出身の友人の方言がうまく再現できないので科白を標準語に変えてあるが、僕らが大体以上のような意味の会話を交わしたのは事実である。もちろん、未だにタウリンがいかなる物質であるのか知らない。
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牡蠣という字が好きだ。特に「蠣」という字のアナログで不均衡なたたずまいがいい。
しかし告白すると、「牡蠣」という漢字を僕は書けない。どんな字だったか今パソコンのモニターで確認しようとしたのだけれど、このフォントサイズでは細部が潰れて見えない。後で「Word」でも使って大きなフォントで見てみよう。
自分の好物ぐらいは漢字で書ける男になりたいものである。