ブラームスの音楽は、どこか秋の香りがする。


 作曲家の三枝成彰さんが、どこかでそんなことを書いていた。その通りだと思う。


 秋の夜長に一番ぴったりな音楽はなんだろうか。そう聞かれたら、僕は少しだけ迷ってみせてから、こう答えるだろう。それはブラームスの交響曲第3番の第3楽章「Andante」である、と。


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 ブラームスはいわゆるメロディメーカーというタイプの作曲家ではない。重厚な和音を積み重ねることによってにじみ出るゲルマン的な構築感が彼の持ち味である。耳に残るメロディを作る才能を比較するならば、メンデルスゾーンやベートーヴェンの足元にも及ばないと思う。


 そんなブラームスの音楽の中で、たぶん最も美しいメロディを味わえるのが「Andante」だ。もうとにかく涙があふれんばかりに美しい。こればっかりは聞いていただかないとその魅力をお伝えしようがないのだが、とにかくこの曲を聴くたびに、落ち葉の舞い散る林、深紅に輝く落日のイメージが脳裏に浮かぶ。


 それは季節の「秋」であると同時に、人生の「秋」でもある。ブラームスが生涯を捧げた純愛、その切なさが、この曲には密かにこめられているように思える。……ブラームスは先輩作曲家・シューマンの妻であるクララに恋をしていた。一生、独身だった。


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 そういえばこの曲は、大貫妙子が詩をつけて歌っていた。ホルストの「ジュピター」ほどはキャッチーじゃないかもしれないけれど、とても美しい仕上がりだった。また久しぶりに聴いてみたい。