好きな食べ物は何か? と聞かれて、キウイ・フルーツの名前を挙げる人は、それほど多くはないのではないかと思う。
同じ果物ならメロン、西瓜、蜜柑などのほうが圧倒的にメジャーであるし、人気もある。少し変わったところでも、パパイヤやマンゴーなどのトロピカルな印象の強いフルーツは根強い支持を受けていそうな気がする。
そのような中、キウイという果物は、有名ではあるけれど、どこか影が薄い。ケーキやパフェの中にさりげなく、グリーンの色彩を加えるために盛り付けられたりする、いわば脇役のイメージであろうか。キウイを誰かが単独で食べている光景というものを、そういえば僕はまだ目にしたことがない気がする。
ところで、僕自身はキウイが結構好きだ。月に10個ぐらいは食べている。もちろん、果実を皮ごと両断して、スプーンで食らうのである。
前も「朝はダッシュで」という記事で書いたけれど、僕は朝が苦手だ。時間がないし、食欲もない。そんなとき、キウイだけ食べて会社にでかけるということをしたりする。気休めにしかならないかもしれないけれど、何も食べないよりはマシだろうし、なんとなく身体に良いことをした錯覚に依存できる。それに事実、キウイに含まれているビタミンCはレモン並みに多いそうだ。
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ところで、僕の母などがそうなのだが、キウイの酸味が苦手な人も多いのではないだろうか。確かに、通常スーパーで売っているキウイのほとんどは、完熟でないのかどうかよくわからないが、かなり酸っぱい。僕もどちらかというと酸っぱいものが苦手なほうだ。
で、そういうニーズに基づいて開発されたのか、「ゴールドキウイ」という品種が出回っている。これはその名の示すとおり、断面が通常のグリーンではなく、黄色い。そして、普通のキウイと比べると格段に酸味が少なく、甘い。
僕もキウイの酸味から逃げるため、このゴールドキウイを食べていた時期がある。しかし、ゴールドキウイはこれまたその名の示すとおり、高価なんである。今日も帰りにスーパーで確認してみたのだが、なんと普通のキウイの倍近い価格だ。さすがゴールド。僕のようなブロンズ聖闘士、もとい庶民が常食するには少々荷が重い。
それでも一度ゴールドキウイに慣れた舌、しかも元来酸っぱいものがさほど好きではない僕の舌には、もはやノーマルキウイに回帰するのは困難なことなのだった。
僕はジレンマに陥った。散財に甘んじてゴールドキウイを続けるか。酸味に耐えてノーマルキウイに戻るか。
……そしてある日、僕はある秘術を編み出したのだった。なんとこの秘術を使えば、ノーマルのキウイをゴールドキウイ並みに甘くすることができるのだ。
そう、それはさながら、文字通り黄金の果実を作り出す、禁断の錬金術……
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ここまで勢いに乗って書いてみた文章を読み返して、少し怖くなった。なんで僕はこんなにテンションが高まっているんだろうか。少し冷めた頭で、キウイを甘くする方法をこれから叙述させて頂くのだが、どうか余りのしょぼさにお怒りにならないで頂きたい。
キウイを、食べる前に揉む。
それだけなんである。
皮の上から、手でぐにぐにとまんべんなく押す。最初はかなり硬くて、少し押したぐらいでは凹みはしないが、揉んでいるうちに段々やわらかくなってきて、最後には「ちょっとこれ、腐ってんじゃないのか?」といいたくなるような、怪しい触感に変化してくるはずだ。
これが食べごろである。さっそく包丁で切ってみよう。おそらく、いつものようにスムーズには皮に切り込むことができない。刃で押すと、毛皮をまとった果実はへなへな、と優柔不断にへこんでしまうからである。それでもひるまずぐっと押すと、ちゃんとカットできる。
断面の見た目もイマイチだ。キウイ特有の滑らかさが下落してちょっとしなびた感じになる。事実、果実はかなり柔らかくなり、シャープな食感が大幅に失われることは否めない。けれど、食べてみると、確実に酸味は減り、甘くなっている。歯ごたえはあまりないけれど、林檎や梨と違い、そもそもキウイにとってそれはさほど重要な要素ではないと思う。
見た目はちょっとへなちょこなノーマルキウイだが、味は正にゴールドキウイ。錬金術は成功だ!
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ここまで書いてまた読み返してみた。何故か最後の方は再び興奮気味の筆致になっている。たかがキウイの話なのに。
皆さんもお気づきのこととは思うが、揉むと甘くなるのは蜜柑と同じ原理である。キウイでも同じ手が使えないかと思って試したらうまくいった、それだけの話だ。案外誰でも思いつく発想かも知れない。というより、これは実は誰でも知っている方法で、僕だけが知らなかったということなのだろうか?
そう思うとちょっと不安になってきました。今度、念のため友達に聞いてみます。「キウイの錬金術、知ってる?」って。