昨日、用事があって朝6時ごろに起きて電車に乗ってみたのですが、ひどく涼しくて驚きました。僕はスーツを着ていて、一緒にいた友だちは半そでのシャツを着ていました。彼は肌寒いと話しました。いよいよ本格的な秋の到来ですね。と思っていた矢先、昼間はやけに暑くて汗をダラダラ流していた僕でした。僕は痩せているくせに汗かきなのです。特に、焼酎とビールをたらふく飲んだ次の日には……。
ところで秋の夜ほど、読書に適した時はありませんよね。僕は元来集中力が散漫な男なのですが、この時期は本当にすんなりと本の世界に入っていくことができて、楽しい。
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カチリ
石英の音
秋
秋といえばいつも一番最初に思い出すのが、このとても短い詩です。藤井寿雄という人が書いた詩なのですが、この人の名前をご存知の方はあまり多くないと思います。何故なら彼はプロの詩人ではなく、沼津の紙問屋の主人をしていた人なのですから。けれど藤井さんが少年時代に書いたこの詩は、ある有名な文学者に多大な影響を与えました。
「天平の甍」や「氷壁」「しろばんば」などの長編小説で知られる、作家の井上靖その人です。藤井さんは井上さんの中学時代の同級生でした。中学生の頃、藤井さんは詩を書いていて、あるとき、上に引用した秋の詩を井上さんに見せたのです。それが少年・井上靖の詩心を開眼させたのでした。
後に、井上靖は、詩集『北国』のあとがきの中で、このように回顧しています。
私はその友達からそんな短い三行の詩を見せられ、ひどく感心した。この詩を見たことが、私と詩との結びつきであった。(中略)現在でも、秋になって澄み渡った空を見ると、石英のぶつかる音がしているという、この短い詩を思い出す。
井上さんは主に小説家として活躍した人でしたが、同時に非常に優れた散文詩人でもありました。少年時代のこととはいえ、その井上さんをここまで感心させたというのは、凄いことですよね。僕もこの秋の詩はとても好きなのですが、残念ながらこれを読んでも詩を書きはじめることはありませんでした。
けれど、――僕のような没風流な人間にも、秋が来るたびに、石英の音が聞こえる。空が高くなる。言葉の力というのは、ほんとうに素晴らしいものだと、改めて思う次第です。