マンハッタンの高層ビルの一室で男が「ロープ」で首を絞められて殺される。ヒッチコックが「殺人についての愚かなる理論」を風刺した映画。1948年作品。

 映画的にはワンシーンワンカットで、時間の流れは映画の時間と一緒、1時間20分の現実の流れがそのまま映画の時間になる。もともとは舞台劇だったそうだ。

 途中フイルムのつなぎ目は人物の背中のアップや小物を使っての暗転でつなぐという実験手法。舞台的であり、少々緩慢にならざるを得ないが、長回しカメラでよかったのが、ジェームス・スチュワートが殺人の謎解きをする場面での手持ちカメラでの移動。ピアノや椅子などを一つ一つ追っていく撮りかた。

 この映画は一種の殺人遊戯を扱っている。如何に自分たちが優れた理論(知的優位性)のもとに「殺人を正当化」したかを完全犯罪と言う形で実証して見せようとするのだが・・。「罪と罰」のラスコールニコフの考え方や、エドガ・ア・ランポーの作品にも、完全犯罪を成し遂げた犯人が最後に自分から「壁の中の死体」の隠し場所を得意げにばらしてしまう話があるが、奢れる者たちの愚考にヒッチコックは敢然と「ノン」を言う。サスペンス(ミステリ-)映画はあくまでも「知的遊戯」なのであると宣言したような作品。

 張り詰めた追求劇の最後に、衣装箱の中の死体を見たJ・スチュワートが窓を開け、拳銃を空に向かって発射し事件を公にするシーン、世間の喧騒が「ガヤガヤ」と聞こえ、パトカーのサイレンが近づいてくるラストシーンが印象的だった。