ここはトバリシティ。

シンオウ地方では広い街の一つで、たくさんの石畳に囲まれており、そこに建物が多く建てられているのが特徴である。

ポケモンセンターやフレンドリィショップ、そしてポケモンジムも石畳の上にあり、まさしくトバリシティを象徴している事と言えよう。

もちろん、『あの建物』も例外ではなかった…

『タウン』ではなく、『シティ』と言える街である事を象徴するように、トバリシティは多くの建物が立ち並んでいた。

その建物には、普通の大きさの建物もあれば、それよりも一回り大きな建物もあり、それさえも上回る建物があるなど、様々な建物が佇んでいる。

もちろん、建物だけでなく、トバリシティを象徴している石畳にもそれに負けない高さを持っているものがいくつか存在する。

中には、普通の建物よりも遥かに大きな石畳も存在している。

その規模は、時にビルのような高さにも及ぶのもあるほどである。

トバリシティで一番高い石畳は、ほとんどの建物を越える高さを持つほどの規模であると言っていいだろう。

そんなトバリシティにある石畳で一番高い石畳を遥かに超越する建物があった。

同じく石畳の上に建てられているものだが、その規模は石畳の高さだけでなく、石畳の広さを遥かに越える規模の高さを持っていた。

トバリシティそのものを足元にしているように、ひときわ大きく佇む大きな建物…

おそらく、トバリシティでは一番高い建物であろう。

同じトバリシティを象徴する石畳に建つひときわ大きな建物…

それは…

 


トバリギンガビル。

れっきとしたギンガ団のアジトであり、本拠地である。

トバリシティの住人達は存在は知りつつも、普通に『ギンガ』と書かれているにも関わらず、それがギンガ団の本拠地である事は誰一人として気づいていない。

トバリシティの人達には、ここの存在どころか、ギンガ団の組織そのものについては、『新たなエネルギーを研究する組織』として定着しているらしい。

ギンガ団の活動は地方中に知られているはずだというのに、トバリシティの人達はなぜかあのビルにいる団員達を怪しいと思っていない。

あのビルにいるのは、『団員』ではなく、あくまで『研究員』だと伝えられているからなのだろうか…

おそらく、アジト本体はここにはあるが、目立たないように『ギンガ団としての活動』をしているからなのだろう。

それこそ、物資の輸送や調達のような水面下での活動を基本に、騒動を起こすまでに発展する大きな活動はやらないという感じのように。

そうなれば、街中にギンガ団の巣窟がある事が広まり、ギンガ団もここにはいられなくなる。

脅威を見せつける事は出来るだろうが、そうなった後はそれどころではない可能性だってある。

皮肉な事かもしれないが、だからこそトバリシティはギンガ団の騒ぎに他の街ほど巻き込まれないのだろう。

それでも、脅威が常にそこにある事に代わりはないのだが…

 

 

 


トバリギンガビルの前に歩み寄るいくつかの影があった。

一つは人の姿、他はポケモンの姿だった。

そのポケモンの中には、人に近い姿をしたポケモンもいた。

トバリギンガビルより少し離れたところに着くと、その影の主達は一旦足を止めた。

人の姿をした影の主は、しばらく辺りを見回していた。

辺りに人がいない事と、この位置はまだ見えない位置だと判断した影の主は、次の瞬間体勢を整えた。

その瞬間、トバリギンガビルの近くで閃光のような光が発生した。

光が消えると、そこにはコスプレをしたような姿で、ポケモンと共に佇む一人の青年の姿があった。

影の主の正体は、ナオキだった。

ギンガビルの近くに行く前は、『ナオキ』の姿で人目につかないようにして、あらためてギンガビルの近くに到着した後、人目を盗んで『トライス』の姿に変身したのである。

ナオキは他にも、マグマラシ、そしてエルレイドを連れていた。

今回、あえて全員を連れて行かなかったのは、それによって存在が目立ってしまわないようにするためだった。

ナオキ達は、あらためてギンガビルへと入っていった。

 

 

 


中に入ると、そこは普通の受付だった。

ひそかにナオキは正門から入るのは初めてだった。

前回は倉庫の隠し扉から潜入したので、今回初めてナオキは正門から入ったわけなのである。

入るやいなや、案の定フロアにいた団員達は全員ビクッとした。

ギンガ団にとって要注意人物以外の何ものでもない存在が、白昼堂々アジトに入ってきたからである。

ナオキはそんな団員達は見向きのせず、真っ先にどこかを目指しているかのようにスタスタと進んでいった。

その様子を団員達はただ見ている事しか出来なかった。

団員の中の何人かは抵抗しようとしていたが、経験上あっさりやられる事は見えていたのでそれが出来ないでいた。

受付にいた団員がせめてもの事として、ナオキに言った。

「い…いらっしゃいませ…」

団員の返事に反応するように、ナオキは一旦足を止めて声を出した団員の方を向いた。

ナオキと目が合うと、団員はビクッとした。

団員はどうにか気持ちを落ち着かせて話を続けた。

「え…えっと…今は特に何もしていませんが、営業中です…」

団員は今言える事を無理のない形に並べたような感じで言った。

ここで言う『今は特に何もしていません』というのは、明らかに大きな意味が隠されているような言い方のように思えた。(本人はあくまでそれを隠すつもりで言ったのではないのだろうが)

ナオキはしばらくその団員を見ていた。

団員は『何も言わずにやり過ごせばよかったはずなのに、余計な事を言ってしまったか』と思わんばかりに凍り付いた。

団員には、ナオキが今にも何かしてくるのではないかという雰囲気が漂ってるように見えていた。

それは他の団員達も同じようだった。

しばらくフロア内は沈黙とそれに伴う静寂感が漂っていた。

すると、しばらくしてナオキは団員に言った。

「そうですか。お勤めご苦労様です。」

「!?」

ナオキからの意外な返答に団員はきょとんとした。

それに続けてナオキは言った。

「ここって『新しいエネルギーの研究』をしている場所だそうですね。ぜひとも見つけ出してくださいね。」

そう言うと、ナオキはそそくさとどこかへ向かっていった。

その様子を団員達は、さっきまでとは違った雰囲気で見ていた。

それこそ、ナオキが唯一返答した受付の団員のように…

「け…見学は許可のあるところまでならご自由に…」

団員はひとまず付け加えるように、ナオキが歩いていった方に向かって言った。

 

 

 

 


ナオキはフロアから少し離れたところまで歩き続けていた。

その歩みは、真っ先に目的地があるかのように真っ直ぐなものだった。

しばらく歩いた後、ナオキはようやく足を止めた。

ナオキは、足を止めた後、しばらく何も言わないまま目の前の方向を見続けていた。

ナオキの見た先には、一つの姿があった。

ギンガ団のナンバー2、サターンである。

ナオキは、しばらく沈黙したままサターンを見ていた。

しばらくして、ナオキはサターンのもとへ歩みよっていった。

ナオキはサターンの近くまで歩みよると、足を止めた。

サターンはまだナオキがいる事に気づいていないようだった。

ナオキは、しばらく沈黙した後、サターンに言った。

「…サターン。」

ナオキのこの一言に反応するように、サターンはナオキの方を振り向いた。

「おまえか…」

ナオキの存在を確認すると、サターンは体全体をナオキの方に向ける形で振り返った。

サターンは話を続けた。

「聞いたぞ…『やりのはしら』での事…」

「もう届いていたのか…情報早いね。」

テンガン山の頂上で起きた事は、あれからすぐにギンガ団の本部に伝達されたようだ。

おそらく、シンオウ地方中で一番先に、何より明確に伝えられたのは、紛れもなくここであろう。

しかし…

「…結局、ボスは何が目的だったのか…」

サターンは『やりのはしら』での事は聞いていたものの、案の定詳細については知らされていなかったようだった。

おそらく幹部を含む団員全員に伝えられたのは、『やりのはしらで実行しようとした計画をコスプレをした若造に邪魔された』程度であり、詳細そのものは一切伝えられなかったのだろう。

アカギの『真の目的』を知っているのは、他でもないナオキ達だけである。

しかし、その事を話したところでおそらくサターンは信じはしないだろう。

だが、それはあくまで『要注意人物から言われた事』だからであり、決して100%そうだとは言い切れないある理由があるからでもあった。

とはいえ、今はあくまでその『要注意人物から言われた事』が優先される状況なので、ナオキが話しても耳を傾けないだろう。

それを踏まえ、ナオキはサターンに今回の事については話さない事にした。

「ボスは、一人の力でギンガ団をここまで築き上げた。必要なものも…ボスが求めるものも…全て、ボスは誰の力も借りずに自身に思うがままに手に入れた。おまえもわかってる通り、『神と呼ばれしポケモンの力』を除いてな…」

アカギは、今日に至るまでギンガ団を結成するために必要なものを様々な方法を駆使して自らの思うがままに手に入れ、このギンガビルがそれを象徴するように、ギンガ団をここまで巨大な組織へと築き上げた。

アカギにとってギンガ団は、『全てがアカギの思うがままになった事の象徴』とも言えよう。

そうである以上、ナオキ達によって『神と呼ばれしポケモンの力』を手に入れられなかったのは、アカギにとって想像を遥かに上回る挫折だったと言えよう。

サターンは、話を続けた。

「ボスのそういった力は、ボクの想像を遥かに上回るものだった…特に一番表れてるのは、やはり『人の心をつかむ』ところだろうな…」

サターンは言った。

「ボスの自信に満ち溢れた論理的な言葉の数々は、人々の『心』をとろけさせた…」

つまり、アカギは口がうまく、巧みな話術で団員の『心』を掴み、ここまでの組織を築いたのだろう。

アカギのカリスマ性があらためてうかがわれる。

すると、サターンは言った。

「もっとも、ボクはボスの目的が一体何なのかを知るために、『あえて』騙されたのだがな…」

サターンからの意外な一言に、ナオキは一瞬懐疑を抱いた。

「…『あえて騙された』…?つまり、貴様は最初からアカギが怪しいと思っていたという事か?」

「そうだ。」

サターンは即答するように言った。

ナオキはサターンの返答に再び懐疑を抱いたが、それは100%信じれるはずがないとは言えないようになぜか思えた。

サターンからのこの返答に呼応するかのように、ナオキの『心』でサターンに対する今までにない感覚がよぎったのをナオキは覚えた。

…いや、その感覚はひそかに前にも似たような形で起きた事があるような感覚だった。

ここで再びサターンと対峙し、三大レジェンドを助け出した後、ナオキはこうもあっさりと三大レジェンドを助けさせてくれた事とは別に、サターンに対してずっと『心』から抱いていた感覚とは全てが違うような感覚を覚えていた。

その感覚は、帰路に着いた後もずっと続いていた。

三大レジェンドを助け出してくれた事以外にサターンをそう思う根拠は他にないはずの中、ナオキはあの時以降からサターンの見方が変わったかのようにサターンの事を一方的に悪者として見なくなっていたのだった。

リッシ湖であのような事をして、仲間であったエルレイドを見捨てているという明確な根拠があっても、それさえ払拭するかのようにナオキは初めて『サターンは本当に悪者なのか』と『心』から思うようになっていたのである。

それは決してアカギの言動のように偽りはなかった。

むしろ、まるで『心』がひそかに真実を伝えているかのようにナオキには思えたのだ。

そして、今回のサターンの意外な事実は、ナオキの『心』によぎっていた事にさらに上乗せする形でそれをさらに明確にする事となった。

今は少なくとも『ギンガ団のサターン』ではあるが、それは『ギンガ団に入る前からそうだった』のではないというのは確かな事…

ともすれば、なぜその背景の中でサターンはギンガ団側に着いてしまったのだろうか…

ナオキはサターンに色々聞きたい事があったが、今の状態はあくまで対立するもの同士という事もあり、これ以上は話せないだろうと判断してやめておく事にした。

しばらく沈黙が続いた後、サターンは言った。

「さて…ボスがいなくなった今、この残されたギンガ団をどうするか…」

アカギはあの後、トバリのアジトにも戻らず、そのまま消息を絶った。

どこに行ったかは、団員はともかく幹部にも知らされていないという。

少なくとも、どこかで再び野望に向けた準備をしているのだけは確かだろう。

しばらく考えた後、サターンは言った。

「…ひとまず、今は行動は控えるとしよう。何事も、やりすぎはよくない。それを教えられたからな…」

 

 

 

 

 

 

ナオキ達は、帰路に着いた。

トバリシティを離れてしばらくした後、ナオキはあらためて元の姿に戻った。

「ギンガ団はこれからどうすんだろうな?」

マグマラシはナオキに言った。

「…サターンの言った事が本当なら、しばらくは目立った事だけでなく、活動自体自粛する形になるだろうね。少なくとも、しばらくは大丈夫だとは思うよ。」

「だろうな。今んところからすれば、オレ達も最低限の事だけして、目立った事はしない方がいいかもな。」

マグマラシは、ナオキの言った事に納得した様子で言った。

「ボクもおいても、サターンの言った事は本当のようだから一応そうであっていいと思うよ。」

エルレイドは、相手の『心』を読み取る能力がある。

サターンが言った事とその時のサターンの様子から読み取れる事を踏まえ、エルレイドは今回はサターンを信用していいと確信したようだった。

ひとまず、いつまでかは定かではないが、しばらくは普通に過ごす事が出来るようになるのは確かなようである。

「もちろん…いずれはまた同じような規模で再び活動する事にはなるだろうから油断せずに過ごす事にしようか。」

「だな。」

あらためてナオキ達は、帰り道を歩いていった。

 

 

 

 

ナオキ達は、聖地エレメンタルに向かって歩き続けていた。

ナオキは、エルレイドの方を向いた。

エルレイドは、サターンに対する未練か何かがあるように、少し上を向いたような状態で歩いていた。

しばらくして、ナオキは言った。

「…エルレイド。」

「…?」

ナオキの声に反応して、エルレイドはナオキの方を向いた。

少し暇を置くと、ナオキは言った。

「…以前、君はサターンにこんな事を言ってたよね。」

それは、ナオキ達が三大レジェンドを救うためにサターンのいる研究室に攻め込んだ時、エルレイドがムクホークと共に加勢してくれた時の事だった。

その時、エルレイドはサターンにこう言っていた。

 

(ボクとキミが最初にいた頃は、ボクにあんな事をするのに限らず、リッシ湖であんな事までするようになるとは思いもしなかったよ。キミもすっかり変わったな…一体いつからかつての礼儀を忘れてしまったんだ。)


ナオキは、あの時からエルレイドが言っていた事がずっと気になっていた。

ナオキは当初、サターンも他の幹部達同様、『ギンガ団に入る前から今のような在り方だった』と真っ先に思っていた。

しかし、エルレイドがギンガビル内でサターンに対してあのセリフを言った時からその考えに懐疑を抱いていた。

エルレイドのあのセリフから読み取れるのは、『サターンはギンガ団に入る前はあのような事をするどころか、そもそもそういう悪事をする人ですらなかった』というような事だった。

ナオキはエルレイドに言った。

「あの時、君はサターンに『キミもすっかり変わったな』って言ってたよね…サターンは、今はやりすぎだと自省してるようだけど、リッシ湖をあんな風にしたり、何より仲間であった君を見捨てるような人物であるのは事実だけど…」

ナオキは一旦言うのを止めた。

それは、今言った事にわずかながら残された懐疑による考えの板挟みがあったからだった。

少し間を置いた後、ナオキはあらためてエルレイドに言った。

「…いや…あらためて思うんだけど…サターンがあんな事をするのは、実際の事ではあっても『本当の意味』の前では事実ではない気がするんだ。君がサターンにあの事を言ってから、真っ先にそう思うようになったんだ…」

初めて会った時は、まさしくそれが第一印象になったとしか言いようがないほどの悪者以外の何者でもない奴だとナオキは思っていた。

その印象はその後も変わる事なく続いていたが、エルレイドがサターンにあのセリフを言ってから一気に印象が変わり、そこに疑いはあれど『否定』は一切なくなる形でサターンの見え方が変わったのだった。

ナオキは初めて『心』から思ったのだった。

サターンは、『本当に』悪い奴なのかと…

サターン本人に聞けないのなら、サターンに一番近いところにいたエルレイドなら何か知っているかもしれない…

ギンガビルを出てからしばらくした後、ナオキはひそかにそう考えていた。

そして今がまさしくその時だと、ナオキは『心』に決めたのだった。

ナオキはエルレイドに言った。

「話してほしいんだ、エルレイド…一体、サターンに何があったの…?」

エルレイドはしばらく黙り込んでいた。

その様子は、話すのを拒んでいる気配はなく、むしろ話すのをためらっているかのようだった。

ナオキがエルレイドに話してからしばらくの間、誰一人声を上げる事のない沈黙の状態が続いた。

しばらくして、エルレイドは小さく頷いた。

その様子は、話す決心がついたのとは別に、何か別の理由があるかのようだった。

エルレイドは話し始めた。

「…キミもさっき聞いた通り、サターンは元々ギンガ団のボスであるアカギが何の目的でギンガ団を結成したのかを知るためにあえて話に乗り、ギンガ団に入ったんだ。ちなみに、ボクはその時から既にサターンと共にいたんだ。エルレイドとしてね。」

エルレイドは、どうやらサターンがギンガ団に入った時からエルレイドとしてサターンのもとにいたようだ。

「最初は様子を見るために、アカギの指示に従っていたんだ。何かしら怪しい指示をされれば、そこから本音をあぶり出せると思っていたからね。」

サターンは、ギンガ団に入った時から常に諜報員のように、アカギの言う事に従いつつ、アカギが目的を明らかにするのを待っていた。

時にアカギの指示に乗りつつ、そこからアカギの目的をあぶり出せる機会をサターンは待ち続けていた。

しかし…

「でも、アカギはそれを上回るような形で、全く隙を見せなかった。明らかに怪しい指示を出した時でさえも、疑いを持たなくさせるような理屈を述べて納得させるほどにね…」

明らかに怪しいを超越している事としか言いようのないリッシ湖の爆破を躊躇いなく堂々と行った事がそれを物語っていると言えよう。

エルレイドは、サターンがその作戦を『躊躇いなく堂々と実行した』時からひそかに違和感を覚えていた。

こうした変化は、サターンがリッシ湖を爆破する作戦を実行する前から表れ始めていた。

エルレイドはトレーナーゆえに意見はしなかったが、サターンの言動が明らかに当初よりも変になっている事は常に感じていた。

これもアカギが隙を見せるために今は従っているだけだろうと最初は思っていたが、いつしかエルレイドは、サターンが完全にギンガ団側の人間になってしまっている事に気づいた。

エルレイドは、既に悟っていた。

もはや今の彼は、完全に『ギンガ団のサターン』と化してしまったという事に…

それでもエルレイドはサターンに意見する事は出来ず、サターンがギンガ団に流されてるだけの言動はさらにエスカレートしていく事となった。

そしてついに、リッシ湖でのあの事件に至る事となったのだった…

「当初は確かにアカギの思惑を掴むためにしていたんだけど、そうしてるうちに、サターンはいつしか目的を忘れ、アカギの思惑に染まってしまったんだ…」

サターンは、自らもそう言ったように、元は『アカギの目的を知るためにあえて話に乗ってギンガ団に潜入した』はずだったのだが、いつしかその目的を完全に忘れ、本人も自覚しないうちにギンガ団側に引き込まれてしまったのだった。

ミイラ取りがミイラになるというのは、まさしくこういう事を言うわけだ。

最初は騙されていなかった者が、いつしか本当の目的を完全に忘れる形で向こう側に乗せられるという事が、アカギの人を動かす力の強さをあらためて実感させられる。

エルレイドは、サターンの変わり様に失望していた。

今のサターンはもうギンガ団に潜入する前のサターンじゃない…

もはやトレーナーとしての関係さえ絶たれてしまったに等しいほど、エルレイドはサターンが完全に別人にしか見えなくなってしまったのだった。

エルレイドがリッシ湖でひそかにサターンの指示を聞かずに全て自らの意志で戦っていたのは、礼儀だけでなく『サターンはもう自身のトレーナーの時のサターンではない』と悟っていたからだった。

そしてエルレイドがサターンに見捨てられた時、エルレイドはサターンの『心』はもう完全に自身から離れてしまっていた事を悟ったのだった。

その中で、敵だったナオキが助けてくれただけでなく、新たな仲間として迎え入れてくれた事はエルレイドにとって唯一の、そして本当の救いだった。

エルレイドは話している間、ずっとうつむいていた。

話し終えると、エルレイドは顔を上げた。

「正直、キミの推測が的中した時は驚いたよ。」

「?」

ナオキが反応すると、エルレイドはナオキに言った。

「キミはそれが実際明らかになる前から自らそれを推測して、見事その結論を導き出した…サターンが出来なかった事をキミは成し遂げたんだ。本当にすごい事だよ。」

それに続いて、エルレイドは言った。

「それだけじゃない。キミは、サターンを遥かに超越する『心』を持っているのも驚いたよ。」

「?」

エルレイドはナオキに言った。

「キミは、どんな事を言われてもそれに流されず、常に疑う事を欠かさなかった。サターンでさえ乗せられていた奴の言動に乗せられず、むしろサターンが目的としていた奴の魂胆まで見抜くなんてね…ボクは、キミの方に着いてよかったとあらためて思うよ。」

サターンは最初は普通にアカギが怪しいと思い、その真実を知るために潜入したが、そうなってからはその目的を完全に忘れてしまった形でアカギの言動に乗せれられ、いつしかギンガ団側の人間以外の何者でもない存在に成り果ててしまった。

しかし、ナオキは最初は一理あるという理由のもと、アカギの話に乗るような時はあったが、その度にどうもしっくりこない考えを抱き、それによって一方的に流されず、むしろ真っ先に怪しいと考え、最終的にサターンが知る事が出来なかった真実に辿り着く事が出来たのだった。

エルレイドは、あらためてわかった。

ナオキには、明らかにサターンにはなかった『心』の強さがあるのがという事を…

ナオキもサターン同様アカギの言動に懐疑を抱いていた中で、サターンとは違いそれに一切流されず、最終的にサターンがたどり着けなかった真実にたどり着いたという、サターンを遥かに上回る『心』をナオキは持っていたのだとエルレイドは実感していた。

言い終えた後、エルレイドはしばらくナオキを見続けていた。

それはまるで、何かを考えているようだった。

しばらくナオキを見続けた後、エルレイドはナオキに言った。

「ナオキ、キミに頼みたい事がある。」

「頼みたい事?」

ナオキが言うと、エルレイドはこくりと頷いた。

エルレイドは少し間を置くように、しばらく黙り込んでいた。

それはまるで、再び言う事を躊躇っているからなのか、もしくは『ナオキが聞いてくれるか』不安に思っているかのような雰囲気だった。

エルレイドは、意を決するようにナオキに言った。

「キミなら、サターンを救う事が出来るかもしれない。今日再び会った時、サターンは少しではあるけど、今までと変われてる事を感じた。ギンガ団側になってるのは無論な事だけど、これからの事次第で、サターンをギンガ団から救う事が出来るかもしれない。」

すると、エルレイドはあらためて体勢を整え直すと、ナオキに言った。

「頼む…!あんな事をされたボクが言うのもなんだけど、あれでもボクのトレーナーだった事は変わりないんだ。こんなの、ボクの勝手な理屈かもしれないけど、サターンはアカギに利用され、いつしかあんな事をさせられるほど本当の自分を見失ってしまった被害者なんだ!だから…どうかサターンを救い出してほしい…!」

エルレイドは、ナオキに頭を下げた。

それは、礼儀を重んじるエルレイドにとっては、そのポリシーを捨てるに等しいものだった。

今はまだ敵である相手を、こういう背景があるとはいえ、何より元のトレーナーであるとはいえ、倒すのではなく救い出してほしいと言うなんて…

辺りをしばらく沈黙と、それに彩られるような静寂が漂っていた。

その静寂の中で、エルレイドはただ何も言わず頭を下げ続けていた。

しばらく続いている沈黙が、わずかな時間さえも長い時間が過ぎているようにエルレイドには感じられた。

すると、静寂を破るようにエルレイドに声が聞こえてきた。

「顔を上げなよ、エルレイド。」

「…?」

ナオキの一言に反応して、エルレイドは顔を上げた。

エルレイドの目には、微かに涙がにじんでいた。

その涙は、例え見捨てられても、サターンに対する思いは少なくとも残っている事がエルレイドの『心』に現れている事を伝えているようだった。

エルレイドと目が合った時、ナオキは言った。

「頭を下げすぎるのは、礼儀を重んじている君らしくないよ。そうしてまで頼まなくても、君から頼まれた以上、私は君が言った事を尊重するよ。」

ナオキの一言にエルレイドは一瞬声を詰まらせた。

自分が懇願しているのは、ナオキからすれば敵に塩を送るのを遥かに越えている事だというのに…

少し暇を置いて、エルレイドは言った。

「それじゃあ…」

エルレイドがそう言うと、ナオキはこくりと頷いた。

「君の言う通り、どこまで出来るかはわからないけど、サターンをギンガ団から救い出してみせるよ。」

ナオキがそう言うと、エルレイドは急に表情が明るくなったようにナオキに言った。

「あ…ありがとう…!本当に、サターンを救ってくれるのか…?」

「もちろんだよ。君に私からも言った以上、どうなるかはわからなくても、必ずサターンをギンガ団から救い出してあげるよ。必ずね!」

そう言うと、ナオキはエルレイドに手を差し出した。

エルレイドは、ナオキが手を差し出した事に、今の事とリッシ湖での時を重ね合わせていた。

その『心』での投影が、エルレイドの喜びをさらに上乗せした。

エルレイドは微笑み、ナオキの手を握った。

「ボクも出来る限り、キミに協力するよ。」

エルレイドがそう言うと、ナオキはこくりと頷いた。

ナオキは、エルレイドに言った。

「…君と同様に、必ず救ってみせるよ。サターンには、ひそかに借りがあるからね。」

同時に、ナオキはサターンの借りからサターンの事について、ある事を感じていた。

ナオキがサターンをギンガ団から救い出す事を聞き入れたのは、ひそかにエルレイドに頼まれたからだけではなかった。

ナオキもひそかにそう思っていたのだ。

今は確かに『ギンガ団のサターン』ではあるが、ナオキもエルレイド同様、サターンはリッシ湖で対峙した頃とはひそかに変わっている事を感じていた。

エルレイドからサターンの真実を聞き、ナオキはギンガビルから帰路に着く中でずっと抱いていた懐疑が解消され、『心』から確信したのだった。

サターンは、本当の悪者ではないという事に…

もちろん、今の在り方やこれまでサターンがしてきた事は確かにそうとは思えない以外の何ものでもない事ではあるが、今のナオキにはそれを『心』から払拭するほどサターンの印象が大きく変わりつつあった。

今のナオキは、少なくともサターンをリッシ湖で対峙した時のような見方をする事はもうないであろう。

どこまで出来るかはわからない。

それでもナオキは、エルレイドのため、そして少なくてもギンガビルでの借りを返すため、サターンを救うために出来る限りの事をやろうと『心』に誓ったのだった。

ナオキ達はあらためて帰路に着いた。

ナオキは一旦立ち止まり、トバリシティの方を向くと、再び振り返ってその場を後にした。

 

 

 


トバリシティのギンガビルは、動き出す気配のない沈黙を続けている。

いずれはそれが破られる事をひそかに示しながら…