舞っていた砂けむりは、ナオキの姿をいまだに覆い隠していた。

その中から、ナオキの声が聞こえてきた。

「貴様の悪行…もはや見逃す事なんて論外なほどできない事…貴様のふざけた野望を、跡形もなく打ち砕き、シンオウ地方の…いや、この世界の平和を護って見せる!」

ナオキのこの一言と共に、砂けむりが晴れ渡っていった。

砂けむりが晴れ渡った時、隠されていたナオキの姿が明らかになった。

「このトライス・ライト、『グロリアス・フォルム』がね!!」

明らかとなったナオキの姿は、今までのナオキの変身していた姿とはかけ離れた、それどころか今までを完全に超越しているものだった。

羽織っていた服は、さらに強化された鎧のようなものになり、その背中にはエアトスの翼がさらに強化された形で生えている。

そして何より、持っているトライス・ソードは普段強化モードにした時とは大きくかけ離れた大きくそして強大な力を感じさせるオーラを放った剣になっていた。

その刃渡りからは、先ほどの『時の咆哮』を薙ぎ払ったのが証明されるように、煙が出ていた。

「ナオキ、その姿は?」

マグマラシは、ナオキに言った。

「このフォルムは、『グロリアス・フォルム』って言うんだ。トライスさんの形態の中で、一番強大な形態で、その力はトライスさんも知らないほどの規模らしいんだ。」

ナオキは、腕を上げた。

ふと見ると、その手首にいつもついていたはずの金色の腕輪のようなものがなかった。

「私は、普段ここに腕輪のようなものをつけてるんだけど、これは飾りじゃなかったんだ。あれは、『守護者の腕輪(ガーディアン・リング)』と言って、この形態を封印するためにつけられていたんだ。」

ふと見ると、ナオキの近くに外れた腕輪のようなものが落ちていた。

さっきの何かが外れる音は、ナオキがこれを外した音だったのだ。

アカギは予想を遥かに上回る光景を目の当たりにして、初めて慌てた様子を見せた。

「ま…まさか…あの技を剣で受けとめるどころか、薙ぎ払ってしまうとは…何て奴だ…」

その時、アカギはふとナオキの様子を見た。

「…!」

その瞬間、アカギは再び冷静な表情に戻った。

「ふ、その様子から見るとその形態はかなりの負担になるようだな。」

アカギは、すぐにナオキの実状を見抜いた。

ナオキが激しい息継ぎをしているのは、一目でわかるほど鮮明な事だった。

「あの技を剣で薙ぎ払われた時は、一瞬どうなるかと思ったが、それでは満足に戦い続ける事はできまい。」

アカギの言っている事は全てにおいてもっともだった。

ナオキの状態は、先ほどの技を薙ぎ払った時でもかなり響いたらしく、どうにか立ち止まれているという事がわかるほどガタが出ていた。

この状態では、もはやごまかしは効かないのは見えていた。

すると、ナオキは言った。

「戦い『続ける』必要なんかないさ。」

「?」

アカギが、ナオキの一言に反応した時、ナオキは言った。

「次の一撃で、貴様のふざけた野望を粉々に粉砕してやるよ!剣だけでこの威力なら、次の一撃で全てが決まるとわかったからね。」

ナオキは、先ほどの事でこのフォルムはそれ以上の力がある事がわかり、それはさらなる本気を出せば、この相手でも勝てるという確信を持ったからだという様子で言った。

しかし、その余裕ぶってるような中でナオキはひそかに焦っていた。

(このフォルムといい、エアトスさんの力といい…予想以上に負担になってるのはわかる…しかも、エアトスさんが言っていた事…やっぱり慣れない事はするものじゃないという事か…)

強大な力には必ずそれに見合う負担や代償があるもの。

それは、ガーディアンの力も例外じゃないようだ。

そして、ナオキが言う『エアトスが言っていた事』は、それとは何か別の事があるような雰囲気だった。

ナオキは、アカギの方を向いた。

(く…奴を挑発できたから狙い通りになれたと思ったけど、もう冷静さを取り戻すなんて…)

ナオキが、アカギを挑発したのは、覚悟じゃなく、『狙い』だった。

ナオキがアカギを挑発したの目的は、それに対する報復をこの『グロリアス・フォルム』の力で回避できる可能性があるもと、それによってアカギの判断力を奪うためだったのだ。

しかし、狙い通りアカギに癇癪を起こさせたのはうまくいったのだが、計算外な事にナオキがそう長く戦えない事がわかった瞬間、アカギはあっさり冷静さを取り戻してしまった。

せっかくの作戦も元の木阿弥になり、初めてとはいえ、このフォルムも長く戦えないという状況がナオキをさらに焦らせた。

「…!」

その時、ナオキはふとディアルガを見た。

その瞬間、ナオキはディアルガから何かを感じ取った。

少し黙りこんだ後、ナオキは言った。

「…ディアルガ。君も本当はそう思ってるんだね…」

「?」

ナオキの突拍子もない一言にアカギは、ピクリと反応した。

ナオキは言った。

「ディアルガ、君だって本当はこんな事はしたくないんでしょ!?私には、わかる!君の『心』が私にそう言ってるんだって!」

ナオキは、ディアルガの心に訴えるように言った。

ナオキは、気づいていた。

ディアルガから伝わるディアルガの苦しみ、そして…

ディアルガからこぼれている涙の存在に…

それに対して、アカギは言った。

「くだらん!何が心だ!そんなものはまやかしだと言っただろう。」

「それは貴様の考えだけだろ!貴様には、見えないのか!貴様の言う、目に見える存在としてディアルガの心が現れたとしても!」

ナオキの言う『見える存在として現れた心』とは、ディアルガが流した涙だった。

ナオキは、見える存在、見えない存在共にディアルガの心を感じ取っていたのだ。

しかし、見える存在であっても、心そのものを否定しているアカギにはそれは通用しなかった。

「ふん。ならばもういい加減こんな茶番は終わりにしよう。」

アカギは、ディアルガの方を向いた。

「今こそ、この世界を破壊し、新たな世界を築く!私とディアルガ以外の存在を全て無に帰すのだ!」

アカギが言うと、ディアルガが咆哮して、そこから大きなオーラが発生した。

その影響が及んだ場所は、存在そのものに及んでいるように、姿形が歪み、崩壊していった。

「やりのはしらの周囲のものが崩壊していってる…」

「ディアルガの影響で、存在そのものが時の流れによって消されていってるのか…?」

レントラーとエルレイドが言った。

もはや、ここにいるポケモン達はそれを見ている事しかできなかった。

その中で、マグマラシだけどうにか動こうとした。

「くっ…ナオキ、オレも…」

マグマラシは、残された力を振り絞るように、ナオキの方に向かおうとした。

しかし、ナオキがそれを察知したように後ろを向いたままマグマラシに言った。

「今回はいいよ、マグマラシ。」

「…!?」

ナオキの一言に、マグマラシは一瞬動きを止めた。

「…私は、いつも君達に色々戦ってもらったり、君達ポケモンに色んな事をさせてばかりいた…。ポケモンと同じ力を持ち、それと同格の立場になってるのに、結局ポケモンばかりに任せてるのもどうかと思ってさ…」

マグマラシは、ナオキが言いだした事に懐疑を抱いた。

実際、確かにナオキは戦わず、ポケモンだけが戦う事はある…

でもそれは、大抵たいした相手じゃなく、それなりの強敵であれば、ナオキは普通に参戦している…

今だってそうだ。

頼りだと言っているポケモン達が戦意をなくしている中、ナオキはそれでもみんなに代わるように戦いに臨んでいる…

それなのに、ナオキがわざわざ本人もそうじゃないとわかっているにも関わらず、こんな事をわざわざ言うなんて…

マグマラシの中に、今までにない大きな不安がよぎった。

「ナオキ…まさか…」

マグマラシがそう言うと、ナオキはその後をかき消すように言った。

「…まあそういう事もあるのと…こういう局面は、なかなかないのもあるからさ…たまには、私にも、いいところ取らせてよ。」

「!」

マグマラシはすぐに察知した。

この陽気そうな雰囲気に潜む、ナオキの本音を…

ナオキは剣を構えた。

「この一撃で、全てを決する!!」

「ナオキ!」

ナオキは、全身から今までにないオーラを発した。

そのオーラは、二つの剣に集約され、剣全体が輝きだした。

その瞬間、ナオキは技を放った。

「『テラ・グロリアス』!!!」

ナオキの大きな掛け声と共に、これまでにない最大規模の大きな光の塊が放たれた。

放たれた光の塊は、まっすぐ飛んでいき、ディアルガに命中した。

しかし、多少の効果はあったが、ディアルガはびくともしなかった。

(く…やはり、さっきの技の影響と、エアトスさんが自身の力を怖れて力を全力で出せない事が響いてるのか…完全に押されている…!)

ディアルガの影響がナオキに迫っていく。

ディアルガの影響が及べば、ナオキは跡形もなく消される。

それでも、ナオキは全てが続く限り、技を撃ち続けていた。

「逃げろナオキーーーーーー!」

マグマラシはナオキに叫んだ。

しかし、その瞬間、ついにナオキにディアルガの影響が襲い掛かった。

「ナオキーーーーーーーーーー!!」

やりのはしらに、ポケモン達の叫びが響き渡った。







その時…





パァァァ…





ディアルガの影響がナオキを呑み込もうとした瞬間、ナオキは大きな光に包まれた。

ディアルガの影響の中にいながら、ナオキは消えていなかった。

そこへ…

「…!」

ナオキの目の前に、見覚えのあるポケモン達が現れた。

それは、あの湖の三大レジェンド達だった。

「君達は…」

「間に合ったようだね。」

そう言ったのは、意志の神、アグノムだった。

「ごめんなさい、祠で体力を回復していたので遅くなってしまいましたが、間に合ってよかったです。」

そう言ったのは、知識の神、ユクシーだった。

「キミが伝えていた心の声、感情を通してボク達にしっかり届いていたよ。」

そう言ったのは、感情の神、エムリットだった。

「どうして君達がここに?」

アグノムが言った。

「今こそボク達がキミ達の力になる時だと思ったからだよ!どんな境遇になっても、キミは諦めてなかった。その意志がボク達を呼び寄せたんだ!」

続いてユクシーが言った。

「ナオキさん、私達が今から力を貸します。あなたは、ディアルガを縛っているあの『あかいくさり』を狙ってください。」

エムリットが続けて言った。

「ボク達は、あいつによって限界を超える力を搾り取られた。だから、ボク達だけの力じゃあれは壊せないんだ。でも、キミがいれば出来る。だから、協力してほしい!」

ナオキの答えは決まっていた。

「わかった!それじゃあ、お願いするよ!」

そう言って、ナオキは剣を構えた。

三大レジェンド達は、ディアルガの方へ飛んでいった。

三匹はそれぞれ、三角の位置になるように着いた。

そして、三匹は額の石のようなものを光らせた。

すると、ディアルガを縛っている『あかいくさり』がきしむ音を立てた。

「今だよ!」

エムリットがナオキに言った。

「OK!『テラ・グロリアス』!!!」

ナオキは全身全霊を込めた勢いで技を放った。

その技は、ディアルガに当たり、同時に『あかいくさり』全体にも着弾した。

『あかいくさり』のきしむ音は大きくなっていった。

そして…






パキィン!!







ディアルガを縛っていた『あかいくさり』が音を立てて砕けた。

その瞬間…







ゴオオオオオオオオ!!







ディアルガの周りに物凄い勢いが発生して全体に広がっていった。

「ぐおおおおお!!」

近くにいたアカギは、勢いよく遠くへ吹っ飛ばされた。

やりのはしらに全てを包みこむ大きな轟音が響き渡り、やがてそこは静寂に包まれていった。