「誰だ!?何だ、今のは?」

サターンは、鳴き声のした方向を向いた。

それに続くように、ナオキも鳴き声のした方を向いた。

「オレの特性、『威嚇』だぜ。」

「…!」

先にその存在に気づいたのは、ナオキの方だった。

「咄嗟に『威嚇』をしてみたが、どうやら間に合ったみてえだな。」

「ムクホーク!」

ナオキの見た方向には、ムクホークがいた。

さっき響いた鳴き声は、ムクホークの『威嚇』によるものだったのである。

その後に、もう一人の姿があった。

「!」

その姿に先に反応したのは、サターンの方だった。

「ずるいじゃないか、こんな戦いにボク達を参加させてくれないなんて。あの時からボク達は仲間になったんだろ?仲間なら、境遇を分かち合うのが礼儀というものじゃないか。」

そう言って姿を現したのは、エルレイドだった。

「エルレイド!もう大丈夫なの?」

「ああ。ドクロッグの攻撃を受けた時は危なかったけど、キミが看病してくれたのと、あの不思議な場所に行ったおかげもあるのか、もうすっかり元気になったよ。ありがとう。」

エルレイドは、あの後ムクホークに連れられて、ナオキ達の本拠地である『聖地エレメンタル』に行っていた。

聖地エレメンタルは、善の心を持つ者じゃなくては入れないのだが、エルレイドがサターンに見捨てられた事、元々礼儀正しい性格で、戦っていたのも、サターンの命令よりも、あくまで『エルレイド自身の意志のもと、邪魔者を排除する事じゃなく、正々堂々とバトルがしたかった』という目的があったので、エルレイド自身は元々悪いポケモンじゃなかったというわけで、普通に入れたのだろう。

「君が無事戻ってきてくれてなによりだよ、エルレイド。」

「ああ。本当にありがとう、ナオキ。」

そう言ってエルレイドとナオキは互いに握手を交わした。

その様子をサターンは、憎らしそうな様子で見ていた。

その様子は、攻撃をとめられた事よりも、エルレイド本人だけに向けられている憎悪のように思えた。

「エルレイド…!」

サターンがそう言うと、エルレイドはサターンの方を向いた。

「役立たずと思い、もう用済みで処分したと思えば、そんな奴のもとに着いていたとはな…このくたばり損ないが…!」

憎悪の念にあるサターンとは対極に、援軍が現れた事で、冷静さを取り戻したらしく、ナオキは落ち着いた口調で言った。

「一時は本当にどうなるかと思ったけど、見事などんでん返しになったようだね。貴様が仲間を見捨てた報いが今まさに返ってきたというわけだ。」

ナオキがそう言うと、それに続くようにエルレイドが言った。

「仲間であるはずのボクをあんな形で見捨てたキミに言われる筋合いも資格もないね。元のトレーナーがキミであっても、敵であったにもかかわらず、見捨てられたボクをこうして助けてくれた彼の方がよっぽどマシだ。」

エルレイドがそう言うと、ナオキはサターンの方を向いて言った。

「そういうわけだ。エルレイドが貴様のポケモンだったのはもう今に戻る事はない過去の話。エルレイドは、共に闘い、その実力をお互い認め合い、そして共に誓い合った私達の仲間だ!」

「く…」

もっともな事を言われたサターンは、反論できず、言葉を詰まらせた。

そう言ったナオキにエルレイドは顔を向けた。

その見つめる瞳は、あの時の想いを表すような光に満ちていた。

「…まあ、いい。いずれにせよ好都合だ。自らやられにきたならば、役立たずの裏切り者として始末するまで!今度は、二人共生き延びる隙も与えんぞ!」

そう言ったサターンの目つきは今まで以上の殺気に満ちていた。

しかし、ナオキは全く動じていなかった。

「何度も言わせるな。真の裏切り者は、エルレイドをあんな形で見捨てた貴様の方だ。そんな貴様なんかに、エルレイドを裏切り者とも、役立たず呼ばわりする資格はない!」

その後に続いて、エルレイドが話し始めた。

「ボクとキミが最初にいた頃は、ボクにあんな事をするのに限らず、リッシ湖であんな事までするようになるとは思いもしなかったよ。キミもすっかり変わったな…一体いつからかつての礼儀を忘れてしまったんだ。」

「…え?」

ナオキは、エルレイドが言った事にふと反応した。

その事に考える暇を与えないように、サターンは言った。

「ふん。このまま水掛け論を続けていても埒が開かない。誰が来ようが同じ事。今度という今度こそ邪魔者は排除する!」

エルレイドの方を向いていたナオキは、サターンのこの一言に反応して視点をサターンの方に戻した。

「ムクホーク、マグマラシとレントラーをお願い。」

「わかったぜ。おめえは大丈夫なのか?」

「一応大丈夫だよ。私は、二人と比べたらそれほどじゃない方だからね。」

ナオキは、剣を構え直すと、数歩前に進んだ。

「確かにそうには思えるけど、今の状態で残されたポケモンと戦うのは難しいね。キミは後にして、ここはボクとロズレイドにまかせて。」

エルレイドは、ナオキの方を向いて言った。

ナオキも、それがナオキ自身の状態を本気でわかっているうえで言った事だと、エルレイドの目から読み取っていた。

「わかった。それじゃあ、よろしく。」

エルレイドは、小さく微笑みこくりと頷くと、キッとした目つきでサターンの方を向いた。

「きたか、この役立たずの裏切り者め…あの時は、処分し損なったが、今度はそいつが助ける暇も与えずに始末してやる!」

殺気に満ちた顔でそう言ったサターンをエルレイドは、しばらく黙って見ていた。

その中で、エルレイドはふと考えていた。

(サターン…キミは一体いつからこんな風になったんだ…?)

そう考えるエルレイドの目は、少し悲しそうな雰囲気を醸し出しているようだった。

「いくぞ!」

その一言と共に、バトルが始まった。

最初に襲ってきたのは、ドーミラーだった。

「ドーミラー、神通力!」

ドーミラーの念力がロズレイドを襲った。

その時…

パシィン!

咄嗟にエルレイドが前に現れ、その攻撃を防いだ。

「く…『みきり』か…小癪なマネを…」

サターンは癇癪を起した様子で言った。

「隙あり、『マジカルリーフ』!」

ズガガガガガガガガ!

ロズレイドは、すかさずドーミラーに技をぶつけた。

効果は今一つだったが、咄嗟の防御と攻撃に見舞われたドーミラーにはそれなりの打撃になったようで、ドーミラーは体制を崩した。

「おのれ…!ならば、ユンゲラー、いけ!」

サターンがそう呼びかけた瞬間…

「おっと、そんな暇は与えないよ!」

エルレイドがすかさずユンゲラーのもとに飛びかかった。

「何っ?」

「『リーフブレード』!」

ザシュ!

エルレイドの正確な斬撃を受け、ユンゲラーは反撃する暇もないままふっ飛ばされた。

「キミは素早さがある分、防御が低い。たとえ普通の威力の技でも、それなりの威力さえあればキミに反撃の暇を与えない事など、わけない事だ。」

「すごい…あのエルレイド…ナオキさんに負けないくらいの戦略に富んだポケモンですわ…」

ロズレイドは、あらためてたのもしい仲間を得たと実感した。

その時…

「…おっと!」

ロズレイドは、咄嗟に技を放ち、ドーミラーの攻撃を防いだ。

「よそ見をしてる場合じゃありませんでしたわ。私も戦わないと。」

ロズレイドは、ドーミラーの方を向いた。

(でも、私の持ってる技のほとんどは鋼タイプには今一つの技が多いですわ…ぶつけていてもたいしたダメージにならない以上、このままではいつまで経っても埒が開きませんわ…)

どうにか反撃はできているものの、ロズレイドの技は基本草タイプが多く、もう一つのタイプは鋼には一切効果がないタイプだったので、明らかに不利だった。

(せめて、エルレイドみたいに、私にも他のタイプの技があれば…)

ロズレイドがそう考えた時…

(…そういえば、以前ナオキさんが…)

ロズレイドは、ふとある日の事を思い出した。

(…そうですわ!)

ロズレイドは、何かひらめいたような反応をした。

ロズレイドは、両手のブーケを構えた。

「ふん、また『マジカルリーフ』か、はたまた『リーフストーム』のどっちかか?そんな技、いくらぶつけようがたいした事はない!今度こそトドメをさせ、ドーミラー!」

サターンのこの一声と共に、ドーミラーが襲い掛かった。

「この技にかけますわ!」

そう言うと、ロズレイドは一旦目を閉じた。

そのロズレイドに、ドーミラーが隙ありと言わんばかりに襲い掛かる。

その瞬間、ロズレイドはカッと目を開いた。

「くらいなさい、『ウェザーボール』!」

その一言と共に、ロズレイドのブーケから、火の玉が放たれた。

「何だと!」

予想外の光景にサターンは唖然とした。

その瞬間…

ドゴオオオオオン!

火の玉はドーミラーに着弾すると、轟音を発しながら爆発した。

このドーミラーの特性は『ふゆう』だったらしく、この一撃が決定打となり、ドーミラーは地面に墜落して戦闘不能となった。

「ば…バカな…日差しが強い状態じゃないのに、なぜ『ウェザーボール』が炎タイプになったんだ?」

 

「私達は、普通のポケモンとはかけ離れた特別な力を持っているんだ。この技もその一つなのさ。」

ナオキは、サターンに言った。

「思った通りでしたわ。」

ロズレイドは嬉しそうに言った。

ロズレイドが思い出していたのは、ある日ナオキから話を聞いた時の事だった。

ナオキは、ロズレイドに、他にどんな技を持っているのかをひそかに聞いていた。

その際に、ロズレイドは『マルチで対応できるように』という目的で、『ウェザーボール』を覚えている事をナオキに教えた。

その時にナオキはこんな事を教えていたのだ。

(それってポワルンみたいに天候によってタイプが変わる技だよね。それなら、ガーディアンの力を得た君なら天候に関係なく好きなタイプの技として撃てるようになってるよ。君は草タイプの技が偏ってる方だからちょうどよかったね。)

「ここのところずっと草タイプのメイン技を使えば済む境遇ばかりだったので、この技の事をすっかり忘れていたんですわ。でも、エルレイドが『他の自分のタイプじゃない技』を使っているのを見て、『私にも他のタイプの技があれば…』と考えた時にやっと思い出したんですわ。」

「そうだったんだ。見事だよ、ロズレイド。」

エルレイドは、すごく感心していた。

「ありがとうですわ。」

ロズレイドは、満面の笑みでエルレイドに言った。

「!」

その時、エルレイドはぴくりと反応した。



ガキィン!



エルレイドは、咄嗟に肘の刃で攻撃を受け止めた。

襲いかかってきたのは、ドクロッグだった。

「キミか…相変わらずの不意討ちとはやってくれるじゃないか。」

エルレイドは、刃を爪の先に当たらない位置に当てて攻撃を止めていた。

「く…」

不意討ちに失敗したサターンは、顔をしかめた。

「余韻に浸るのはまだ早いというわけだね。それじゃあ、試合再開といこうか。」

エルレイドは、ドクロッグを振り払い、体制を立て直した。

「ありがとうロズレイド、キミは下がってて。」

「わかりましたわ。」

ロズレイドは、後ろへ下がっていった。

「ふん、ロズレイドを下げたか…今度はどう戦うつもりだ?」

サターンがそう言うと、エルレイドは瞳だけを動かして後ろを見た。

少し間を置くと、エルレイドは向きを変えて言った。

「今度はキミと戦いたい。」

エルレイドは、真っ直ぐ向いた方にいる相手に言った。

そこにいたのは、ナオキだった。