雪が降り注ぐ大地 廃墟となった街を包み込むように雪が積もっていく そこに雪と同じ色を持った存在がぽつんと立ちすくんでいた そこにいたのは、一匹の白猫だった 赤と青のオッドアイは、開かれていてもそこに生気は感じられなかった
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白猫はうなだれたまま、その場に立ちすくんでいた 少しして、白猫はようやく頭を上げた 赤と青のオッドアイには、夜空の黒とそこから降り注ぐ雪の白が映っていた
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白猫は前足をかざした かざした白猫の手のひらに、降り注ぐ白い雪が触れては積もる事なく、溶けては消えてを繰り返している そこに白猫は自らの存在に限らない、あらゆる儚い存在を重ね合わせた
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白猫の中に、かつて憎らしく思っていた黒猫の姿が浮かんだ ここ―地球儀に到着できた事を喜ぶ憎らしくも、本当は愛していた大切な黒猫の姿を…(…今はどんな気持ちなんだ…?)
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黒猫は何て答えてくれているだろう… 少なくともわかるのは、黒猫はすぐに『すごく嬉しかったよ!誰も遂げられなかった事を成し遂げられたんだから!これも焔のおかげだよ!』と答えているだろう、という事
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けれど、そうはわかっていても…そう白猫の頭の中でとらえていても… 白猫の周囲もその心の中もしーんと静まり返っていた 白猫はわかっていた 俺が答えても、黒猫―幽が答えても…もう何も聞こえないのだと…
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白猫は、近くに置いてあったものを手に取った それは枯れた一輪の花と…束ねられた数十本ほどの黒い毛だった (最後の一輪も枯れちまった…あいつが残してくれた…あいつの面影…あいつそのものでもあった…この最後のデンファレも…)
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このデンファレと黒い毛は、トルクで憎みつつも感化され、共に旅にした黒猫、『幽』の形見だった あの日…勝ち逃げされた憎しみとそこに隠された本当の思いのもと、ようやく宇宙船を手に入れた白猫は、地球儀を目指して飛び立ち、この地に降り立った
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地球儀に到着した白猫は、黒猫を探した 地球儀は人類はともかく、他の生物もいなかった それはまるで黒猫さえもいないかのような雰囲気だった そんな時…白猫はデンファレの導きのもと、たどり着いた教会のような建物で真実を知ったのだった
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それから白猫は、ずっとここにとどまっていた トルクに戻る気力もなく、いやもうそれ以前に嫌われ者であり、唯一のファンさえも失い天涯孤独となり、何より黒猫を追って地球儀に向かった身である以上、もう帰る場所さえなかったのだ
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白猫は黒猫の事を考えていた (あいつ…ここに着いた後、ずっと独りでいたんだろうなぁ…もうトルクに戻れねえ事になんのにあんな夢なんか持ってよ…その後の事は考えてなかったんだろうな…)地球儀に独りぽつんと寂しく過ごす黒猫の姿が浮かんだ
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(へっ…俺に嘘ついて勝ち逃げなんかすっからそうなったんだよ…スパイラルダイブには勝てただろうけど、猫生には負けたんだよ!最後の最後じゃあ俺の勝ちだな!独りでそりゃあ苦しかっただろうさ、寂しかっただろうさ…へっ、ざまあみろってんだ!)
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白猫は勝ち誇ったような振る舞いをしつつも、雪の中にいるからか、手は震えていた (『苦しい』って俺に言えよ…『寂しい』って言って俺に泣きついてこいよ…俺が何処でも迎えに行くからよ…そうすりゃあ、その無様な姿拝めて勝ち逃げをチャラにできるからな…)
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(来ねえのかよ…また勝ち逃げか…?何処にも行くんじゃねえよ…勝ち逃げして俺をこんなところに置いてくんじゃねえよ…また勝ち逃げしようってのかよ…異端者無勢でよ…逃げ続けるだけの猫生しか生きれなかった癖によ…)
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(俺達は、宿敵だろ…俺達は腐れ縁だろ…あんま言いたくねえけど、一応仲間ってやつなんだろ…どんな形であっても…俺達はずっと…) 白猫の震えはさっきよりも強くなっていった (二人で一つだろ…!)
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降りしきる雪の中、雪と同じ色を持つ一匹の猫は、一人震えていた 覆われた白い毛は寒さをしのげている方だったが、白猫はそれでも震え続けていた
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白猫はわざとらしく、違和感のような気持ちを抱いていた (俺はあいつの事が嫌いだったんだぞ…俺のドルゴンとも言える立場を12秒で奪いやがった憎らしい存在だったんだぞ…俺は憎らしいあいつをぶちのめすために旅をしてたんだぞ…俺はあいつが大嫌いだったんだぞ…)
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白猫の中に荒ぶるような心境がよぎっていた (なのに…) 白猫は、手を見た (…なんだよ…これ…) そこには、溶けた雪とは違う水のようなものがあった (なんで俺は…泣いてるんだ…) かざした手に雪よりも多い勢いで立て続けにポタポタと滴が落ちていった
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その涙は、黒猫の事を憎いと思えば思うほど表面の感情を押し退けるように流れていった あいつの事を憎く思っていたはずなのに…あいつなんか楽の代わりに大集会に始末されちまえばよかったのに…わざわざそう思えば思うほど、白猫の涙はさらに流れていった
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白猫は、黒猫に対して『わざわざ』憎らしく思うのを止めた それでもまだ時折涙は頬をつたっていた その頬には涙の後が凍るような形で残されていた
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白猫は、空を見上げた 空は白猫の涙とは裏腹に、さっきよりさらに降っていた 白猫は、空を見て思った (この世界に…天使だとか…神様だとか…『夢を叶えてくれる存在』はいるのかよ…)
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(叶うなら、今までの俺だったら『ドルゴンの称号を持てる実力を…幽を倒せる実力をくれ』とかだっただろうなぁ…)しかし、今の白猫にはそんな称号など栄光に限らない存在とはいえ、もう必要なかった
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(…でも、今の俺はもう違う…夢が叶うなら…今の俺が願うのは…)白猫は下を向いた その中に再びかつて憎らしく思っていた存在が浮かぶ
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白猫は、一枚の紙を持った (あの時みたいに…あいつの声が聞きたい…俺の声を奪い去って、あいつに与えて…あいつの…俺に対する本当の気持ちの声を聞かせてもらいたい…) 白猫はその紙を開いた
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そこには、一言だけ書かれていた 白猫にはそれだけでもう充分だった 『焔 大好きだよ』 その紙に書かれた黒猫の本当の気持ちは、もうあの時みたいに白猫の心には聞こえてこなかった 白猫の心に降りしきる雪がその声を消してしまったように…
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白猫は、ようやく本当の気持ちを表に出した あの時も、本当に思いながらもずっとわざわざ心にしまいこんでいた『本当の』気持ちを…
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『幽…俺だって…本当は、好きだった…今でも…大好きだ…』ようやく白猫は、本当の気持ちを声に出せた しかし、それもすぐに手に積もっては溶けていく雪のようにすぐに消えてしまった
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どうしてこの気持ちをすぐに言えなかったんだろう…感化された時からもうそんな気持ちは既にあった なのになぜわざわざあいつを憎んでしまっていたんだろう…憎んでいても勝てる事に通じるはずがないのに…
4/7 17:12
『大好きだ』その一言さえ言えないまま、あいつとの世界は永久に閉ざされてしまった…全てが遅すぎたのだ…どんなに心を込めても、地球儀に響くほど叫んでも、もうその思いは、届かない… 愛しい黒猫は、姿も声も、もう…いない…
4/7 17:12
白猫は、下を向いた うなだれたまま白猫は小さく震えた 白猫の足元には積もった雪に重なるように雪が降り続いていた そこに、雪とは違うものが落ちていった
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その落ちていったものは、積もらないどころか、積もっていた雪を溶かしていた 落ちる度に積もっていた雪は溶けていった 雪の降るペースを越えて、それは立て続けに落ちては雪を溶かしていった
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白猫は、降りしきる雪の中、下を向いたまま泣いていた さっきよりも一回り大きい粒の涙は、立て続けに流れては地面に落ちていった 白猫は震えながら泣いていた そこには黒猫に対する様々な本当の気持ちがよぎっていた
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白猫は、空を見上げるように勢いおく顔を上げた 『あああああああああああああああああああ!!!』 白猫は空を見上げ、大声で泣き叫んだ 『あああああああああああああああああああ!!!』静かに降りしきる雪の中、一人大きく泣き叫ぶ白猫の声が響き渡っていた
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しばらくして、白猫は泣き止んだ 雪は止まずになおも降り続いていた 泣き止んだ白猫の赤と少し赤みをおびた青い目には、もう生気は感じられなかった 白猫は力尽きるようにその場に崩れた
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周囲の環境に合わさるように、白猫はうつ伏せに倒れ込んでいた その姿にはもう起き上がる意思さえなかった それでも白猫は少しだけ小さく微笑んでいた
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(なあ…俺と同じ色を持った『雪』とやらよ…もしも夢を叶えてくれる存在だったら…最後に聞いてくれるか…?) 白猫は、ふと流し目である方向を見た そこには枯れたデンファレと束ねられた黒い毛、そして一枚の紙があった
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(このまま降り続けて…俺の全てを包み込んでくれないか…?なぜかはわかんねえけど…そうすれば、あいつのもとに行ける気がするんだ…そんな気がしてな…)白猫は、薄れる中でにそう思っていた
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(白猫だから俺を包み込んでも、違和感とかねえだろ…?そして出来るんなら…俺をあいつのもとに連れていってほしいんだ…火星儀でも水星儀でもどこでもいい…あいつがいる場所だったら、どこにでも連れていってくれ…)
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白猫は積もっていく雪を最後に静かに目を閉じた (そうなれたら、俺もあいつの音のない声を聞けるようになれる…俺の本当の気持ちを全部伝えられる…今度こそずっと一緒にいられる…それさえ叶えれば…もう充分だ…)
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(だから…あいつと共に俺を…全て包み込んでくれ…白く…) これを最後に、白猫の意識は途切れた その中で白猫は、最後にどこからか黒猫の声が聞こえたような気がした 降りしきる雪の中、幸せそうにほほ笑む白猫に、全てを包み込むように、雪は静かに降り積もっていった (了)
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