マグマラシとニューラの激突はさらに続いた。

「マグマラシ、火炎放射!」

「ニューラ、きりさく!」

先手を取ったのはマグマラシだった。

背中の炎を燃え上がらせ、大きく息を吸い込み口から灼熱の炎を放った。

バッ!

「!」

ニューラは、それをひらりとかわした。

「マグマラシ、右に避けて!」

「くっ…!」

マグマラシは咄嗟にナオキに言われた通り、右へサイドステップをするようにニューラの一撃をかわした。

「やっぱりニューラは速過ぎるぜ…攻撃してもかわされちまう…どうすりゃいいんだ…」

マグマラシは、瞳だけを動かしてナオキの方を見た。

ナオキは、ぱっと見でわかるほど焦りを見せるような顔をしていた。

(ナオキも苦戦してるなんて…ボスとはいえ今回オレ達はやばい奴を相手にしちまったって事か…こいつはやべえな…)

マグマラシは、頬に汗をかきながら流し目で見ていた瞳を元の視点に戻した。

ナオキ達が今までにない焦りを見せている一方で、アカギの方は対峙した時と同じくらい表情を変えていなかった。

「どうした?防戦一方じゃないか。さっきの逆転劇はまぐれだったのかね?」

アカギの余裕を持った言動がナオキの焦りをさらに上乗せした。

「こないのなら、こちらからいかせてもらう。ニューラ、みだれひっかき!」

バッ!

ニューラは、ものすごいスピードでマグマラシに飛び掛かった。

「マグマラシ、避けて!」

「くっ!」

マグマラシは、横に飛んでニューラの攻撃をかわした。

「隙だらけだぞ。」

「!?」

マグマラシが攻撃をかわした瞬間、ニューラが素早い動きで向きを変え、かぎ爪を光らせた。

「ニューラ、だましうち!」

ドガッ!!

「がっ!!」

ズザザザザ…

背後から攻撃を直にくらったマグマラシは、地面に引きずられるように遠くへ飛ばされた。

「マグマラシ!」

「ぐっ…」

マグマラシは踏ん張るようにしてどうにか立ち上がった。

「ふぅ…まだ大丈夫みたいだね…」

ナオキは、額に汗をかきながら胸を撫で下ろした。

(…とはいえ…マグマラシももう限界が近いのは明らかだ…ニューラの方は、まだ一打も受けてない…マグマラシがさっきの一撃で倒れなかったのは幸いしたけど、次はない…)

ナオキの表情には、先程以上の焦りが出ていた。

その一方で、アカギは顔色一つ変えない涼しい表情だった。

(これ以上長く戦い続ければ、攻撃を受ける前にマグマラシの体力がなくなるのは確実…だとしたら、次の一撃で決めなきゃ勝機はないと思った方がいい…だが、私達の方から攻めてもあの素早さでは簡単にかわされる…そうなっちゃえば、今度こそ確実に私達の負けだ…何か確実に技を当てる方法は…)

ナオキは、今まで以上に考えを巡らせた。

相手も相手なので、そう長く考えてるわけにはいかない。

そのプレッシャーがナオキの思考を阻害した。

「ナオキ…」

満身創痍のマグマラシは、心配そうな目でナオキを見ていた。

ナオキはマグマラシと目を合わせた。

心配そうな目で見ているマグマラシにナオキは小さく微笑んだ。

「大丈夫だよ、マグマラシ。君がまだ負けてない以上、私も最後まで戦う。そして必ず勝ってみせるよ。マグマラシ、心配してくれてありがとう。」

そのマグマラシに言った一言がナオキの心を少し落ち着かせてくれた。

その時…

ナオキの中に白い閃光が過ぎった。

(…よし!今こそ『あの技』を使う時だ!)

ナオキは、マグマラシに駆け寄った。

「マグマラシ、これが最後のチャンスだよ。聞いて…」

ナオキは、マグマラシに耳打ちで何かを話した。

「…わかったぜ!必ずそのやり方で決めてみせる!」

「頼んだよ。」

そう言うと、ナオキとマグマラシは前を向いた。

「またも何やら作戦を考えついたようだな。だが、そのいつ倒れてもおかしくない状態で無傷のニューラを倒す事はできるのかね?」

「それは、私のマグマラシを倒してから言うんだね!いくぞ!」

マグマラシは、前足を踏ん張るように構え、相手をキッと睨み付けた。

「マグマラシ、影分身!!」

「おう、いくぜ!」

マグマラシは、体制を構えた。

その瞬間…

シュババババババ!!

風を切るような音と共に、マグマラシの分身がたくさん現れた。

「す…すごい!キミって影分身が使えたんだ!」

レントラーは、意外な光景にかなり驚いていた。

「使える機会がなかったから、君達が知らないのも無理はないね。」

どうやらこの技は、今回まで使った事がなかったようだ。

(今のマグマラシなら、『あの状態』にもなってるはずだ。ニューラの技を受けたのも、これが狙いでもある以上、私の狙い通りにいけば…)

マグマラシは、体制を整えた。

もちろん、影分身もズレる事なく、同じ動きをしている。

「影分身か。そんなもの、横に切り裂けばすぐに破れる!ニューラ、きりさく!」

ニューラは、マグマラシの影分身を全てとらえるようにかぎつめを真横に薙ぎ払った。

その時…

ボッ!!

「!!」

ニューラがマグマラシの影分身に触れた瞬間、ニューラのかぎつめが松明のように燃え上がった。

「何!?」

意外な光景にアカギは、初めて表情を変えた。

「あの影分身…普通の影分身じゃありませんわ!」

ロズレイドは今まで見た事のない光景に目を丸くしていた。

「オレの影分身は、普通と違ってな。火の塊で作った影分身を生み出す特別な技なんだ!」

火の塊に直に触れたニューラは、弱点とあまりの熱さに怯んでしまった。

「今だよ、マグマラシ!!」

「おう、いくぜ!!」

そう言うとマグマラシは、額と背中の炎をさらに燃え上がらせた。

「火炎放射!!」

ゴァァァァァァ!!!

マグマラシは、疲れを押し返すありったけの力を込めた勢いでさっき放った火炎放射とは一回りも二回りも大きい火炎放射を放った。

「!!」

熱さに怯んでいたニューラは、何かの気配を感じてようやく我に返った。

しかし、その時はもう手遅れだった。

ニューラが気配を感じた方を振り向くと、そこにはものすごい勢いの炎が迫っていた。

それに気付いた瞬間、よける間もなくニューラは激しい炎に飲み込まれた。

炎が止んだ時、そこには先程まで無傷同然だったニューラが全身黒焦げになり、仰向けになって倒れていた。

それを見た後、マグマラシは、力尽きるようにその場に崩れた。

アカギは、慌てた様子を見せないまま、ニューラをモンスターボールに戻した。

「またも逆転負けというわけか。先程マグマラシが放った技の威力からして、一回受けたくらいなら耐えられるはずだったが…今の火炎放射は、その時とは比べものにならないほどの威力だった…」

マグマラシが放ったさっきの火炎放射は、アカギの計算を上回るほどのものだったらしい。

最初に火炎放射を放った時、アカギはマグマラシの火炎放射の威力を把握しており、避けられる事も含め一回は耐えられると計算していたようだ。

「マグマラシの特性『猛火』さ。ピンチになった時、炎タイプの技の威力が上がる何気に忘れる事が多い御三家共通の特性だよ。」

ナオキは、マグマラシを抱きかかえながらアカギに言った。

「ニューラの素早さは、大概のポケモンを追い越せる。そうである以上、素早さが売りのマグマラシでも勝ち目はない。だから、確実に一撃で仕留められるチャンスを待っていたのさ。素早さの高いポケモンは、その分防御が薄いからね。」

アカギはまたもナオキの作戦を把握したように言った。

「なるほど。技をかわされる以上、技をぶつけ合う戦いは不利と判断して、確実に一撃で仕留められるよう最大限の威力を発揮出来る機会を作っていたというわけか。ニューラの技を受けていたのは、隙を作るためだけでなく、特性を発動させるためだったというわけだな。」

猛火を発動させ、ニューラを油断させるために、ニューラの技をあえて受けていたのがナオキのひそかな狙いだったが、額に流れている汗がひそかに狙い以上に追い詰められていた事を物語っていた。

(特性を発動させるまではうまくいったけど、ニューラに隙を作るまでは出来なかった…マグマラシが影分身の発展技『火炎分身』を使えなかったら確実に負けていたな…)

戦いには勝ったが、ナオキの表情は安心感を感じさせない形が今も続いていた。

アカギは、なおも冷静な様子を見せている。

「さて、これが最後のポケモンか。」

そう言ってアカギは、モンスターボールを取り出した。

(! 3匹目だと…?)

ナオキは、アカギにまだポケモンがいる事に一瞬動じるような反応をした。

「最後のポケモンは、これだ。」

アカギはモンスターボールを投げた。

最後に出されたポケモンは、ぱっと見すぐにコウモリだとわかるあごにまで達するほどの大きな口をしたポケモンだった。

「あれは、ゴルバット…」

「私の持つポケモンは、これが最後だ。」

アカギの持つポケモンは、これが最後のようだ。

今まで大多数の敵相手にも動じず戦ってきたナオキに今まで感じた事のないプレッシャーがのしかかった。

いつもならポケモンの数を問わずたいした反応を示さないナオキだったが、今回は違った。

いつもならば、『数が全てじゃない』という理由でたくさんのポケモンを出されても動じなかった。

だが、今回は数的には『たった3匹』なのだが、ナオキとしては、『早くも最後』ではなく、『ようやく最後』に到達したという受け止め方になっていた。

最後の一匹が今のナオキにとっては、あと数十匹も残されているような威圧感のように感じられた。

その一方で、アカギは最後の一匹であるにもかかわらず最初とほとんど変わらないくらい涼しい顔をしていた。

レントラーもマグマラシも先程の戦いにより、もうまともに戦える状態ではなかった。

今まともに戦えるポケモンは、ロズレイドだけだった。

「ロズレイド、君に戦ってもらっていいかな…?」

「確かゴルバットは、飛行、毒タイプでしたよね…明らかに私では不利ですわ…」

ロズレイドのタイプは、草と毒タイプ。

メインで使える技のほとんどがゴルバットにはいまひとつの効果を持つ技だった。

その時…

「待ちたまえ。」

「?」

アカギから発せられた一言に反応してナオキは動きを止めた。

アカギはナオキに言った。

「一つ、私からの頼みを聞いてほしい。」