降りしきる雪の中、ナオキ達は先を急いだ。

ナオキは、コウキから借りたタウンマップで今の場所を確認した。

「ここから先にあるのは、217番道路…。その向こうがエイチ湖か…。」

タウンマップからして、エイチ湖は217番道路を北の方角へ真っすぐ進んだ先にあるようだ。

ナオキは、立ち並ぶ木々によって整備された道の向こうにある217番道路らしき場所を見た。

217番道路は、道路とは思えないような広々とした雪道だった。

「矢印からすると、この道路を真っすぐ進んでいけばいいみたいだね。早速行こう!」

「うん!急がなきゃ。」

ナオキ達は、217番道路に足を踏み入れた。

その瞬間…







ゴォォォ…!

今までの環境とは比べものにならない猛吹雪がナオキ達に襲い掛かった。

「ぐっ…すごい吹雪だ…」

「さっきまでとは比べものにならねえな…」

「立ち止まったら寒さに体力を奪われるから、ここはできる限り一気に進もう…!」

ナオキ達は、猛吹雪の中を歩き始めた。





猛吹雪は、容赦なくナオキ達を襲った。

寒さを基本に、ブリザードのような雪が視界を遮るように追い討ちをかける。

マグマラシの炎でもその寒さは防ぎ切れなかった。

「くっ…こんな強い吹雪は、シロガネ山でもなかったぜ…。」

マグマラシは、どうにか持ちこたえるような様子で額と背中の炎を出していた。

まるで、蝋燭の火を消すかのように容赦ない猛吹雪がマグマラシに襲い掛かった。

「炎タイプのオレでさえも寒いと思っちまうなんてここの吹雪は、ただものじゃねえな…」

マグマラシは、体を引きずるように前に進んだ。

その時…

「ぶほっ!」

マグマラシは、前のめりに雪の中に突っ込んだ。

「マグマラシ!?」

「ぷはっ…ぺっぺっ…」

マグマラシは、すぐに体制を整えると口に入った雪を吐き出した。

「大丈夫、マグマラシ?」

「ああ…どうやらこの先は積雪が深い場所があるみてえだぜ…」

その証拠に、先程から足をとられそうになる事が頻発していた。

今までは、足首までが埋まる程度で済んでいたが、進むにつれて深さが大きくなっていった。

「積もり方によっては、かなり深い場所もあるかもしれないから気をつけて進もう。」

「そうだね。さすがにオレもこんな環境じゃ透視能力も使えないからね…」

今の状態では、どの辺りが深いのかを見分けるのは難しいようだ。

「先を急ごう。ここに長い時間いたらエイチ湖どころじゃなくなる可能性もあるからね…」

ナオキは、ひそかにロズレイドの事を気にかけていた。

今の寒さは、テンガン山の上空ほどには及ばないものの、それに近い規模であるのは間違いない。

草タイプのロズレイドには他の仲間以上に堪える事だけにいつ倒れてもおかしくない。

ナオキは、ロズレイドのいる方を見た。

ロズレイドは、案の定他の仲間達以上に力のない様子で歩いていた。

『ロッジ ゆきまみれ』を離れてだいぶ経っている事を考えると、ロズレイドも限界が近いと考えてもおかしくない。

ロズレイドの顔は、少し青ざめているようだった。

その弱っているロズレイドに容赦なく、吹雪が襲い掛かった。

ナオキは、吹き荒れる吹雪の中、時折足をとられながら雪の上を歩き、ロズレイドのもとに向かった。

ナオキは、ロズレイドのいる場所につくと、ロズレイドの横に立った。

ナオキが立った位置は、ちょうど吹雪がふいてくる位置だった。

「ナオキさん…?」

「これで少しは、雪と風よけになるかな?」

ナオキは、ロズレイドの雪よけになるためにわざわざこの位置に立ったようだ。

「ナオキさん、悪いですわ。それではあなたが吹雪に当たってしまいますわよ!」

「君と比べたら大丈夫だよ。君は草タイプだから、私達以上に寒さは堪える。私にはこれしかできないけど、少しでも君をこの吹雪から護れたらいいな。」

「ナオキさん…」

隙のない体全体の寒さの中、ロズレイドは目頭だけが微かに暖かくなっているのを感じた。

ナオキの風よけとロズレイドの目頭の暖かさがロズレイドの寒さを取り除いた。

「マグマラシ、君もこっちに来て、君の炎でロズレイドを暖めてあげて。」

「わかったぜ。」

マグマラシは、吹雪の中、時折深い積雪に足をとられながらナオキのいる方へ向かった。

「君はロズレイドの左側に行ってくれないかな?そうすれば、私が君の風よけにもなるからね。」

「大丈夫なのかナオキ?」

マグマラシは、心配そうな目でナオキを見た。

ナオキは、ロズレイドの風よけになってからずっと風下にいたために、雪まみれになっていた。

「…まあ…さすがにちょっと堪えてるかな…。いざとなったら、私も暖めてね。」

「………ああ…」

マグマラシは、こくりと頷いた。

「レントラー、コウキくん、君達は大丈夫?」

「オレは、見ての通りそれなりに毛があるからキミ達と比べたら大丈夫だよ。」

レントラーの体には、ライオンのようなたてがみを基本にそれなりに防寒効果のある長い毛があるので、ナオキ達と比べたら全然というわけではないが、どちらかといえば大丈夫な方のようだ。

「オレも一応大丈夫だよ。半袖は堪えるけど、シンオウ地方で育ったからそれなりに寒さには…」

コウキがそう言ってる途中…

ズボッ!!

「うわ!!」

落とし穴にはまったように深い積雪に足をとられ、それはかなり深い場所だったらしく、コウキは肩まで潜ってしまった。

「コウキくん!」

ナオキは、慌ててコウキのもとに駆け寄った。

「大丈夫、コウキくん?捕まって!」

ナオキは、積雪に潜ってしまったコウキに手を伸ばした。

「あ…ありがとう…」

コウキは、ナオキが差し出した手を強く握り、潜った積雪から何とかはい上がった。

「こんなに深い積雪があったなんて…一体ここはどれだけ雪が降ってるんだ…?」

長身のナオキでさえも時折下半身がうまる深さになる事があるのがそれを物語っていた。

217番道路は、215番道路のように1年中同じ天気に等しいような環境だからなのかもしれない。

肩まで潜ったのが堪えたのか、コウキは、さっきよりも若干寒そう様子だった。

「君は半袖だから、私よりも寒さが堪えるはずだよ。無理しないで寒くなったらマグマラシに暖めてもらいなよ。」

「………うん…」

コウキは、震えながらさっきよりも力のない声で言った。






吹雪の勢いは、おさまらないどころか進むにつれて少しずつ強くなっていくように吹き荒れていた。

凍るような寒さの中、それに合わせた防寒をしてこなかったナオキ達は、寒さと吹雪による視界不良、深い積雪による移動の不便さなどによる様々な障害に阻まれながらも前に進んでいった。

ロズレイドの風よけになっているナオキは、おびただしい量の雪にまみれながら歩いていた。

マグマラシもだいぶ疲れてきているらしく、炎の勢いがさっきよりも弱くなっていた。

「マグマラシ、大丈夫?さっきよりも火の勢いが下がってるけど…」

「心配すんなよ。寧ろナオキの方が心配だぜ。だいぶ雪にまみれてるじゃねえか…」

マグマラシは、炎の勢いが弱まってる自分自身よりもずっと吹雪に打たれているナオキの方を心配していた。

ガーディアンの力により、風邪を引く心配はないのだが、命に関わる事までは保障できない以上、ナオキが低体温症で倒れてしまわないかマグマラシには気掛かりでならなかった。

コウキ、レントラーも度重なる寒さにより、かなり体力を消耗していた。

休むどころかおさまる事を知らない寒さがナオキ達に追い討ちをかけた。






しばらく進むと、向こう側に何かがあるのを見つけた。

ナオキ達は、前に進んだ。

できるならそれが出口であってほしい。

限界の近かったナオキ達は、ひそかにそう願っていた。

しかし、その願いは届かず、進んだ先は木々が立ち並ぶ行き止まりだった。

行き止まりにたどり着いた事が、ナオキ達の残された僅かな士気を奪い去っていった。

その時、ふとナオキは吹雪の中で何かが光ったのに気付いた。

「………これは…?」

草むらの真ん中に少し小さめの岩があった。

サイズは、人一人が座れるほどの大きさのようだ。

その岩は、氷で覆われていた。

触ると自分までこおりそうだ。

「何だろう…不思議な岩だね…」

「確かにね…。こんな形で氷に覆われてるなんて…ただの自然の産物ではないのかもしれないね。」

そうナオキが呟いた時、ナオキはふと左側を見た。

そこには木々が立ち並んでいた。

行き止まりの視点から、左側に視点を変えた形で立ち並んでいるという事は、今の視点にある木々は縦に並んでいるようだ。

「行き止まりの木々からして縦向きに並んでるという事は…」

ナオキは、最後の賭けに出る事にした。

「コウキくん、ここから先はこの木々に沿って進んでいこう。」

「え?大丈夫なの?」

「行き止まりという事は、この辺りに道路のある入口があるはずなんだ。今からそれを探しにいくよ。」

広い部屋に例えると、今ナオキ達は、真っ暗な環境の中で、どこかに入口のある壁にぶち当たっている状態にある。

つまり、壁に沿って進んでいけば最終的に入口に辿り着けるというわけなのだ。

「道路は、木を仕切りみたいにして整備されてるから、並んでる木に沿って歩けば道路の入口を見つけられる。急ごう!」

「OK。」

ナオキ達は、立ち並んでいる木々に沿って歩いていった。





しばらく進むと、立ち並んでいる木々が途切れ、ナオキ達から見て右側の方に木々が並んでいた。

「あの方向は、行き止まりの方向だったけど…もしかしたら…」

さらに進むと、立ち並ぶ木々の中に明らかに木ではないものが吹雪の中にぽつりと立っているのを見つけた。

それは、看板だった。

案の定、看板は雪にまみれていた。

ナオキは、手で雪を払い落とした。

「『ここは217番道路』…。この看板を基準に、右に進んでその後前に進んだらエイチ湖、と…。どうやらもうすぐみたいだよ。」

「そうみたいだね。」

エイチ湖をようやく目前にした一行は、もう限界に近い状態だった。

吹雪は、目的地を目前にしたナオキ達を容赦なく襲い続けていた。

ナオキが払い落とした看板の雪を吹雪が再び覆い隠した。

「目前だってわかった以上、話は早い。先を急ごう。」

コウキ達は、こくりと頷いた。

声を出さずに頷いた事が、もう彼らの体力が限界に近い事を強調していた。

吹雪は、おさまる事なく、吹き荒れていた。







しばらく進むと、今まで容赦なく吹き荒れていた吹雪がぴたりと止み、普通の粉雪に戻った。

217番道路の名残がまだあるのか、降り方は216番道路よりも若干強い方だった。

道路を出ると、草むらの広がった広い道路があった。

その奥に見覚えのある容貌をした人物が二人ほど立っていた。

「あいつらは、明らかにギンガ団だね。」

「だとしたら、あの奥がエイチ湖なのは間違いないよ。」

ナオキは、マグマラシ達のいる方を向いた。

「君達、どっちか戦える?」

「オレはまだ戦えるぜ。」

マグマラシは、少し力のない声で言った。

「オレのポケモンは、それなりに戦えるよ。」

コウキは、モンスターボールを取り出した。

「OK。それじゃあ、早速行こう!」

ナオキ達は、一斉に入口に乗り込んでいった。

入口に立っていた団員がナオキ達に立ちはだかった。

「ジムリーダーに邪魔されないように見張りをしています!」

「見張りも立派な任務。見事に果たしてピッピを貰うのです!」

そう団員達が言った瞬間…

「邪魔だ!」

この一言と共にナオキとコウキは、閃光のような早さで団員達を蹴散らした。

団員達は、真っ逆さまに雪の上に落ちた。

「全く…変な障害物のせいで若干時間をくっちゃったよ。」

そう呟きながらもナオキ達は、少し喘いでいた。





木々に囲まれた道をしばらく走ると、奥に出口が見えた。

二人は、急いで中へと入った。

「!」

エイチ湖に着いた瞬間、ナオキ達は目の前の光景に表情を凍らせた。