シンジ湖を飛び立ち、エイチ湖を目指している一行は、シンオウ地方の上空を飛び続けていた。

ナオキは、マグマラシ、レントラー、ロズレイドをどうにか背負いながらシムルグ・ウイングによる飛行を続けた。

こうゆう時こそ、確かにムクホークがいるのがよかったとあらためて実感しているようだった。

かつては、マグマラシとレントラーを背負いながら移動した事はあるが、今回はロズレイドもいるため、少してこずっているようだ。

飛ぶ事を基本に、マグマラシ達をうっかり離してしまわないようにしないようナオキは一瞬たりとも気を抜かずに飛び続けていた。

シムルグ・ウイングが羽ばたく度にそこからエメラルドカラーの羽が舞い散っては粉雪のように地上へと降りていった。

地上では、シンオウ地方では見かけない鳥ポケモンがいるのだろうかという沙汰になっている場所があるのだろうか。

そういう事は考えず、ナオキは一刻も早くエイチ湖に着かなければという考えだけを抱きシンオウ地方の上空を飛び続けていた。






しばらくすると、ナオキ達の前に大きな物体が現れた。

少し近づくと、それがシンオウ地方開闢の地と言われるシンオウ地方の中央にそびえ立つ山、そう『テンガン山』である事にすぐに気付いた。

「テンガン山って事は、ここから先をまっすぐ進めばいいって事かな?」

「一応、シンジ湖からずっと北の方角に進んでたから道は間違ってないはずだよ。」

ナオキの右腕に抱えられたレントラーがナオキに言った。

「OK。それじゃあ、このまま先に進もう。」

ナオキがそう言った時、シムルグ・ウイングの羽ばたきの妨げにならないようにうまくナオキの背中に乗っているマグマラシが言った。

「ナオキ、大丈夫か?ずっとオレ達を抱えて飛んでるけど…。オレはいいとして、レントラーとロズレイドは大丈夫か?」

マグマラシは、ナオキが3人を持つだけでも大変そうな形で移動してるのをずっと気にかけていた。

「大丈夫だよ、マグマラシ。私こう見えて持つ事にはそれなりの自信があるからね。よく重い物とか運ばされた事もあったし、それに今はトライス・ソードとかでそれなりに腕も鍛えてるからね。」

ナオキは、本当に隠していないような様子で言った。

「君達の体重がそんなに重くなかったのが救いだったよ。私は30キロ辺りまでは支障もなく持てるから、その辺りは心配しなくても大丈夫だよ。」

「そうか…ならいいけどよ…毎回言ってる事かもしれねえけど、本当無茶だけはするなよ。」

ポケモン、そして大切な仲間のためなら身を削る事も厭わないナオキの性格をマグマラシは1番知っている。

ナオキがひそかに知らない場所で無茶をしてないのかがマグマラシは誰よりも気掛かりに思っていた。

「それじゃあ、先を急ごう。」

ナオキ達はテンガン山を目印に再び前へと進んでいった。






テンガン山を過ぎて間もない時…

「………」

ナオキは今までになかった何かを感じ取るような仕草をした。

それはナオキだけでなかった。

先にその事について口に出したのは、ロズレイドだった。

「ねえ…何だか寒くありません?」

「君もそう思うのかい?」

ナオキはロズレイドの方を向いて言った。

「実を言うと私もなんだ。」

ナオキのこの一言と共に他の2人も今の心境を述べた。

「シンオウ地方が寒いのはオレもわかってるけど、キミ達の話からしたらさっきまでと比べて寒くなってるのは確かみたいだね。」

「みてえだな。テンガン山を通過してから急に寒くなったみてえだぞ…」

その寒さは前に進むにつれて少しずつ大きくなっていった。

「ナオキさん…私…寒いですわ…」

ロズレイドは、さっきと比べて力のない声でナオキに言った。

「ロズレイド、大丈夫?草タイプの君には寒さは堪えるのも無理は…」

その時、ナオキはふと自身の体に起きている事を察知した。

「!!」

ナオキの体にはどこから来たのだろう、薄い霜のような氷が付いていた。

「ナオキ!?」

マグマラシは、ナオキの紫色の髪の毛が霜の色に染まるように凍っていくのを目の当たりにして異常に気付いた。

「マ…マグマラシ…レントラー…一旦降りよう…」

そう言ってナオキ達は、足場を見つけてそこにどうにか降り立った。






そこは、ちょうど道路のようになっていた。

ご丁寧に看板が近くに立てられている。

「ここは『216番道路』。しかも、隣はテンガン山の入口があるのか…」

看板の隣には、テンガン山への入口がぽっかり開いていた。

「ロズレイド、大丈夫?」

「ええ、どうにか…あのまま飛び続けていたら危なかったかもしれませんわ…」

ロズレイドは、さっきよりは元気を取り戻した声で言った。

「シンオウ地方とはいえ、ここが雪原地帯だったとはね…」

ナオキ達が今立っている場所は、粉雪が降り注ぐ一面銀世界の雪原地帯だった。

「気温っていうのは、高い位置にいけばいくほど低くなり、最終的には空気中の水分さえも凍らせるほどの氷点下になる…ちょうど私達がいた空はこの雪原地帯の真上だったんだ。だから急にここまで寒くなったんだね…」

地上でも普通に寒い以上、その上空はさらに寒いのは明らかな事。

ましてや今216番道路は、粉雪が降る天候である以上、寒さが上乗せされるのはすぐにわかる。

「ここから先は徒歩で行くしかないね。」

「そうなるね、レントラー。」

「このまま飛んでたらもっとやべえ事になる以上はしかたねえな。寒くなったら、オレが暖房になってやるからまかせとけよ。」

「そうさせてもらうよ。マグマラシ、ありがとう。」

「いいって事よ。」

マグマラシは、ニッコリ微笑みながら言った。







ナオキ達は、降りしきる粉雪の中、雪道を踏み締めながら進んだ。

「しかし寒いなぁ…。今まで訪問した地方の中でも1番の寒さかもしれないね…」

「シンオウ地方は、北の大地だから他の地方と比べてすごく寒いんです。私も毎年寒い時期になると大変な思いをするんですわ。」

「草タイプのキミには寒さはただでさえ堪えるからね。」

「ナオキも寒がりだよな。」

「まあね。寒い時期は、私にとって本当試練と言っていいほどにね…」

細身のナオキにとってシンオウ地方の寒さは、草タイプのポケモン規模で堪えるようだ。

厚着を用意しなかった事をナオキはひそかに後悔していた。

これから先、こうゆう場所を訪れるためには厚着が必須になるなぁとナオキは思っていた。

216番道路は、途切れる事なく粉雪が降り続けている。





「…!」

しばらく歩き続けた時、ナオキは雪の奥に何かがあるのに気付いた。

それは、山小屋だった。

雪道を通る人のための休息ポイントのようである。

「『ロッジ ゆきまみれ
』。名前の通りだね。」

無論、雪に潰されないように屋根はまみれとは言えないくらい綺麗に雪下ろしされている。

ナオキは、中を覗いた。

「一般の人がいるね。ここは、元に戻っておいた方がいいかな?」

「それがいいぜ。コスプレをした人がここに来たら怪しまれるからな。」

ナオキは、変身を解除した。

その後、あらためて『ロッジ ゆきまみれ』に入っていった。





ロッジの中は別世界のような暖かさだった。

ロズレイドもだいぶ元気を取り戻したようだ。

ロッジの人から、なぜわざわざここに来たのか聞かれた。

ひとまず、ギンガ団の事を離したらパニックになるかもしれないので、ふと思い付いた事を理由にした。

「探している人がいまして、聞くところによるとこの辺りを通ったらしいのですけどご存知ですか?」

「その人ってどんな特徴?」

「赤い帽子で、黄色いリュックを背負ってて、右腕に青色のポケッチっていう腕時計みたいな物を着けてます。それから赤いマフラーを着けてる男の子なんですが…」

それを聞いた時、山男が答えた。

「あ、その子供ならさっきここに来たぞ!」

「本当ですか?」

「ああ。きみがここに来る少し前までここにいたんだ。」

ナオキが来る少し前という事は、ほぼすれ違いだったという事。

つまり…

「どうも何か慌ててるみたいだったが、どうしたものだろうか…」

山男はナオキの探している人の行動に懐疑を抱いていた。

ナオキは、すくっと立ち上がった。

「わかりました。ありがとうございます!行こう、みんな!」

ナオキ達は『ロッジゆきまみれ』を後にした。












『ロッジ ゆきまみれ』を離れてしばらくした後、ナオキは再びトライス・ライトに変身した。

ナオキの時と比べて服装は、多少薄着になるが、いつ戦いになるかわからない以上は仕方のない事である。

あらためてナオキ達は、先を急いだ。

進んでいくにつれ、雪の勢いが少し強まっていった。

さっきまでは、粉雪だった雪がボタン雪になり始めているのがぱっと見でわかるのがその証拠だ。

「今のところ、道は間違ってないよね。」

「この辺りは一応道路整備されてるみたいだから、森の中に入らない限り迷う事はないはずだよ。」

道路の周囲には、リッシ湖の時のように、林道が立ち並んでいる。

雪に覆われた道ではあるが、人が通る道は整備されているのは事実のようだ。

ナオキ達は、降りしきる雪の中、雪に覆われた道を頼りに前に進んでいった。








「…!」

しばらく歩いた時、ナオキは道の向こうに誰かがいる事に気付いた。

ここに来るまでの間、色んな人達に会ったため、またトレーナーかと一瞬思った。

が、近づくにつれてそれが今まで会った人ではない事に気付いた。

最初に気付いたのは、帽子だった。

今まですれ違ったトレーナーは、毛糸の帽子を被っていたが、向こうにいる人は見覚えのある帽子を被っていた。

ナオキは、真っ先に駆け寄っていった。

「コウキくん!」

「!」

寒そうに俯きながら歩いていたコウキは、ナオキのいる方を向いた。

「トライス…!」

寒さによるためか、コウキは力のない声で返事をした。

「大丈夫だった?」

「うん…それにしても…こんな寒い場所だったなんて…」

コウキもここへ行くのは初めてだったようだ。

コウキもナオキと同じく服装の準備を怠った事を後悔していた。

マグマラシは、コウキに近寄り背中の炎でコウキを暖めた。

「マグマラシがいるから、寒い時は言ってね。」

「ありがとう…」

コウキは震える声でナオキに言った。

コウキと合流したナオキ達は、あらためてエイチ湖を目指して雪道を歩いていった。