リハーサルの帰り、私は通り掛かりのおばあさんに呼び止められた。

どうやらおばあさんは、台風により総武線が見合わせになったので乗り換えとして京成線に乗りたいようだ。

昨年辺りの台風で乗った事があったので一応答える事はできる。

私はここからまっすぐ行った先に駅があると教えた。

だが、おばあさんの様子からおばあさんは初めてこの道を通るみたいなので見つけられないかもしれないと思い、せっかくなので目的地まで送る事にした。

台風はさっきよりもかなり規模が大きくなっていた。

傘を刺しても意味がないと悟った私はかばんの中身ができる限り濡れないような形で雨風の中を歩いた。

途中、たくさんの列があったのでその列についていった。

すると、ひそかに予想していた事が当たったらしく、その列は京成線に乗り換える人の列だった。

これならもう迷う心配はない。

せっかくここまで来たので、私は最後まで着いていく事にした。





しばらく進むとかつてアルクアラウンドした時に通った覚えのある踏み切りを見つけた。

踏み切りがあるという事は…

右側を見ると、そこに駅があった。

私はおばあさんをそこへ案内した。

その時、おばあさんが私に何かを渡した。

『これでジュースとかでも買ってよ』と言い、私に濡れてしまった1000円を渡した。

一期一会規模の事でただ道案内しただけなのに、お金をこんなにくれるなんて…

私は辞退したが、おばあさんはそれでも私にくれるのをやめなかった。

おばあさんからすれば、この天気の中わざわざびしょ濡れになってまで案内してくれた以上、これくらいはしておきたいと思ったのかもしれない。

しかも、それが一期一会規模の人であるならば…

見返りというのは、それを望まない人にこそあるものなのだ。

私はそれを受け取り御礼を言った後、『このあともお気をつけて』と言いおばあさんを見送った。

おばあさんが階段を上った後も私はしばらくここにいた。

おばあさんが出発するまで見送ろうと思ったからだ。

しばらくすると、私の視点の先にそのおばあさんがいた。

私に気付いてないのか、おばあさんは普通に電車が来るのを待っていた。

それからしばらくしてようやく電車が到着した。

最後までおばあさんは私に気付かなかったが、電車が出発した後おばあさんはそこにはいなかったので無事出発したようだった。

おばあさん、このあとも気をつけてお帰りくださいね。

そう言い残して降りしきる雨の中、私はその場を後にした。