空は夜に近づいていた。
夕焼け空もだいぶなくなり、残された空も夜になり始めている。
ヒカリはノモセシティから少し離れた森の中でポッチャマと一緒に座っていた。
「今日は本当に色んな事があったよね、ポッチャマ。」
ヒカリはポッチャマの方を向いていった。
その後、ヒカリは再び前を向いた。
「トバリシティで買い物をしたり、途中で会ったナオキくんと一緒にノモセシティの大湿原を冒険したり…考えてみたら、旅を続けてまだそんなに経ってないけど、今日が今までの中で一番印象に残った日だったって私は思うわ。ポッチャマ、あなたはどう?」
ポッチャマは、身振りで出来る限りヒカリに『ボクも楽しかったよ』と伝えた。
身振りよりも表情の方がそれを伝えていた。
「ポッチャマも楽しかった?それなら安心したわ」
ヒカリはポケモン図鑑を取り出した。
「大湿原で新しいポケモンはゲット出来なかったけど、その代わりたくさん珍しいポケモンに会えたわ。ナオキくんが連れてたレントラーとムクホークもデータが登録されたから、これもいい収穫になったわね。」
実質ナオキの手持ちに当たるポケモンは、姿と名前だけでなく、説明もゲットできるようだ。
要はデータを貰うために一時的に交換したような感じでそうなるというべきだろうか。
「………。」
ヒカリはしばらくポケモン図鑑を見たまま、何も言わないままでいた。
ポッチャマは『どうしたの?』という形でキョトンとした様子でヒカリを見ていた。
しばらく黙り込んだ後、ヒカリはようやく口を開けた。
「……考えてみたら…全ては私がギンガ団の連中にポケモン図鑑を盗られた事から始まったんだよね…」
ヒカリはトバリシティの事を思い出した。
トバリシティでの事は、買い物した事の他に印象に残る事はなかった。
それは、『自分の意思だけで行った事』がそれだけだったからだった。
ヒカリはそこから一つだけ結論を導いた。
「今日の大部分は、ナオキくんにあの形でまた会わなかったらなかった事になるわ…」
ヒカリがナオキと再び会った理由は、奪われた図鑑を取り戻すための力になってほしいからだった。
もし、そうでなかったら、今日二人が再び出会う事はなかっただろう。
ナオキは自分から女性に会いに行く人柄ではなく、ヒカリもそれほどの理由がなければまだいるかわからないトバリジムまでナオキを探しに来る事もなかった事から考えればそう言える。
「あの時…もし、トバリシティにナオキくんがいなかったら、図鑑を取り返せないだけじゃなくて、この後の事も今回みたいに楽しめなかったかもしれないね。」
ヒカリは小さく微笑みながらポッチャマに言った。
その時の心情は、『今日はナオキくんに会えてよかったね』という気持ちが込められていた。
しかし、その心情とは裏腹にヒカリの表情には少し曇りがあった。
ポッチャマもひそかにそれに気付いていた。
ナオキは、ヒカリが忘れていったアクセサリーを届けるため、ヒカリと別れた場所を散策していた。
「この辺りで別れたから、まだこの辺りにいるはずなんだけど…」
「もうここにはいないんじゃねえの?」
「…そうなるかな?もう少しだけ探してみようよ」
「だいぶ日も暮れたから早く見つけようぜ」
ナオキはこくりとマグマラシに頷いた。
空はもうすぐ夜になる寸前の暗い色になっていた。
ヒカリはポッチャマと一緒にまだその場にとどまっていた。
周囲が暗くなっているのに気付いてはいるものの、それでも動こうとしない事からすると、ヒカリはしばらくこの場から離れるつもりはないようだ。
ヒカリの表情はさっきよりも暗くなっているようだった。
ポッチャマもヒカリの様子に気付いているらしく、かなり心配そうな顔をしていた。
「…ポッチャマ、あなたも気付いてるの?私の事…」
ポッチャマは、気付いてた?という形で反応した。
ヒカリは小さく微笑みながら言った。
「気にする事はないわ」
ヒカリはそう言うと、下を向いた。
「あの時…ナオキくんは…」
ヒカリはトバリシティでナオキと一緒に戦った時の事を思い出していた。
ポッチャマを見た時、ヒカリはあの事を思い出した。
トバリシティでナオキと一緒に戦った時、ヒカリはひそかにこう考えていた。
(ナオキくんがいるから大丈夫よね…)
「あの時…私はひそかにナオキくんに頼り切ってた…。ポケモントレーナーとしてまだ経験も少なかったから、私よりも長いキャリアがありそうなナオキくんなら、私が追い詰められても大丈夫かなって思ってた…。でも…」
ヒカリの中で、あの時の事が鮮明に浮かんだ。
ポッチャマがギンガ団のポケモンから集中攻撃を受け、隙を見計らった団員がポッチャマにトドメをさそうとした。
「ポッチャマ!」
「そいつはだいぶダメージを受けたな。まずはそのポッチャマから片付けてやる!」
「ポッチャマ、危ない!」
その時…
ガッ…!
ナオキが咄嗟にポッチャマを庇い、代わりに攻撃を受けた。
「ぐっ…大丈夫?ポッチャマ…。」
「……!」
「どういうつもりだ?ポケモンの攻撃を自分から受けるなんてよ」
「ポケモンを体を張って守ろうとするのは、ちょっとした私の癖でね…」
ナオキは攻撃を受けた場所を手で抑えながら言った。
「ポケモンバトルを見る度に私は思ったんだ。『ポケモンがやられてるのに、それを支える存在である私達人間がただ立ってるだけで、何もやらないでどうするのさ!』ってね…」
「あの時、ナオキくんは、体を張ってあなたを守ってくれたよね。自分でやった事とはいえ、ナオキくんがポケモンのためにあんな事までするなんて思いもしなかったわ」
ヒカリはナオキが行った事を一番気にしていた。
「ナオキくんは平気そうにしてたけど、きっと本当はすごく痛かったんだよね…。だって、人間がポケモンの技を直に受けたんだもの…」
ヒカリはふとあの時の事を思い出した。
ナオキがハクタイシティから帰ってきた時…
ナオキは、背中に大怪我を負ってヒカリの前に現れた。
あの傷跡はあの時、ナオキは『野生ポケモンに襲われた』とヒカリに言っていた。
しかし、野生ポケモンといえど、ポケモンがいたらここまで大怪我を負わされる事はないのはヒカリもひそかに気付いていた。
(あの時…きっとナオキくんはポケモンの攻撃からマグマラシを庇ったからあんな大怪我を負ったんだよね…)
野生ポケモンからだろうと、そうでなかろうと、少なくともナオキがポケモンの攻撃からマグマラシを体を張って守ったからあの傷を負ったのだというのは明らかだった。
(あの時も…きっとすごく痛かったんだろうなぁ…)
ヒカリはナオキが隠していた痛みの事を考えると、胸が痛くなった。
「ナオキくんは私達よりもポケモンの痛みを知ってるからきっとああいう事ができたんだよね…」
ヒカリはトバリシティでナオキと一緒に戦った時の事を再び思い出した。
「私はまだポケモントレーナーとして経験を積んでないから、その分ナオキくんに出来る事を任せればいいって思ってたけど、それは違った…。ナオキくんが後ろでポケモンに指示をする事の他に自分に出来る事をしたように、私にも私に出来る事をやるべきだったんだわ…」
ヒカリは下を向いた。
「ナオキくんは…私の図鑑を取り返してくれただけじゃなくて、私のポッチャマを体を張って守ってくれた…」
ポッチャマはヒカリと共に下を向いていた。
ヒカリの今の様子を見ない方がいいと思っているからなのだろう。
その時、ポッチャマはさっきまでたっていた音とは明らかに違う音がしたのを感じ取った。
ポッチャマはふと横を向いた。
ヒカリの足に滴が落ちていた。
「それなのに私はナオキくんに頼りすぎて、ナオキくんに苦労をかけて、おまけにナオキくんにあんな事をさせるくらいナオキくんの足を引っ張る事をしちゃった…。そしてナオキくんは、そのせいであんな痛い思いをさせちゃった…。ごめんねナオキくん…。あなたの苦労も知らないであなたををあんな目に合わせちゃって…本当にごめんね…」
ヒカリは大粒の涙をポロポロ零しながら喉を詰まらせるように今ここにいないナオキに言った。
その涙には、ナオキと別れる前にその事を言えなかった後悔も含まれていた。
ポッチャマは、大粒の涙をポロポロ零しているヒカリを悲しそうな目で見ていた…
ヒカリと少し離れた場所にナオキはいた。
ヒカリが泣き出す前に着いたのだが、行こうとした時にヒカリが泣き出したので、足を止めてしまったのだ。
「…どうすんだ?あれじゃあ、アクセサリー返しに行けないんじゃねぇか?」
「…あと5分くらい待ってみよう」
「そうだな」
ナオキはヒカリが泣き止むのをもうしばらく待ってみる事にした。
しばらく待ってみたが、ヒカリは相変わらず泣き続けていた。
何もしてないためにそう感じてるからかもしれないが、5分も二人には長いように感じた。
「…この様子じゃ、しばらく泣き止まないかもしれねえな」
「…そうかもね…」
その時、ナオキはふと何かを思い付いたような仕草をした。
しばらくしてしてヒカリはようやく泣き止んだ。
ヒカリは目元に残った涙を手で拭った。
「…いつまでも泣いてちゃ始まらないわね。次にナオキくんに会った時にあらためて謝ろうかな」
ヒカリはポッチャマの方を向いた。
「ごめんねポッチャマ。心配かけたけど、もう大丈夫よ」
ヒカリはポッチャマに小さく微笑んだ。
その時…
「…?」
ヒカリのいる場所に明るい日差しがさした。
空はもう夜に近いくらいの暗い色をしていた。
しかし、その中から日差しがさしたのだ。
これは『残照』という太陽が沈んだ後もなお雲などに残っている夕日の光である。
「日が沈んだ後も日差しが残ってる時ってあるんだね」
その時、ヒカリは横を見た。
横で何かが光っていた。
近づいてみると、それはアクセサリーだった。
「これ…私がトバリシティで買ったアクセサリーだわ。いつの間にか落としていたのね…」
ヒカリはアクセサリーを拾った。
「?」
その時、ヒカリはアクセサリーの下に何かがあるのに気付いた。
それは、一枚の紙だった。
アクセサリーを包むためかと思ったが、何か書かれていた。
ヒカリは僅かに残された残照を明かりにしてそれを読んだ。
『ヒカリちゃんへ
今日は一日ありがとう。君のおかげで新しい街を見つけられたし、色んなポケモンにも会う事ができたよ。
君に会わなかったら私達はノモセシティを見つけられなかったから、本当に助かったよ。また、君に教えてもらっちゃったね。
君は私が君のポッチャマを庇った事を心配してたみたいだけど、気にしないで。これは私が勝手にやっ事だから、君は悪くないよ。それよりも私は君の役に立つ事ができてよかった方が一番印象に残ってるからね。
今日は本当にありがとう。また一緒にどこかに行こうね
ナオキ』
それはナオキからの手紙だった。
ヒカリはふと前を向いた。
ナオキがいる…ヒカリは今その事に気付いた。
しかし、そこにはもうナオキはいなかった。
「……ナオキくん…」
ヒカリはナオキが去っていった方をしばらく見ていた。
ヒカリの目から再び大粒の涙が零れ落ちた。
ヒカリの涙は、残照に照らされ、キラキラと光りながら地面にポタポタと落ちていった。
静かに泣くヒカリをポッチャマはただ静かに見つめていた。
ナオキはマグマラシと共に帰路に着いていた。
「本当にあれでよかったのか?もうだいぶ暗くなったから気付かないんじゃねえの?」
「…多分大丈夫だよ。きっとヒカリちゃんも気付いてくれるよ。」
ナオキは後ろを見た。
残照がさっきいた場所を明るく照らしている。
「……きっとね…」
ナオキの右手にあるブレスレットが残照により、微かに光っていた。
残照が照らす中、ナオキはマグマラシと共に人知れずその場を後にした。
残照は、今もなお明るく辺りを照らしていた。
夕焼け空もだいぶなくなり、残された空も夜になり始めている。
ヒカリはノモセシティから少し離れた森の中でポッチャマと一緒に座っていた。
「今日は本当に色んな事があったよね、ポッチャマ。」
ヒカリはポッチャマの方を向いていった。
その後、ヒカリは再び前を向いた。
「トバリシティで買い物をしたり、途中で会ったナオキくんと一緒にノモセシティの大湿原を冒険したり…考えてみたら、旅を続けてまだそんなに経ってないけど、今日が今までの中で一番印象に残った日だったって私は思うわ。ポッチャマ、あなたはどう?」
ポッチャマは、身振りで出来る限りヒカリに『ボクも楽しかったよ』と伝えた。
身振りよりも表情の方がそれを伝えていた。
「ポッチャマも楽しかった?それなら安心したわ」
ヒカリはポケモン図鑑を取り出した。
「大湿原で新しいポケモンはゲット出来なかったけど、その代わりたくさん珍しいポケモンに会えたわ。ナオキくんが連れてたレントラーとムクホークもデータが登録されたから、これもいい収穫になったわね。」
実質ナオキの手持ちに当たるポケモンは、姿と名前だけでなく、説明もゲットできるようだ。
要はデータを貰うために一時的に交換したような感じでそうなるというべきだろうか。
「………。」
ヒカリはしばらくポケモン図鑑を見たまま、何も言わないままでいた。
ポッチャマは『どうしたの?』という形でキョトンとした様子でヒカリを見ていた。
しばらく黙り込んだ後、ヒカリはようやく口を開けた。
「……考えてみたら…全ては私がギンガ団の連中にポケモン図鑑を盗られた事から始まったんだよね…」
ヒカリはトバリシティの事を思い出した。
トバリシティでの事は、買い物した事の他に印象に残る事はなかった。
それは、『自分の意思だけで行った事』がそれだけだったからだった。
ヒカリはそこから一つだけ結論を導いた。
「今日の大部分は、ナオキくんにあの形でまた会わなかったらなかった事になるわ…」
ヒカリがナオキと再び会った理由は、奪われた図鑑を取り戻すための力になってほしいからだった。
もし、そうでなかったら、今日二人が再び出会う事はなかっただろう。
ナオキは自分から女性に会いに行く人柄ではなく、ヒカリもそれほどの理由がなければまだいるかわからないトバリジムまでナオキを探しに来る事もなかった事から考えればそう言える。
「あの時…もし、トバリシティにナオキくんがいなかったら、図鑑を取り返せないだけじゃなくて、この後の事も今回みたいに楽しめなかったかもしれないね。」
ヒカリは小さく微笑みながらポッチャマに言った。
その時の心情は、『今日はナオキくんに会えてよかったね』という気持ちが込められていた。
しかし、その心情とは裏腹にヒカリの表情には少し曇りがあった。
ポッチャマもひそかにそれに気付いていた。
ナオキは、ヒカリが忘れていったアクセサリーを届けるため、ヒカリと別れた場所を散策していた。
「この辺りで別れたから、まだこの辺りにいるはずなんだけど…」
「もうここにはいないんじゃねえの?」
「…そうなるかな?もう少しだけ探してみようよ」
「だいぶ日も暮れたから早く見つけようぜ」
ナオキはこくりとマグマラシに頷いた。
空はもうすぐ夜になる寸前の暗い色になっていた。
ヒカリはポッチャマと一緒にまだその場にとどまっていた。
周囲が暗くなっているのに気付いてはいるものの、それでも動こうとしない事からすると、ヒカリはしばらくこの場から離れるつもりはないようだ。
ヒカリの表情はさっきよりも暗くなっているようだった。
ポッチャマもヒカリの様子に気付いているらしく、かなり心配そうな顔をしていた。
「…ポッチャマ、あなたも気付いてるの?私の事…」
ポッチャマは、気付いてた?という形で反応した。
ヒカリは小さく微笑みながら言った。
「気にする事はないわ」
ヒカリはそう言うと、下を向いた。
「あの時…ナオキくんは…」
ヒカリはトバリシティでナオキと一緒に戦った時の事を思い出していた。
ポッチャマを見た時、ヒカリはあの事を思い出した。
トバリシティでナオキと一緒に戦った時、ヒカリはひそかにこう考えていた。
(ナオキくんがいるから大丈夫よね…)
「あの時…私はひそかにナオキくんに頼り切ってた…。ポケモントレーナーとしてまだ経験も少なかったから、私よりも長いキャリアがありそうなナオキくんなら、私が追い詰められても大丈夫かなって思ってた…。でも…」
ヒカリの中で、あの時の事が鮮明に浮かんだ。
ポッチャマがギンガ団のポケモンから集中攻撃を受け、隙を見計らった団員がポッチャマにトドメをさそうとした。
「ポッチャマ!」
「そいつはだいぶダメージを受けたな。まずはそのポッチャマから片付けてやる!」
「ポッチャマ、危ない!」
その時…
ガッ…!
ナオキが咄嗟にポッチャマを庇い、代わりに攻撃を受けた。
「ぐっ…大丈夫?ポッチャマ…。」
「……!」
「どういうつもりだ?ポケモンの攻撃を自分から受けるなんてよ」
「ポケモンを体を張って守ろうとするのは、ちょっとした私の癖でね…」
ナオキは攻撃を受けた場所を手で抑えながら言った。
「ポケモンバトルを見る度に私は思ったんだ。『ポケモンがやられてるのに、それを支える存在である私達人間がただ立ってるだけで、何もやらないでどうするのさ!』ってね…」
「あの時、ナオキくんは、体を張ってあなたを守ってくれたよね。自分でやった事とはいえ、ナオキくんがポケモンのためにあんな事までするなんて思いもしなかったわ」
ヒカリはナオキが行った事を一番気にしていた。
「ナオキくんは平気そうにしてたけど、きっと本当はすごく痛かったんだよね…。だって、人間がポケモンの技を直に受けたんだもの…」
ヒカリはふとあの時の事を思い出した。
ナオキがハクタイシティから帰ってきた時…
ナオキは、背中に大怪我を負ってヒカリの前に現れた。
あの傷跡はあの時、ナオキは『野生ポケモンに襲われた』とヒカリに言っていた。
しかし、野生ポケモンといえど、ポケモンがいたらここまで大怪我を負わされる事はないのはヒカリもひそかに気付いていた。
(あの時…きっとナオキくんはポケモンの攻撃からマグマラシを庇ったからあんな大怪我を負ったんだよね…)
野生ポケモンからだろうと、そうでなかろうと、少なくともナオキがポケモンの攻撃からマグマラシを体を張って守ったからあの傷を負ったのだというのは明らかだった。
(あの時も…きっとすごく痛かったんだろうなぁ…)
ヒカリはナオキが隠していた痛みの事を考えると、胸が痛くなった。
「ナオキくんは私達よりもポケモンの痛みを知ってるからきっとああいう事ができたんだよね…」
ヒカリはトバリシティでナオキと一緒に戦った時の事を再び思い出した。
「私はまだポケモントレーナーとして経験を積んでないから、その分ナオキくんに出来る事を任せればいいって思ってたけど、それは違った…。ナオキくんが後ろでポケモンに指示をする事の他に自分に出来る事をしたように、私にも私に出来る事をやるべきだったんだわ…」
ヒカリは下を向いた。
「ナオキくんは…私の図鑑を取り返してくれただけじゃなくて、私のポッチャマを体を張って守ってくれた…」
ポッチャマはヒカリと共に下を向いていた。
ヒカリの今の様子を見ない方がいいと思っているからなのだろう。
その時、ポッチャマはさっきまでたっていた音とは明らかに違う音がしたのを感じ取った。
ポッチャマはふと横を向いた。
ヒカリの足に滴が落ちていた。
「それなのに私はナオキくんに頼りすぎて、ナオキくんに苦労をかけて、おまけにナオキくんにあんな事をさせるくらいナオキくんの足を引っ張る事をしちゃった…。そしてナオキくんは、そのせいであんな痛い思いをさせちゃった…。ごめんねナオキくん…。あなたの苦労も知らないであなたををあんな目に合わせちゃって…本当にごめんね…」
ヒカリは大粒の涙をポロポロ零しながら喉を詰まらせるように今ここにいないナオキに言った。
その涙には、ナオキと別れる前にその事を言えなかった後悔も含まれていた。
ポッチャマは、大粒の涙をポロポロ零しているヒカリを悲しそうな目で見ていた…
ヒカリと少し離れた場所にナオキはいた。
ヒカリが泣き出す前に着いたのだが、行こうとした時にヒカリが泣き出したので、足を止めてしまったのだ。
「…どうすんだ?あれじゃあ、アクセサリー返しに行けないんじゃねぇか?」
「…あと5分くらい待ってみよう」
「そうだな」
ナオキはヒカリが泣き止むのをもうしばらく待ってみる事にした。
しばらく待ってみたが、ヒカリは相変わらず泣き続けていた。
何もしてないためにそう感じてるからかもしれないが、5分も二人には長いように感じた。
「…この様子じゃ、しばらく泣き止まないかもしれねえな」
「…そうかもね…」
その時、ナオキはふと何かを思い付いたような仕草をした。
しばらくしてしてヒカリはようやく泣き止んだ。
ヒカリは目元に残った涙を手で拭った。
「…いつまでも泣いてちゃ始まらないわね。次にナオキくんに会った時にあらためて謝ろうかな」
ヒカリはポッチャマの方を向いた。
「ごめんねポッチャマ。心配かけたけど、もう大丈夫よ」
ヒカリはポッチャマに小さく微笑んだ。
その時…
「…?」
ヒカリのいる場所に明るい日差しがさした。
空はもう夜に近いくらいの暗い色をしていた。
しかし、その中から日差しがさしたのだ。
これは『残照』という太陽が沈んだ後もなお雲などに残っている夕日の光である。
「日が沈んだ後も日差しが残ってる時ってあるんだね」
その時、ヒカリは横を見た。
横で何かが光っていた。
近づいてみると、それはアクセサリーだった。
「これ…私がトバリシティで買ったアクセサリーだわ。いつの間にか落としていたのね…」
ヒカリはアクセサリーを拾った。
「?」
その時、ヒカリはアクセサリーの下に何かがあるのに気付いた。
それは、一枚の紙だった。
アクセサリーを包むためかと思ったが、何か書かれていた。
ヒカリは僅かに残された残照を明かりにしてそれを読んだ。
『ヒカリちゃんへ
今日は一日ありがとう。君のおかげで新しい街を見つけられたし、色んなポケモンにも会う事ができたよ。
君に会わなかったら私達はノモセシティを見つけられなかったから、本当に助かったよ。また、君に教えてもらっちゃったね。
君は私が君のポッチャマを庇った事を心配してたみたいだけど、気にしないで。これは私が勝手にやっ事だから、君は悪くないよ。それよりも私は君の役に立つ事ができてよかった方が一番印象に残ってるからね。
今日は本当にありがとう。また一緒にどこかに行こうね
ナオキ』
それはナオキからの手紙だった。
ヒカリはふと前を向いた。
ナオキがいる…ヒカリは今その事に気付いた。
しかし、そこにはもうナオキはいなかった。
「……ナオキくん…」
ヒカリはナオキが去っていった方をしばらく見ていた。
ヒカリの目から再び大粒の涙が零れ落ちた。
ヒカリの涙は、残照に照らされ、キラキラと光りながら地面にポタポタと落ちていった。
静かに泣くヒカリをポッチャマはただ静かに見つめていた。
ナオキはマグマラシと共に帰路に着いていた。
「本当にあれでよかったのか?もうだいぶ暗くなったから気付かないんじゃねえの?」
「…多分大丈夫だよ。きっとヒカリちゃんも気付いてくれるよ。」
ナオキは後ろを見た。
残照がさっきいた場所を明るく照らしている。
「……きっとね…」
ナオキの右手にあるブレスレットが残照により、微かに光っていた。
残照が照らす中、ナオキはマグマラシと共に人知れずその場を後にした。
残照は、今もなお明るく辺りを照らしていた。