翌日。

聖地エレメンタル内は、今日も変わらない朝を迎えた。

ただ一つの事を除いて…



「おはよう、マグマラシ。」

「今日もいい天気だな。」

「そうだね。シンオウ地方って北の地方だから、明るい日は他の地方と比べて少ないと思ってただけにさ。」

「よう、アンタらもう起きてたのか。」

「おはよう、パルキア。君もたった今起きたんだからそんなに変わらない事だよ。」

パルキアがナオキ達の所に来てすぐに向こうからも声が聞こえた。

「みんな、おはよう。」

「あ、レントラー。おはよう。今朝はよく寝れた?」

ナオキがこういうのは、レントラーにとって、ここは初めて寝泊まりする場所だったので、彼にとってはまだ慣れない環境にあると思ったからだ。

「ああ。岩山の中とは思えないくらい寝心地がよかったよ。ここって不思議な所なんだね。」

レントラーが仲間に加わった翌日の朝だった。



朝ごはんを済ませ、ナオキ達は休憩をとっていた。

「今日はトライスさん達の情報によれば、ギンガ団の動きがないって言ってたよ。緊急の事がない限り、今日は久々にゆっくりできそうだね。」

「ガーディアン達によれば、ギンガ団の隠れアジトが壊滅してギンガ団にかなり痛手になったから、今その事で他の事に手が付けられないんだってな。」

「昨日の事が偶然だけど、ギンガ団にかなり大きな傷を残す事になったみたいだね。」

ナオキはレントラーの方を向いた。

レントラーはナオキと目を合わせると、小さく微笑み、パチッとウインクをした。

ナオキはそれに返すように、レントラーにパチッとウインクをした。

こういうのは、普通二人しか知らない事に対してやる事なのだが、二人でやった事である以上、二人には関係のない事のようである。

もちろん、マグマラシとパルキア、そしてガーディアン達もこの事実は知っている。

「それじゃあ、今日はシンオウ地方の色んな所を見に行ってみようか。」

「そうだな。まだハクタイシティって所までしか行ってねえからな。」

「オレもいいか?」

パルキアがナオキに言った。

「…どうしようかな…。今日はギンガ団の奴らがいないから、大丈夫だとは思うけど…。」

「けど、何だ?」

「君の移動手段で、また迷子にならないかが心配なんだ。」

「あ…。」

パルキアは図星を言われた仕種をした。

「まあ、迷子にならないように過ごすなら、いいよ。ちゃんとエレメンタルに戻ってくるようにね。」

「おう、わかったぜ。」

パルキアはこくりと頷いた。

「オレはどうすればいいかな?」

そう言ってきたのはレントラーだった。

さっきまでなかなか環境になじめないからか、ずっと沈黙していたようだ。

「君はここに来たばかりだから、ここの入口の近くある森に住むポケモン達に顔を覚えてもらいに行きなよ。これから頻繁に会う事になるだろうからね。」

「自己紹介みたいな感じかな?…それならいいけど、大丈夫かな…?」

レントラーはよそから来たポケモンだというのを理由に不安を抱いていた。

「まずは、とにかくやってみる事が大事だよ。よその場所にいる相手と付き合うのは、普通の事なんだから、とにかくまずはチャレンジしないと。パルキアだって私達がいない間に森にいるポケモン達とだいぶなじめるようになったからね。」

パルキアは、ナオキ達が戦いに出ている間に、ひそかに森に住むポケモンと交流をしていたのだ。

最初は引かれたが、存在をアピールするうちに、周囲はだいぶパルキアに寄ってくるようになった。

何事も失敗を恐れずにやる事が大事というわけだ。

「…わかった。そうしてみるよ。」

「もし、何か困った事があったら私達に言ってね。」
レントラーはこくりと頷いた。





エレメンタルの外。

ナオキとマグマラシ、そしてレントラーはしばらく森の中を歩いていた。

「あらためて歩いてみると、色んなポケモンがいるんだね。」

レントラーがこう言うのは、ここはシンオウ地方のタウンマップでは名付けすらされていない場所だからなのである。

位置から考えて言えるのは、この森はコウキの故郷であるフタバタウンの左側にある森の中と言う事である。

「この森を通って、しばらくしたらフタバタウンっていう町に着くんだ。」

「フタバタウン?」

「あ、そうか。あの時私達がいたのはフタバタウンを通る道じゃなかったから君が知らないのも無理はないね。」

前回二人がいたのはフタバタウンを通らない場所にある森の中だった。

そのため、レントラーがフタバタウンの事を知らないのも無理はない。

「あ、ナオキ!」

声がした方を向くと、そこにシンオウ地方に来て二番目に会ったポケモン、コリンクの姿があった。

二番目というのは、シンオウ地方に来て初めて会ったのは、何気にパルキアだったからだ。

「おはよう、コリンク。」

「おはようナオキ。あれ?今日はもう一人いるみたいだね。」

「そうだよ。昨日私達の新しい仲間になったレントラーっていうポケモンなんだ。」

「はじめましてというべきかな。オレはレントラー。キミの最終進化形態だよ。」

レントラーは緊張した様子はなく、堂々とした様子でコリンクに挨拶をした。

レントラーはここに来るまでは、別の森の中でポケモンと暮らしていたので、人見知りはそんなにないようだ。

「え?ぼくの最終進化形態?ぼくが進化するとキミになるの?」

「そうだよ。その前にルクシオっていうポケモンになるけどね。」

「すご~い…。ぼくも将来こんな強くてカッコイイポケモンになれるんだ…。そうなる時がすぐにじゃなくてもいいから早く来てほしいな…。」

ナオキは、コリンクのこの言動からコリンクを仲間にしなくてよかったとひそかに思っていた。

ガーディアンのパーティーは、その隠された力を引き出す事ができるなどの代償として進化する事ができなくなる。

メカニズムを例えるなら、ニャースが人間語を喋れるようになった代償として、進化する力をなくしたという感じである。

「今日からオレも頻繁にここに来る事になるからよろしく頼むよ。」

「ぼくの方もよろしくねレントラー。」

二人は握手をするような感じで前足を付けた。

「早速打ち解けれたみたいだね。」

「ナオキ。」

レントラーはナオキがいる方を向いた。

「その様子なら、後は君一人で大丈夫そうだね。」

「え?」

「私達はここで失礼するよ。君一人でやる事も打ち解ける事において大事な事だからね。」

「え?で…でもここに来たばかりのオレだけで…。」

レントラーは少し慌てていた。

「大丈夫だよ。この森のポケモン達は他の場所から来たポケモンもちゃんとした待遇をしてくれるからね。そうでなかったら、今頃私はこうしようとは思わないもの。」

ナオキはそう言ってレントラーに何かを布に包んだものをかけた。

「それじゃあ、後は自分で頑張ってね。困った事があったら、テレパシーで私達に伝えてね。」

そう言ってナオキとマグマラシは森の中を歩いていった。



「……オレだけになったけど…本当に大丈夫なのかな…?オレは他の場所から来たポケモンだし…それにこんな怖い顔をしてないのにこういう顔してるから怖がらなきゃいいけど…。」

レントラーはまだ不安な様子だった。





レントラーは森の中を歩いた。

「コリンクはオレの前身理由だからよかったけど、他のポケモンはどうかな…。」

レントラーは辺りを見回していた。

怪しまれる危険性があるためか、レントラーは目を光らせていなかった。

すると…

「あれ?キミ見かけないポケモンだね?」

「?」

レントラーが向いた先にムックルがいた。

「キミはムックルかな?そうだよ。昨日ここに来たばかりなんだ。」

「そうなんだ。珍しいね、ここに進化形のポケモンがいるなんて。ボク達の住んでる森は、コロトックさんとかしかいないんだ。」

どうやら、この森ではレントラーのような最終進化形態のポケモンは珍しいようである。

「新しいポケモンが来た事をみんなにも知らせてこなくちゃ。他のみんなにキミの事を伝えておくね。」

「ああ。よろしく頼むよ。」

レントラーがそう言った後、ムックルはどこかへ飛んで行った。



その後もレントラーは色んなポケモンに会った。

「ここにいるポケモンって意外に気さくなんだな…。」

そうレントラーが呟いた時…

「あ…。」

レントラーは自分のお腹が鳴ったのに気付いた。

レントラーは首に巻いてある包みに気付いた。

「そういえばこれナオキから貰ってたな…。」

レントラーは包みを開いた。

「!」

包みの中にはおにぎりが入っていた。

「……。」

レントラーはしばらく包みを見続けていた。

それからしばらくしてレントラーはおにぎりを口に運んだ。

ガーディアンの力で前足を手のように使えたが、まだ使い慣れてないからか、あえて前足で掴まず、そのまま口に運んだ。

「うまいもんだな。ただご飯に何かを入れて固めただけなのに、オレが今まで食べてきた中で一番うまいもんに思えるぜ。」

レントラーは黙々とした様子でおにぎりを食べていた。

「きのみとかはただ取るだけでいいけど、こういうやつは誰かが作らなきゃできないからそう思うのかもしれないね。」

レントラーはまた一つ、見通せない優しさを感じた。





夕方になり、レントラーは帰路に着いた。

すると…

「あ、ナオキ。」

「やあ、レントラー。君も帰る途中かな?」

「そうだよ。」

「今日はどうだった?」

「少し不安だったけど、みんないい奴ばかりだったよ。キミの方は?」

「ここのところ最近、ギンガ団との戦いが多かったから、こんなのんびり過ごしたのは久々だったよ。」

「え?」

レントラーは自分にとっては当たり前のように思う事をなぜ滅多にない事のように言うのか不思議に思った。

その時、レントラーは急に何かに気付いたような仕種をした。

(そうか…。キミは…。)

レントラーは気付いたのだ。

ナオキがわざわざ当たり前に思える事を言った理由に…


彼らは戦いのある真っ只中にいるので、こういう日は、滅多にないのが現状なのである。

こういう当たり前のように思える事も今の彼らには大事な事なのだ。

彼らが戦うのは、こういう当たり前の平和な日を当たり前の事にするためでもあるのだ。

(そういう事なら、キミがオレの事に手をつけてられないと思わざるをえないのも無理はないね。)

レントラーは最初他人任せで少し気に食わない受け止め方だったが、今になってナオキがそうした本当の理由に気付いた。

レントラーに昼ご飯を持たせたのも、ナオキがレントラーにできる限りの事を少しでもやっておこうという意志があった事をレントラーに伝えていた。

レントラーは小さく微笑みながら、ナオキを見た。

(あらためてオレも協力するよ。キミ達がこんな平和な日を送れるような存在になるようにね。)

レントラーはナオキに言った。

「ナオキ。」

「?」

ナオキはレントラーの方を向いた。

レントラーは小さく微笑みながら言った。

「あらためて、これからもよろしく頼むよ。」

レントラーがなぜわざわざそう言ったのかナオキは最初わからなかったが、レントラーの様子から、レントラーが何を伝えたいのかが何となくわかったような気がした。

「私の方もよろしくね、レントラー。」

レントラーはニッコリ微笑みこくりと頷いた。

明るい夕日が照らす中、二人は先に帰った仲間の待つ聖地エレメンタルを目指して静かに森の中を歩いていった。

新たな場所で得た新たな仲間達の思いを感じながら…