二人は檻を壊して捕まっていたポケモンを解放した。

「もう大丈夫だよ。さあ、気をつけてトレーナーのもとに帰ってね。」

「本当にありがとう!これでやっとトレーナーのもとに帰れるよ。」

「ごめんね。ボク達のためにそんな痛い目に合わせちゃって…。」

悲しそうな顔をして言ったポケモンにナオキは優しく微笑みながら言った。

「君達を助けるためならわけないよ。」


ポケモン達は一目散にハクタイビルから去っていった。



辺りは静寂に包まれた。

もう捕われているポケモンはいないようである。

「よし、これで全員解放したね。」

「そうみてえだな。オレ達もそろそろ帰ろうぜ。」

「そうだね。」

ナオキはつばさでうつを受けた場所をおさえながら言った。

「………。」

マグマラシは傷だらけのナオキをしばらく何も言わずに見ていた。






ハクタイシティ内では、さらわれたポケモンがトレーナーのもとに戻ってきて、みんな大喜びしていた。

「ミミロル!無事だったんだね!よかった…。」

トレーナーは泣きながらミミロルを抱きしめた。

ミミロルも嬉しそうな顔をしていた。

「ぼくのポケモンも帰ってきたんだ!」

「誰かがあのハクタイビルにいる奴らを退治してくれたんだ!」

「でも誰がやってくれたのかな…?」

「オレが来た時はもうあの建物の中には誰もいなかったんだよな…。そういえば、見た事のないポケモンを連れた紫色の髪をした人がいたような…。」

ミミロルのトレーナーがそう言ってた時…



「私達、なにげにヒーローになってるね。」

「ああ。けどよ、さすがに今は姿は見せらんねえよな。」

「まあね。」

一般の人というのはヒーローみたいな人にはかなり敏感であり、姿をあらわにすればまるで有名人が来たかのように追っかけ状態になる。

何より、今のナオキの状態を考えれば人々はかなり心配してさらに追っかけ状態になるのは間違いない。

そうなれば二人は外を出歩く事ができなくなる事に成り兼ねないのだ。

それに何より…

「真のヒーローは目立ちすぎないようにするのが普通だからね。」

「だな。誰かが自然に気付くまで待つのが一番いい目立ち方だもんな。」

辺りはすっかり日が暮れていた。

ナオキは変身を解除した。

もちろん、変身を解除しても受けた傷はそのまま残っていた。

「マグマラシ、この際だからもう少しだけこの町を見に行ってみない?」

「いいけど、ナオキ体大丈夫なのか?」

マグマラシはかなり心配そうな様子でナオキに言った。

「大丈夫だよ。背中は痛むけど、もし大丈夫じゃなかったら私の方から言わないでしょ?」

「そうか。ならいいけどよ。」

マグマラシはそれでもやはりナオキの事が心配でならないようだった。



しばらく歩くと二人は足を止めた。

「これは…?」

二人の見た先には何やら銅像みたいなものがあった。

「何かの像みてえだな。」

マグマラシは像を見渡しながら言った。

「そうみたいだね。…!」

ナオキは何か思い出したような反応をした。

(そういえばさっきジュピターが言ってた…)

ナオキはジュピターとの戦いが終わった時の事を思い出した。



(いいわ。ポケモン像の調査も終わった…)


「あの時奴が言ってた『ポケモン像』ってもしやこれの事なのか…?」

ナオキがそう思った時…

「?」

ナオキは何かに気付いたような反応をした。

ナオキの見た先には何かが書かれた石版があった。

かなり昔のものらしく、所々文字がかすれていた。

「『うみだされしディア…わたしたちにじかんをあたえる。わらっていてもなみだをながしてい…おなじじかんがながれ…それはディア…のおかげだ』…所々文字がかすれてて読みづらいな…。」

「随分と古い石版みてえだな。この掠れぐらいは自然にできたやつだけによ。」

「石版に書くのは長くもつ代わりに長い年月が経てばこういう形で最終的に読めなくなる。長くもつのをずっともつと誤解して代わりに書く事をしないんだ。書籍に残されているものとはまさに対極関係にある残し方をいいうんだよね。」

石版のような長くもち、壊れにくいものはそれを永遠にもつものだと錯覚してどこか代わりにコピーしておく事をしない。

そのため、その石版が伝えたい事は遠い未来には伝わらなくなってしまう事があるのだ。

その一方で、書籍のような紙に書いた物はそれよりも残りやすいものなのである。

紙は石版と比べてすぐに破れたり、すぐに燃えてしまうなどのようにとても脆い物であるが、それがかえって人々に代わりを作らなければという意志を持たせ、石版よりも後世に残しやすくしてくれるのだ。

何世紀前の書籍が今も残されているのはそういう理由があるわけだ。

もちろん、アショカピラーみたいに何世紀経っても形が完全に変わらないものもあるが、大部分は書籍のような代わりの書き継ぎによって現代に残っているのがほとんどなのである。

「一応、脈絡からだいたいの内容はわかるよ。」

「じゃあ何て読むんだ?」

「一つだけわからない所があるけど、それを除けばこう書いてあるんじゃないかな。」

ナオキは石版の文字を指でたどりながら読んだ。

「『生み出されしディア…私達に時間を与える。笑っていても涙を流していても同じ時間が流れている。それはディア…のおかげだ。』…。多分こうなんじゃないかな。」

「なるほどな…。でもこの『ディア』ってなんだろうな?」

マグマラシは前足でかすれている文字を指して言った。

「『生み出されし』の後の脈絡から多分これは誰かの名前を指すんだと思うけど…。この像のポケモンなのかな…?」

像の姿は明らかにポケモンだった。

「…!」

その時、ナオキは閃光的に何かを思い出したような仕草をした。

「そういえば、私達がパルキアと出会った時に…。」

ナオキはパルキアに初めて出会った時の事を想起した。



(あの時、パルキアはこんな事を言っていた…。)



(オレ、今日…と待ち合わせしてたんだ。けどな…)


(あの時、パルキアは今私達が考えてるこのかすれた誰かの名前を言ってたはずだ…。確か…)

ナオキはしばらく考えていた。

そして、ナオキの脳裏に閃光のようにそのキーワードが浮かび上がった。

(間違いない…。このかすれた名前は…。)





「どうしたんだナオキ?何かわかったのか?」

マグマラシがナオキに言った。

ナオキはしばらく黙り込み、その後マグマラシの方を向いた。

「マグマラシ、わかったよ!この像の正体が!」

「え!?」

マグマラシは驚愕したように言った。

「この像のポケモンは『ディアルガ』って言うんだ。」

「ディアルガ?」

「そう。そして、この『ディアルガ』ってポケモンは、時間を私達に与えたポケモンみたいなんだ。」

「時間を与えたポケモン?それって本当なのか?」

「この石版が私達に伝えたい事は、『生み出されたポケモン、ディアルガは私達、人とポケモンに時間を与えた。私達が笑っていても泣いていても同じ時間が流れるのはディアルガがいるからだ』っていう事なんだ。」

「そうだったのか…。それにしても時間を与えたポケモンなんてすげえな。」

「神様って言われるのもまさにもっともだよね。」

ナオキがそう言った時、マグマラシが今思い出したようにナオキに言った。

「そういやパルキアも似たような存在じゃなかったか?あいつ確か『空間を司る』って言ってたしよ。」

「…そういえばそうだね。もしかするとパルキアと何か関係があるのかもしれないね。」

そう言った時、ナオキはひそかに考えていた。

(ジュピターが言ってた『ポケモン像』はこの事なんだろうけど…奴らはこの像をなぜ調べてたんだ…?そういえばジュピターがこんな事を言ってたな…)

ナオキはジュピターがあの時言っていた事をもう一つ思い出した。


(1つだけ教えてあげる。ボスは伝説のポケモンの神話を調べ伝説のポケモンの力でシンオウ地方を支配する…)



(…奴らはレジェンドの力を狙ってる事は間違いない。とすれば…奴らは神話に関する事を調べあげ、レジェンドにたどり着く方法を探しているという事なのか…?)


ナオキがそう考えた時…

「ぐっ…。」

ナオキは急にその場にがくんと崩れた。

「ナオキ!」

マグマラシはナオキのもとに駆け寄った。

「…やはり、つじぎりが響いたみたいだ…。君の言う通り、無理しない方がよかったみたいだね…。」

ナオキは時折、口から滲むように血を吐き出しながらマグマラシに言った。

マグマラシは心配そうな顔でナオキを見ていた。

「今日はここで帰る事にしよう。ギンガ団も追い払ったし、いい情報も手に入れたからね。」

ナオキはあくまで自身の事情を理由にはしなかった。

「………。」

マグマラシは心配そうな顔をしてナオキを見続けていた。

ナオキはマグマラシに小さく微笑んだ。

「大丈夫だよマグマラシ。こんな傷、君がポケモンセンターに行けばすぐ治るように聖地エレメンタルに戻ればすぐに治るからさ。」

「…そうだな。」

マグマラシは素直にそう言えない様子でナオキに言った。





帰り道。

二人はマサゴタウンまで来ていた。

辺りはだいぶ夕日が沈みかけている頃だった。

二人が歩いていたその時…

「あ、ナオキくん!」

「?」

ナオキはふと声のした方を向いた。

ヒカリがナオキのいる所に駆け寄ってきた。

「ヒカリちゃん。」

「偶然ね。今帰るところ?」

「まあね。だいぶ日も暮れたから。」

「マグマラシも元気そうね。野生のポケモンと戦ってきたの?」

ヒカリはマグマラシを撫でながら言った。

撫でた感触だけでなく、ぱっと見でわかる程傷が目立つのでヒカリがそう言うのも無理はない。

その時…

「…?」

ヒカリは何かに反応した仕草をした。

「ナオキくん!?どうしたのその怪我!?」

ヒカリはナオキの傷に気がついたようだった。

トライスの状態で受けた傷はナオキに戻っても残るので気付くのは当たり前の事だった。

幸い、背中の傷は服で隠れていたが、服から滲んだ血がその隠蔽を破っていた。

「あ、これ?いやあ、ちょっと野生ポケモンに襲われちゃってね…。でもたいした事はないから大丈夫だよ。」

もちろん、ナオキは真実を言っていなかった。

ヒカリもそれにひそかに気付いていた。

ヒカリの目は少し泳いでいた。

「それじゃあ私はこれで失礼するね。この怪我を治さなきゃいけないからさ。またね、ヒカリちゃん。」

そう言ってナオキは力のない様子で歩いていった。

ヒカリは心配そうな顔で二人の姿が見えなくなるまで二人を見送った。

「ナオキくん…。」

ヒカリの目に何かが光っていた。






二人は歩き続けていた。

「ナオキ、歩けるか?」

マグマラシは心配そうな顔でナオキに言った。

「大丈夫だよ。聖地エレメンタルまでもうすぐだかもうひと頑張り…。」

ナオキは口から滲むように血を吐き出した。

「ナオキ…。」

マグマラシは悲しそうにナオキを見ながら歩いていた。



ナオキは囁くように言った。

(君もわかってるだろうけど、確かに本当はすごく痛くていつまで歩けるかわからないような状態にあるのが私の体の本音だよ。けど、私はそれでも大丈夫だって言う事ができる。それは…)

ナオキはマグマラシの方を向いた。

(君が私の事を心配してくれるからなんだ…。私の頑張りが伝わってくれてるから君は私の事を心配してくれる…。だから私は頑張れるんだ…。私の『幸せそのもの』を護るため…そして力になるためにね…)

ナオキの囁きにはマグマラシだけでなく、ヒカリが心配してくれた事もひそかにあった。



満身創痍でありながらも夕日よりも明るい笑顔を見せながらナオキはマグマラシと共に帰り道を歩いていった。