翌朝。

聖地エレメンタルに明るい日差しが差し込む。

昨日とは違う朝を迎えた。

朝というのは迎える事そのものは同じだが、『それをどういう形で迎えるか』は違う時があるのである。



「おはよう、パルキア。もう起きてたんだ。」

「ああ。こんな居心地のいい所は初めてだからよ。いつもより早く起きたんだ。」

自然に早く起きれたのはよく眠れた証拠である。よく眠れるのはやはり環境も関係しているようだ。

「昨日とは本当違う朝を迎えたな。」

目元をゴシゴシこすりながらマグマラシが言った。

「違う朝?何が違うんだ?」

パルキアはキョトンとした様子で言った。

「…気付かないの?君だよ。」

「?」

パルキアはまだわからないようだった。

「…まあいいや。気にしないでいいよ、パルキア。」

ナオキは『パルキアが住み始めた事』を言いたかったのだが、これ以上言っても無駄だという事を悟り、これ以上言うのを止める事にした。

パルキアは自分自身がここにいるのは初日にも関わらず、もう当たり前の事だと思っているようだ。自覚を持たないのはそのためなのだろう。



朝食を済ませた3人は食器を片付けた後、再びその場に集まった。

「今日はもう少し奥まで行ってみようか。」

「そうだな。昨日コウキが行った方に行ってみようぜ。」

「OK。それじゃあ早速身支度をしよう。」

「おうよ。」

「君はどうする?」

ナオキはパルキアに言った。

「う~ん…そうだな。昨日アンタらがまたギンガ団の奴らに会ったんなら、まだむやみに外に出るわけにはいかないか…。」

パルキアは悩んでいた。

「まあ、確かに昨日はガーディアンの方達が伝えた情報ではなく、偶発的に会ったような形だったからね。ガーディアン達によればまだギンガ団の潜伏状態がまとまってないらしいんだ。」

ガーディアン達は色んな所を見て回り、悪の組織に関する情報を集めている。

いわゆる、スパイ映画みたいなものである。



「それじゃあ今日もここに避難しておく事にするぜ。」

「それがいいね。」

そう言ってナオキは身支度を始めた。





「OK。それじゃあ早速出発しようか。」

「おう、行こうぜ!」

マグマラシはワクワクした様子でナオキに言った。

「それじゃあパルキア、また夕方にね。」

「ああ。気をつけて行ってこいよ。」

パルキアに見送られ、二人はエレメンタルの出口を潜っていった。






出た場所はいつもの森。

タウンマップからすればフタバタウンに隣接する森である。

初日に出会ったポケモン達と挨拶を交わしつつ、二人は森を歩いていった。

そして気がつけばコウキの故郷、フタバタウンに到着した。

「あら、ナオキくん。」

「アヤコさん、おはようごさいます。」

ナオキは布団を干しているアヤコに挨拶を交わした。

「今日もどこかに行くの?」

「はい。まだここに来てから2日しか経ってないので、もっと色んな所を見に行ってみようと思いまして。」

「そうなの。来たところから考えると、かなり遠い所まで行って大丈夫なの?」

「その時はポケモンセンターに泊まりますよ。私も一応ポケモントレーナーみたいな存在ですから、それくらいは知っておかなければなりませんからね。」

「それなら心配ないわね。コウキに会ったらまたよろしく頼むわ。やっぱりまだ10歳だから、ポケモンを連れてるとはいえ1人で行かせるのは心配だからね…。」

「………。」

ナオキは昨日の事を思い出した。

確かに昨日は自分達が助太刀をしたからコウキは難を逃れたので、アヤコが心配するのも無理はないと思った。

しばらくしてナオキは言った。

「心配ありませんよ。昨日言ったじゃないですか。『コウキくんはこれからとても強いポケモントレーナーになれる』ってね。今でもコウキくんは少しずつ成長していってるはずですよ、きっとね。」

「そうかもしれないわね。ありがとうナオキくん。おかげで安心したわ。」

「いえいえ。御礼を言われる程の事ではないですよ。」

そう言いながらも、ナオキはアヤコの心情をひそかに感じていた。

コウキが旅に出てから、アヤコはずっと一人で日々を送っていた。

そのため、ずっと寂しい毎日を送っていたので、こういう話に付き合ってくれる人を欲しがっていたのだ。

話の相手をしただけでなく、コウキのこれからを期待させてくれる事を言ってくれたので、アヤコはナオキに感謝の気持ちを抱いていたのだ。

干された一枚だけの掛け布団がアヤコの日常を物語っていた。

(…これからも、できる限りアヤコさんのお相手をしますよ。私が心の支えになってくれるんでしたらね。)

ナオキは干されている掛け布団をちらりと見て言った。

「それではこの辺で。」

「ええ。話に付き合ってくれてありがとね。気をつけて行ってらっしゃい。」

「はい。それでは。失礼します。」

ナオキはマグマラシと共にフタバタウンを後にした。

アヤコは干されている布団をふと見た。

干された布団は吹いてきた風に微かにあおられていた。

アヤコはそよ風のように小さな声で囁いた。

「明日久しぶりにコウキの布団も干そうかしら…。」

太陽は朝よりも明るい日差しでフタバタウンを照らし続けていた。






二人はマサゴタウン、コトブキシティを通り、ソノオタウンへと入っていった。

「相変わらず綺麗だな。」

「そうだね。建物の代わりに花畑があるのもなかなかいいものだよ。」

建物の代わりに植物を植える。

これは情景のためだけでなく、環境のためにもつながるのである。環境問題が深刻になってる今はまさに真剣に受け入れるべき事と言えよう。



ソノオタウンを後にした二人は205番道路に入った。

「確か昨日コウキくんが行った道は向こうだったよね。」

「そうだな。あの黄色い木がある方に歩いていったんだよな。」

昨日コウキの姿が見えなくなるまで見送っていたので、二人はコウキが進んでいった道の周りの情景を知っていたのだ。

それだけを見てるつもりでも、視野というのは別の物も無意識のうちに認識しているものなのである。

二人はコウキの行った方向へ進んで行った。



しばらく進むと、そこに大きな森があった。

「ここは『ハクタイのもり』。時と共に生きる森林…か。なかなか詩的でいいフレーズだね。」

ナオキは看板を見ながら言った。

その時…

「?」

ナオキがふと横を見ると、誰かが走ってきた。

緑色の髪をして、服は黄緑、スカートは深緑と緑色ばかりの女性だった。

「あの…はじめまして…。」

「あ、はい…はじめまして。」

ナオキが少しまごついた様子で返答した時、その女性は言った。

「あたしの名前は『モミ』。あなたは…?」

「私の名前は『ナオキ』。このポケモンはマグマラシと言います。」

「ナオキさんって名前なんだ。」

そう言った時、モミは慌てた様子で言った。

「ねえナオキさん、お願いがあるの!」

「お願い?」

モミはこくりと頷いた。

「この森を抜けたいけれど、あたし一人じゃ心細いの。ギンガ団とかいう怪しい人がうろついてるって聞いたし…。」

(ギンガ団もだいぶ周囲に知られるようになってきてるみたいだな…。)

ナオキはギンガ団の活動が活発になっている事をひそかに感じていた。

「旅は道連れって言うでしょ。ね!一緒に行きましょうよ!」

モミは訴え出るようにナオキに言った。

「いいですよ。こんな私達でよければ。」

ナオキは悩む事なくモミに即答した。

「いいんですか?あ…ありがとうございます…。」

モミは胸を撫で下ろすように言った。

「その代わり、傷ついたポケモンは全て治してあげますからね。」

「はい。ですが、私もあなたに頼りすぎず、あなたの力になれるようにしますよ。」

ナオキは小さく微笑みながらモミに言った。





二人は早速ハクタイの森を歩いた。

モミは少し怯えている様子だった。

その時、ポケモンが草むらから飛び出してきた。

「!」

モミはビクッとした。

「早速出たか。行くよ、マグマラシ!」

「おうよ!」

マグマラシが一歩前に出た。

「あ…そうだわ。怯えてちゃいけないわね。ナオキさんがいるんだから。」

そう囁き、モミはモンスターボールを構えた。

「行け、ラッキー!」

モンスターボールが開かれ、ラッキーが姿を現した。

「なかなかいいポケモン持ってるんですね。」

「そうかしら?」

ラッキーはかなり貴重なポケモンと言われているが、モミはその事を知らないようである。

「マグマラシ、ひのこ!」

「ラッキー、はたく!」

二人のポケモンの攻撃が野生ポケモンを襲った。

「すごい。ナオキさんと一緒に行ってよかったわ。」

「いえ、あなたのポケモンもなかなかですよ、モミさん。」

二人は前へと進んでいった。

時々野生ポケモンだけでなく、トレーナーとのダブルバトルになるのも少なくなかった。



「だいぶ体力を使ったみたいですね。あたしが治します。」

モミはマグマラシにキズぐすりを使った。

マグマラシの様子からモミは感じた。

「考えてみたら、あなたの方があたしよりも戦ってくれてたんですね。」

ラッキーよりもナオキのマグマラシの方が傷だらけだという事にモミは気付いていたのだ。

「そんな事ありませんよ。モミさんのラッキーも私達に負けないくらい…いえ…それ以上の活躍をしてくれてるのに私も気付いていますから。」

ナオキは一見平気なように見えるモミのラッキーが、実はかなり傷だらけである事に気付いていた。

ラッキーはマグマラシと比べてHPが高いが、それでもダメージが堪えるのは当たり前の事だった。

「私もモミさんのラッキーを治してあげますよ。」

そう言ってナオキはラッキーの前に立った。

ナオキはポケットから1枚のカードを取り出した。

「?」

ラッキーは『何なのそれ?』というような様子でそのカードを見た。

すると、カードが光りだし、光の塊になった。

ナオキはその光の塊をラッキーに優しく触れるようにラッキーに当てた。

触れた瞬間、ラッキーの体が光りだした。

モミはその様子をただ呆然とした様子で見ていた。

光が消えると、ラッキーに着いていた傷は綺麗に消えていた。

「すごい…あなたって不思議な力を持ってるんですね。」

「ええ。私はちょっと変わった人なんですよ。でも、ただ不思議な力を持ってるだけで、根はあなたと同じ普通の人間ですよ。」

ナオキは小さく微笑みながら言った。





二人はさらに進んでいった。

その時…

「!」

モミは何かに反応した。

モミの視点の先に木に囲まれた道があった。

「あっ!出口!よかったここまで来れたんだ…。」

モミは胸を撫で下ろし、ナオキの方を向いた。

「あたし1人だったら絶対無理だったわ!ありがとう!ナオキさん!」

「あなたの力になれてよかったですよ。お気をつけて。」

「はい。またどこかで会いましょう。さようなら。」

そう言ってモミはハクタイの森の出口を歩いていった。

二人はモミの姿が見えなくなるまで、彼女を見送った。



しばらくしてナオキは言った。

「今日もまた新しい出会いがあったね。」

「そうだな。また会えるといいよな。」

いつまたどこで会えるかわからない存在である以上、モミとは一期一会の関係になるかもしれない。

だが、二人はすれ違いでもいいからまたどこかで会える事を祈っていた。



「私達も行こうか。」

「行こうぜ。」

二人はモミの面影の残るハクタイの森の出口を静かに歩いていった。