ギンガ団が去った後、あの少女が2階に昇ってきた。
「パパ!」
「心配かけたな。もう大丈夫だ!」
少女の父は彼女を優しく抱いた。
「これでとりあえず一件落着ってわけだね。」
ナオキは二人の様子を見ながら言った。
コウキは少し浮かない顔をしていた。
「いや~、本当助かったよ。急にあの宇宙人みたいな奴らが襲ってきて、『ポケモンとエネルギー源をよこせ』って言ってくるもんだから、一時は本当どうなるかと思ったよ。でも、きみ達のおかげで助かったよ。本当にありがとう。」
少女の父親は二人に頭を下げた。
二人とはナオキ、そしてコウキの事である。
「いえいえ。人として当たり前の事をしただけですよ。わざわざ御礼を言って下さってありがとうございます。」
ナオキも頭を下げた。
頭を上げた後、ナオキはふと横を見た。
その見た先にはコウキがいた。
コウキは俯いたまま、黙り込んでいた。
「………。」
ナオキはしばらく黙り込んだ後、あらためてコウキに言った。
「コウキくん、君にも言ってるんだよ。」
「え?…あ、うん。…えっと…どういたしまして…。」
コウキは少しまごついた様子だった。
「コウキくん…。」
ナオキはコウキの気持ちをひそかに感じていた。
「あの宇宙人みたいな奴らがいなくなったから、あの風船のポケモンもまた出てくるようになるかな?」
「ああ、きっとな。次回の金曜日を楽しみに待つ事にしよう。」
父親は少女に微笑みながら言った。
二人は谷間の発電所を後にした。
帰り道、ナオキはトライスの姿のまま、コウキとしばらく歩いていた。
歩く中、ナオキは考え事をしていた。
(奴らはポケモンだけでなく、エネルギーも狙っていた…。私達がかつて戦った組織はたいていはポケモンを狙っていた。だが、今回はポケモンだけでなく、エネルギーも略奪の対象にしていた…。発電所を狙ったのはそれが理由なのだろう…。しかし、一体何のために…?)
ナオキはしばらくギンガ団の言動を推測していた。
その時、コウキは急に足を止めた。
「コウキくん?」
ナオキはコウキの立ち止まった方を向いた。
「………。」
コウキはしばらく下を向いたまま、黙り込んでいた。
しばらくしてコウキは口を開けた。
「…オレ……結局自分で何も出来なかった…。」
「…?」
コウキは体をぶるぶる震わせていた。
「あの時も…それに…谷間の発電所の時も…オレは…何もしてやれなかった…。」
「…!」
ナオキは気付いた。
帽子に隠れたコウキの顔をつたうものに…
「ソノオタウンの時も…オレはナエトルにあんな辛い思いをさせて…谷間の発電所の時も…ちょっとうまくいったぐらいであんなに舞い上がっちゃって…ナエトルにもっとひどい事をしちゃったんだ…。」
コウキの頬を涙が立て続けにつたった。
「あの時も…結局はキミが助けてくれたから勝てたんだ…。キミが助けてくれなかったら…オレはどっちも勝つ事が出来なかった…。結局…オレは…ナエトルに…何一つしてやれなかった」
コウキの涙が地面にポタポタと流れ落ちた。
「………。」
ナオキとマグマラシはコウキをしばらく黙って見ていた。
コウキは下を向いたまま、涙を流し続けていた。
コウキはナエトルの入ったモンスターボールを取り出した。
「ごめんナエトル…。オレ、ナエトルに何もしてやれなかった…。ナエトルがこんなに全力で戦ってたのに…オレは力になれなかった…。あんなひどい目に合わせちゃって…本当にゴメン…。」
モンスターボールにコウキの涙がポタポタと流れ落ちていった。
モンスターボールに落ちたコウキの涙はモンスターボールをつたうように流れていった。
しばらく辺りは静寂に包まれていた。
その静寂を破る音は微かに聞こえる風の音、それに合わせて微かに動く風車の音、そしてコウキが啜り泣く声とコウキの涙が流れ落ちる音だった。
しばらくしてもう一つの音が聞こえた。
ナオキがコウキに前に歩み寄った。
ナオキは何も言わないまま、コウキの前に来ると、そこで足を止めた。
ナオキは立ち止まると、コウキの方に手を出した。
「……!」
コウキはようやく周りの事に気付いた。
コウキは自分の目元に何かが触れているのを感じた。
それは、ナオキの手だった。
ナオキは右手でそっと触れるように、コウキの涙を拭った。
拭い終わり、ナオキの手が離れると、コウキはようやく顔を上げた。
顔を上げたコウキの目元にはまだ涙が残っていた。
コウキがしばらく見続けた後、ナオキは言った。
「最初は誰だってそういうものだよ。君はまだポケモントレーナーになったばかりだから、そうなるのは必ずある事さ。」
ナオキがそう言った後、コウキは言った。
「キミにはわからないよ…。キミはオレと違ってすごく強いんだもの…。」
コウキはそう言うと、目元にたまっていた涙を流した。
少し間を置いて、ナオキは言った。
「いや、わかるよ。私だって最初からこんなに強かったわけじゃないんだから…。」
「え…?」
ナオキはコウキに話した。
「私は君とはちょっと違う形だけど、今から6年前にポケモントレーナーになった。そして、それと同時にこういう存在にもなったんだ。」
「6年…?」
コウキはここでようやくナオキが自分と比べてかなり長いキャリアを持つという事に気付いた。
「なったばかりの時はポケモンとの付き合い方もよくわからなくて、私のパートナーとも最初はなかなか気が合わない時が続いてたんだ。」
(そうだったよな…。オレとナオキが出会ったばかりの時は、オレ達はなかなか心を通じ合えなかったんだよな。)
マグマラシは出会った時の事を思い出した。
マグマラシと一緒に旅をするようになった時はまだマグマラシはナオキに心を開こうとしなかった。
そのため、マグマラシが大事な事ですら聞こうとしないのも少なくなかったのだ。
それにより、ナオキは命を危険にさらす事も少なくなかった。
しかし、ある日ナオキがマグマラシをかばってポケモンの攻撃を受けて命を落とし兼ねない状態になった時、マグマラシはようやくナオキの優しさに気付いた。
ナオキは意地っ張りであっても、マグマラシがいてくれるだけで幸せだったのだ。
そして自分自身がポケモンの技を受ける事により、ナオキはポケモンの痛みを知り、負ける事の大切さを知ったのである。
「それから私達は多くの戦いや経験を経て、今日まで至るんだ。もちろん、今日に至るまで、戦いに負ける事だってあった。けど、次があるからそれを極端に受け止めず、次に活かす形で受け入れたからこそ今に至るんだよ。負ける事や失敗する事は決して悪い事じゃないんだ。」
「『失敗を次に活かす』…?」
コウキがそう言った時、ナオキはこくりと頷いた。
「今こうして強くなっている者は最初からそうだったんじゃない。みんなの知らない所や知らない過去で数知れない失敗や挫折を積み重ね、そうして今に至っているんだ。」
そう言った後、ナオキはコウキに言った。
「つまり、『失敗する事を知っている者』や『自分の弱さを自覚している者』が一番強くなれるんだ。君はまさにそう言えるポケモントレーナーだって私は思っているよ。」
「オレが…?」
コウキは涙を浮かべた顔で言った。
ナオキはコウキに言った。
「失敗は次に活かしていけばいい。いつまでも引きずってたら強くなれないよ。」
「………。」
何も言わず、ただ見つめているコウキに、ナオキは小さく微笑みながら言った。
「私は信じてるよ。君がこれから強いポケモントレーナーになる事をね。」
コウキは何も言わないまま、ただナオキを見続けていた。
コウキの目から一筋の涙が流れ、頬をつたった。
ナオキはコウキの涙をそっと拭い、微笑みながら小さくこくりと頷いた。
ナオキは心の中で囁くように言った。
(コウキくん…泣きたい時は泣いていいんだよ…。感情を素直に表に出す事は悪い事じゃないんだからね。それに…泣く感情も掛け替えのない大切な感情の一つなんだから…。)
そう囁くナオキの背後に何かの影のようなものがあった。
その影はナオキを見ていたような仕草をした後、どこかへ飛び去っていった。
辺りはいつの間にか夕方になっていた。
明るい夕日が3人を優しく照らす。
コウキはナオキに囁くように言った。
「ありがとう…。」
目に微かに涙を浮かべて言ったコウキにナオキは小さく微笑みながらこくりと頷いた。
(この人…あの人に似てるような気がする…。同じマグマラシを連れたあのトレーナーに…)
コウキはもしあのトレーナーだったらきっとこの人と同じ事を言うだろうなぁ…と思っていた。
夕日はさっきとは違う明るさで3人を優しく照らし続けていた…
「それじゃあ私達はこのへんで失礼するよ。」
「オレとは行く先が違うのか。それじゃあまたどこかで会おうぜ。」
コウキの言った事に対してナオキはこくりと頷いた。
「応援してるよ、コウキくん。また会おうね。」
「うん、じゃあね。」
そう言ってコウキは一人205番道路を歩いていった。
二人はコウキの姿が見えなくなるまで、コウキを見送った。
「それじゃあ、私達も帰ろうか。」
「そうだな。だいぶ日も暮れたみてえだしよ。」
マグマラシがそう言うと、ナオキは姿を元に戻し、その場を後にした。
気がついたらフタバタウンまで来ていた。
「あ、ナオキくん。」
「?」
ナオキがふと見てみると、コウキの母親であるアヤコが駆け寄ってきた。
「アヤコさん。」
「また会ったわね。それでコウキはどうだった?」
ナオキは『そういえば…』という形でアヤコに頼まれていた事を思い出した。
ナオキは少し黙り込んだ後、小さく微笑みながら言った。
「コウキくんは元気でしたよ。彼も『オレは元気でやってるから心配ない』って言ってました。」
「そう。それなら安心したわ。ナオキくん、ありがとね。」
「いえいえ。御礼を言われる程ではないですよ。」
ナオキはコウキの写真をアヤコに返した。
「アヤコさん。あなたの息子さんは、きっと…いや、必ず将来強いポケモントレーナーになりますよ。」
「本当に?あの子はまだ始めたばかりなのよ。」
「そうですけど、これからコウキくんは今よりもっと強くなっていく…私にはそんな気がするんです。」
「…そうなってほしいわね。」
アヤコはコウキの写真を片手に夕日の照らす方を向いて言った。
「それでは私達はこれで。」
「ええ。またコウキに会ったらよろしく頼むわね。」
「はい。それでは。」
ナオキとマグマラシはフタバタウンを後にした。
夕日の方を向くアヤコ。
帰り道を静かに歩く二人。
彼らは、コウキに伝えるように言った。
(頑張ってね…コウキくん…。)
コウキは歩き続けていた。
(オレ…絶対強くなってみせる!あの人と同じ強いトレーナーになれるように…)
胸を張って歩くコウキは今までにない自信に満ちているようだった。
夕日は今までで一番の明るさであるかのように、優しくそれぞれの道を行く者達を照らし続けていた。
「パパ!」
「心配かけたな。もう大丈夫だ!」
少女の父は彼女を優しく抱いた。
「これでとりあえず一件落着ってわけだね。」
ナオキは二人の様子を見ながら言った。
コウキは少し浮かない顔をしていた。
「いや~、本当助かったよ。急にあの宇宙人みたいな奴らが襲ってきて、『ポケモンとエネルギー源をよこせ』って言ってくるもんだから、一時は本当どうなるかと思ったよ。でも、きみ達のおかげで助かったよ。本当にありがとう。」
少女の父親は二人に頭を下げた。
二人とはナオキ、そしてコウキの事である。
「いえいえ。人として当たり前の事をしただけですよ。わざわざ御礼を言って下さってありがとうございます。」
ナオキも頭を下げた。
頭を上げた後、ナオキはふと横を見た。
その見た先にはコウキがいた。
コウキは俯いたまま、黙り込んでいた。
「………。」
ナオキはしばらく黙り込んだ後、あらためてコウキに言った。
「コウキくん、君にも言ってるんだよ。」
「え?…あ、うん。…えっと…どういたしまして…。」
コウキは少しまごついた様子だった。
「コウキくん…。」
ナオキはコウキの気持ちをひそかに感じていた。
「あの宇宙人みたいな奴らがいなくなったから、あの風船のポケモンもまた出てくるようになるかな?」
「ああ、きっとな。次回の金曜日を楽しみに待つ事にしよう。」
父親は少女に微笑みながら言った。
二人は谷間の発電所を後にした。
帰り道、ナオキはトライスの姿のまま、コウキとしばらく歩いていた。
歩く中、ナオキは考え事をしていた。
(奴らはポケモンだけでなく、エネルギーも狙っていた…。私達がかつて戦った組織はたいていはポケモンを狙っていた。だが、今回はポケモンだけでなく、エネルギーも略奪の対象にしていた…。発電所を狙ったのはそれが理由なのだろう…。しかし、一体何のために…?)
ナオキはしばらくギンガ団の言動を推測していた。
その時、コウキは急に足を止めた。
「コウキくん?」
ナオキはコウキの立ち止まった方を向いた。
「………。」
コウキはしばらく下を向いたまま、黙り込んでいた。
しばらくしてコウキは口を開けた。
「…オレ……結局自分で何も出来なかった…。」
「…?」
コウキは体をぶるぶる震わせていた。
「あの時も…それに…谷間の発電所の時も…オレは…何もしてやれなかった…。」
「…!」
ナオキは気付いた。
帽子に隠れたコウキの顔をつたうものに…
「ソノオタウンの時も…オレはナエトルにあんな辛い思いをさせて…谷間の発電所の時も…ちょっとうまくいったぐらいであんなに舞い上がっちゃって…ナエトルにもっとひどい事をしちゃったんだ…。」
コウキの頬を涙が立て続けにつたった。
「あの時も…結局はキミが助けてくれたから勝てたんだ…。キミが助けてくれなかったら…オレはどっちも勝つ事が出来なかった…。結局…オレは…ナエトルに…何一つしてやれなかった」
コウキの涙が地面にポタポタと流れ落ちた。
「………。」
ナオキとマグマラシはコウキをしばらく黙って見ていた。
コウキは下を向いたまま、涙を流し続けていた。
コウキはナエトルの入ったモンスターボールを取り出した。
「ごめんナエトル…。オレ、ナエトルに何もしてやれなかった…。ナエトルがこんなに全力で戦ってたのに…オレは力になれなかった…。あんなひどい目に合わせちゃって…本当にゴメン…。」
モンスターボールにコウキの涙がポタポタと流れ落ちていった。
モンスターボールに落ちたコウキの涙はモンスターボールをつたうように流れていった。
しばらく辺りは静寂に包まれていた。
その静寂を破る音は微かに聞こえる風の音、それに合わせて微かに動く風車の音、そしてコウキが啜り泣く声とコウキの涙が流れ落ちる音だった。
しばらくしてもう一つの音が聞こえた。
ナオキがコウキに前に歩み寄った。
ナオキは何も言わないまま、コウキの前に来ると、そこで足を止めた。
ナオキは立ち止まると、コウキの方に手を出した。
「……!」
コウキはようやく周りの事に気付いた。
コウキは自分の目元に何かが触れているのを感じた。
それは、ナオキの手だった。
ナオキは右手でそっと触れるように、コウキの涙を拭った。
拭い終わり、ナオキの手が離れると、コウキはようやく顔を上げた。
顔を上げたコウキの目元にはまだ涙が残っていた。
コウキがしばらく見続けた後、ナオキは言った。
「最初は誰だってそういうものだよ。君はまだポケモントレーナーになったばかりだから、そうなるのは必ずある事さ。」
ナオキがそう言った後、コウキは言った。
「キミにはわからないよ…。キミはオレと違ってすごく強いんだもの…。」
コウキはそう言うと、目元にたまっていた涙を流した。
少し間を置いて、ナオキは言った。
「いや、わかるよ。私だって最初からこんなに強かったわけじゃないんだから…。」
「え…?」
ナオキはコウキに話した。
「私は君とはちょっと違う形だけど、今から6年前にポケモントレーナーになった。そして、それと同時にこういう存在にもなったんだ。」
「6年…?」
コウキはここでようやくナオキが自分と比べてかなり長いキャリアを持つという事に気付いた。
「なったばかりの時はポケモンとの付き合い方もよくわからなくて、私のパートナーとも最初はなかなか気が合わない時が続いてたんだ。」
(そうだったよな…。オレとナオキが出会ったばかりの時は、オレ達はなかなか心を通じ合えなかったんだよな。)
マグマラシは出会った時の事を思い出した。
マグマラシと一緒に旅をするようになった時はまだマグマラシはナオキに心を開こうとしなかった。
そのため、マグマラシが大事な事ですら聞こうとしないのも少なくなかったのだ。
それにより、ナオキは命を危険にさらす事も少なくなかった。
しかし、ある日ナオキがマグマラシをかばってポケモンの攻撃を受けて命を落とし兼ねない状態になった時、マグマラシはようやくナオキの優しさに気付いた。
ナオキは意地っ張りであっても、マグマラシがいてくれるだけで幸せだったのだ。
そして自分自身がポケモンの技を受ける事により、ナオキはポケモンの痛みを知り、負ける事の大切さを知ったのである。
「それから私達は多くの戦いや経験を経て、今日まで至るんだ。もちろん、今日に至るまで、戦いに負ける事だってあった。けど、次があるからそれを極端に受け止めず、次に活かす形で受け入れたからこそ今に至るんだよ。負ける事や失敗する事は決して悪い事じゃないんだ。」
「『失敗を次に活かす』…?」
コウキがそう言った時、ナオキはこくりと頷いた。
「今こうして強くなっている者は最初からそうだったんじゃない。みんなの知らない所や知らない過去で数知れない失敗や挫折を積み重ね、そうして今に至っているんだ。」
そう言った後、ナオキはコウキに言った。
「つまり、『失敗する事を知っている者』や『自分の弱さを自覚している者』が一番強くなれるんだ。君はまさにそう言えるポケモントレーナーだって私は思っているよ。」
「オレが…?」
コウキは涙を浮かべた顔で言った。
ナオキはコウキに言った。
「失敗は次に活かしていけばいい。いつまでも引きずってたら強くなれないよ。」
「………。」
何も言わず、ただ見つめているコウキに、ナオキは小さく微笑みながら言った。
「私は信じてるよ。君がこれから強いポケモントレーナーになる事をね。」
コウキは何も言わないまま、ただナオキを見続けていた。
コウキの目から一筋の涙が流れ、頬をつたった。
ナオキはコウキの涙をそっと拭い、微笑みながら小さくこくりと頷いた。
ナオキは心の中で囁くように言った。
(コウキくん…泣きたい時は泣いていいんだよ…。感情を素直に表に出す事は悪い事じゃないんだからね。それに…泣く感情も掛け替えのない大切な感情の一つなんだから…。)
そう囁くナオキの背後に何かの影のようなものがあった。
その影はナオキを見ていたような仕草をした後、どこかへ飛び去っていった。
辺りはいつの間にか夕方になっていた。
明るい夕日が3人を優しく照らす。
コウキはナオキに囁くように言った。
「ありがとう…。」
目に微かに涙を浮かべて言ったコウキにナオキは小さく微笑みながらこくりと頷いた。
(この人…あの人に似てるような気がする…。同じマグマラシを連れたあのトレーナーに…)
コウキはもしあのトレーナーだったらきっとこの人と同じ事を言うだろうなぁ…と思っていた。
夕日はさっきとは違う明るさで3人を優しく照らし続けていた…
「それじゃあ私達はこのへんで失礼するよ。」
「オレとは行く先が違うのか。それじゃあまたどこかで会おうぜ。」
コウキの言った事に対してナオキはこくりと頷いた。
「応援してるよ、コウキくん。また会おうね。」
「うん、じゃあね。」
そう言ってコウキは一人205番道路を歩いていった。
二人はコウキの姿が見えなくなるまで、コウキを見送った。
「それじゃあ、私達も帰ろうか。」
「そうだな。だいぶ日も暮れたみてえだしよ。」
マグマラシがそう言うと、ナオキは姿を元に戻し、その場を後にした。
気がついたらフタバタウンまで来ていた。
「あ、ナオキくん。」
「?」
ナオキがふと見てみると、コウキの母親であるアヤコが駆け寄ってきた。
「アヤコさん。」
「また会ったわね。それでコウキはどうだった?」
ナオキは『そういえば…』という形でアヤコに頼まれていた事を思い出した。
ナオキは少し黙り込んだ後、小さく微笑みながら言った。
「コウキくんは元気でしたよ。彼も『オレは元気でやってるから心配ない』って言ってました。」
「そう。それなら安心したわ。ナオキくん、ありがとね。」
「いえいえ。御礼を言われる程ではないですよ。」
ナオキはコウキの写真をアヤコに返した。
「アヤコさん。あなたの息子さんは、きっと…いや、必ず将来強いポケモントレーナーになりますよ。」
「本当に?あの子はまだ始めたばかりなのよ。」
「そうですけど、これからコウキくんは今よりもっと強くなっていく…私にはそんな気がするんです。」
「…そうなってほしいわね。」
アヤコはコウキの写真を片手に夕日の照らす方を向いて言った。
「それでは私達はこれで。」
「ええ。またコウキに会ったらよろしく頼むわね。」
「はい。それでは。」
ナオキとマグマラシはフタバタウンを後にした。
夕日の方を向くアヤコ。
帰り道を静かに歩く二人。
彼らは、コウキに伝えるように言った。
(頑張ってね…コウキくん…。)
コウキは歩き続けていた。
(オレ…絶対強くなってみせる!あの人と同じ強いトレーナーになれるように…)
胸を張って歩くコウキは今までにない自信に満ちているようだった。
夕日は今までで一番の明るさであるかのように、優しくそれぞれの道を行く者達を照らし続けていた。