ブラッキーは月明かりが照らす中、夜道を歩き続けていた。

その時、ブラッキーはふと横を見た。

「そこに誰かいるのか?」

さっきの事を気にしているからなのか、月明かりで周りが見えやすくなったからなのか、ブラッキーは近くに誰かいる事に気がついたようである。

「あ、ブラッキーじゃないか。アスカさんのところに帰らなくていいの?」

今会ったばかりのように振る舞っている声の主の正体はナオキだった。

「ナオキか。こんな夜遅くに何してんだ?」

ブラッキーは夜行性であるが故に夜遅くに行動するのに不思議な事はないが、ナオキの場合は不思議に思うのも無理はない。

「木の実を取りに行ってたんだよ。最近色んな意味で多忙だから(あえて正体は明かさない)、時間が空いた今しかないと思ってね。」

ナオキの手にはオボンの実がたくさんおさめられていた。

無論、何かに入れて持っているのはもちろんの事だが。

「君は夜行性だから夜の散歩って感じかな?」

「まあな。さっきまで月明かりがなかったんだが、今はちょうどいい明るさだからよ。まさにオレにはうってつけってわけだ。」

「さっきまで曇ってて月明かりがなかったけど、たった今雲が避けたみたいだね。」

「月の光はバトルじゃない時もいいもんだぜ。」

「君はまさに一番説得力のあるポケモンだね。」

「月の光あってこそオレになったもんだからな。」

月明かりはさらに明るくなっていった。

「これだけ明るくなったら君だけじゃなくて、ルナトーンやアヤカさん(クレセリア)もどこかで君と同じ事を思ってたりして?」

「三日月=綾香=クレセリアって事か。まあそうかもしれないな。ブラッキャッキャッキャッ!」

ブラッキーは声を上げて笑い出した。

「そ…そうやって笑うんだ…。」





ブラッキーにリュック形式でオボンの実を持たせた。

「こんなにいいのか?」

「これくらいなきゃ足りないでしょ?それにこれだけあるから遠慮しないで持ってってよ。」

「おう、それじゃあありがたくもらっておくぜ。ところでよ、何でオレに持たせる時にかなり慎重になってたんだ?」

「そ…それはえーと……こういう形で持たせるのは結構崩れやすいから、後で君が荷崩れを起こして困らないようにするためだよ。落としちゃったら君じゃ拾えないでしょ?」

「まあ、言われてみればそうだな。」

ブラッキーは一応納得したようだった。

(…君はまだ冷や汗をかいてるからって事はさすがに言わないようにしておこうかな…)

ナオキは心の中で囁くように言った。





「そんじゃあまたな。気をつけて帰れよ。」

「またねブラッキー。アスカさんにもよろしく言っておいてね。」

そう言って二人は別れていった。



(私達のそれぞれの使命はこれからどうなるのだろうか…)

アスカと似たような存在であるナオキはそう思っていた。







ここはアスカの住んでる場所。

サングラスを部屋でも着けているアスカはブラッキーの帰りを待っていた。


コンコン!


ドアをノックする音がした。

「はい!」

アスカは真っ先にドアに向かい、ガチャッとドアを開けた。

そこに袋のような物を背負ったブラッキーがいた。


「よ!今帰ったぜ。」

ブラッキーがそう言った後、アスカは少し怒鳴るように言った。

「ブラッキー、だめじゃない!いきなりいなくなっちゃ!本当に心配したんだから!」

「わりぃわりぃ。月明かりがいいのは今しかないかなって思っちゃってよ。」

すると、アスカはブラッキーの様子に気付いた。

「あれ?どうしてこんなに汗かいちゃってるの?」

「いやあそれがよ…。」

ブラッキーはさっきのいきさつを語った。

「え、何か変なのがいきなり飛び出してきたって?なんだったんだろうね、それ。」

「あの時は月明かりがなくてオレもよくわかんなかったんだ。悲鳴みたいなのは聞こえたんだけどな。」


ちなみにさっきのムウマはしばらく暗闇の中で目の痛みにより泣き続けていたそうである。

まさにこれが本当の「夜泣き」ポケモンというわけだ。

哀れながらも、これで少しはムウマも懲りたはずである。



ブラッキーはナオキからオボンの実をもらった事も話した。

「じゃあこれは後で一緒に食べようか?」

「そうだな。」

汗が引いたのを見計らい、アスカはブラッキーの背中にしょってあったオボンの実を降ろした。

「そういやあ、昼間だったけど以前にもゴーストに似たような事をされた覚えがあったっけ…。」

ブラッキーは過去にゴーストにムウマと同じ事をされた事があったようだ。

「あの時も冷や汗かいてそれがゴーストの目に入ってゴーストがそのまま悲鳴を上げて逃げてったよな…。まさか今回もそんな感じだったのか…。」

ブラッキーがそう呟いた時、アスカがブラッキーに言った。

「どうしたのブラッキー?ほら、見て。月が綺麗だよ。今日は満月みたいね。」

窓の方を見ると、ちょうどその位置に満月が強い月光を発していた。

「今夜見た中で一番明るい月明かりだな。」

「いい時に帰ってきたね。ブラッキーと一緒にこんな明るい月を見れてよかったわ。」

「え?…そ…そうか…そりゃあ…よかったな…。」

ブラッキーは少し赤面していた。

「オレも…アスカと一緒に最高の状態の月が見れてよかったぜ。こんないい月光はオレ一人じゃもったいないからな…。」

ブラッキーがそう言った時…

「!」

ブラッキーは何かに反応した。

その事にアスカも気付いていた。

月の中にそれを通り過ぎる影が見えた。

その影は、月の光に負けないような綺麗なベールを発していた。

そう、あれは紛れも無く、三日月の化身、クレセリアだったのだ。

クレセリアの影は、満月を仰ぐように綺麗なベールを発しながら満月を通り過ぎていった。



「アスカ、今の見たか?」

「ええ、見たわ。すごく綺麗だったね。」

「まさかここでクレセリアの姿が見れるなんてな。」

二人の中は、二人でいい満月を見れた時よりも大きな嬉しさでいっぱいだった。

それを二人で一緒に見れた事が嬉しさをさらに増幅させた。

「クレセリアが現れるなんてオレも予想外だったぜ。」

「今日は本当にいい夜だったね。」

「ああ。」

二人がそう言い合った時…


窓の方から小さな光が差し込んだ。

月の光と思っていたが、それとは少し輝きが違った。

二人は外に出てみた。


すると、そこに何かが落ちていた。

「これは…。」

アスカは落ちていたものを拾った。

それは虹色のような輝きを見せる綺麗な羽だった。

「これは…クレセリアの羽…?」

アスカは独白するような様子で言った。

「さっきのクレセリアが落としていったものみたいだな。」

ブラッキーは空を見上げながら言った。

「いい満月やクレセリアが見れただけじゃなくて、こんな綺麗な羽ももらえたなんて…。」

アスカは夜空を見上げた。

月はクレセリアが去った後も変わらない明るい月光を発し続けていた。

アスカはブラッキーの方を向いた。

「今夜は本当にいい夜だったね、ブラッキー。」

「そうだな。オレにとっては月明かりのある夜はみんないい夜だけど、こんないい夜は今までなかったぜ。」

ブラッキーは夜空を見上げた。

「でも、私はそれよりも絶対譲れないもっと嬉しい事があるのよ。」

「なんだそれは?」

「まだわからないの?もうそれは私の目の前にいるのに。」

「?」

きょとんとしたブラッキーに対してアスカは微笑みながら言った。



「あなたと一緒にいられる事よ、ブラッキー。」

「え!?」

ブラッキーはアスカからの意外な一言を聞いた瞬間、大きく赤面した。

「え…えっと…その…。」

ブラッキーはかなり焦っていた。

焦ってるブラッキーをアスカは小さく微笑みながら見ていた。

ブラッキーはようやく心を落ち着かせた。

「え…えっとアスカ…、オレ…。」

ブラッキーは真っ赤になった状態で言った。

赤面とまごつきでうまく声が出せないようだった。

ブラッキーは意を決してアスカに言った。

「オレも…アスカと一緒にいられるのが…本当は一番嬉しいんだ…。」

ブラッキーは後戻りできない事を悟り、話を続けた。

「アスカの言った事をそのまま返しちゃうけど…オレにとって…アスカと一緒にいられる事と…アスカがオレの事をここまで思ってくれてる事がオレにとっては一番嬉しい事なんだ…。…そう…アスカの言ってた事そのままだけど…他の誰にも譲れないくらい…いや…それ以上に…。」

そこから先は何を言ったらいいのかわからなかった。

ブラッキーはアスカの方を向いた。

アスカは月よりも明るく微笑んだ様子でブラッキーを見ていた。

ブラッキーは黙り込んでいた。

赤面してかいた汗は既に引いていた。


アスカはしゃがみ込むようにブラッキーの前に座った。

そして…



「…え…?」

ブラッキーは自分の前足から暖かい何かを感じた。


ふと見ると…

アスカがブラッキーの前足を優しくにぎりしめていた。

前足2本をまとめて両手で包み込むようにアスカはブラッキーの前足をにぎりしめていた。

ブラッキーは呆然としていた。


アスカは下を向いた後、ブラッキーの方に顔を向けた。

そして明るく微笑みながら、ブラッキーに言った。








「ありがとう。」







ブラッキーは気まずそうにアスカの方とは少しズレた方向を向いていた。

「え…えっと…。」

アスカの方を向きたいのに向けない。

こういう場合どうすればいいのか戸惑っているブラッキーにアスカは言った。

「しばらく一緒にここにいよう、ブラッキー。」

アスカがそう言った後、しばらく黙り込んだ後、ブラッキーは言った。

「ああ…。」


二人は夜空を見上げた。

アスカの手元ではクレセリアの羽が綺麗な光を発している。


月は二人の絆を祝福するように、変わる事のない明るい月光を照らし続けていた。