向こうを望むの

連れていって

寒いから、

腕を掴んで

縺れる足を引き摺る

ぼんやり浮かぶ

真白な月を見下ろして

撥ねる水辺に

見えない行き先を指し示す


「ほら、」

集めた両手に

溢れだす光の束

丸い井戸の中で

届かない遠い声に嘆く

何処なんだろうか

温く通り過ぎる風が

鼻腔を擽る

そうして、飛び去る


「もう、」

いいんだろうか

この場所へ帰化する嘘を

ゆるり流される音に

薄緑の世界を砕く

水辺に咲き誇る花見月を

腕に抱きしめたまま

眼を瞑り耳を塞いだ


土に水を湛えて

向こうを望む天地の声は

私を求めてはいない


ほら、おかえりなさい


緩やかに溺れる

光の海の中では

誰も飛べないのだから