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『007』映画の真の原案者ジャック・ウィッティンガムと、ショーン・コネリーが迎えたもう一つの「フィナーレ」

導入:ボンドを生んだ男と、映画版のスケール感を決めた男

世界で最も有名なスパイ、ジェームズ・ボンド。

「007の原作者は?」と問われれば、誰もが真っ先にイアン・フレミング(Ian Fleming)の名前を思い浮かべるでしょう。冷戦下のスパイ小説としてボンドというキャラクターと基本的な世界観を生み出したのは、紛れもなくフレミングです。

しかし、「私たちが映画館で観て熱狂した、華やかでスケールの大きな『映画版007』のプロットや設定」を作ったメインの立役者が別にいることをご存じでしょうか?

その人物こそが、脚本家のジャック・ウィッティンガム(Jack Whittingham)です。

今回は、原作者フレミングの陰に隠れがちな「影の原案者」ウィッティンガムの偉業と、彼の存在なくしては成立し得なかった007シリーズの歴史、そして巡り巡ってショーン・コネリーのボンド引退作『ネバーセイ・ネバーアゲイン』へとつながっていく壮大なドラマをご紹介します。

1. 映画版007の「型」を作ったジャック・ウィッティンガムの偉業

1950年代末、イアン・フレミングは映画監督のケヴィン・マクローリーらと共に、007の映画化に向けたオリジナル脚本の共同開発に着手しました。このプロジェクトにおいて、実際にペンを執りメインの脚本執筆を担当したのがジャック・ウィッティンガムでした。

小説版のボンドは、現実の冷戦構造に基づき「ソ連(SMERSH)」と戦うストイックなスパイでした。しかし、映画として世界的大ヒットを狙うべく、ウィッティンガムは画期的なアイデアとスケール感を注入します。

  • 世界を脅かす悪の秘密結社「スペクター(SPECTRE)」の創案

  • 「核兵器を強奪し、世界中を脅迫する」というエンタメ感あふれる主軸プロット

  • 潜水艦や水中戦、ガジェットが炸裂する大掛かりなアクション展開

現在私たちがイメージする「エンターテインメントとしての007映画の黄金パターン」は、フレミング単独の小説からではなく、ウィッティンガムの脚本によって形作られたものでした。

2. 泥沼の著作権裁判とシリーズ全体へと受け継がれた原案

しかし、この映画企画は資金難などのトラブルで一度お蔵入りとなってしまいます。

するとここで大問題が発生します。なんと原作者のフレミングが、この共同開発した脚本のプロットや「スペクター」の設定を無断で流用し、自身の小説として『サンダーボール作戦』(1961年)を出版してしまったのです。

自身のアイデアや執筆内容を勝手に使われたウィッティンガムとマクローリーは激怒し、ロンドン最高裁判所にて泥沼の法廷闘争へとなだれ込みました。

裁判の結果、ウィッティンガム側の主張が全面的に認められ、映画および小説『サンダーボール作戦』の原案権利(「スペクター」や核強奪のプロットなど)はウィッティンガムたちにあることが法的に決定しました。

その原案を基に製作されたのが、第4作『007 サンダーボール作戦』(1965年)です。しかし、彼の功績は『サンダーボール作戦』一作にとどまりません。実は、その後のほとんどの007映画において、ウィッティンガムが生み出した「悪の組織スペクターとの対決」「世界規模の巨大な陰謀」「大掛かりなアクションやガジェット」というフォーマットがシリーズ全体の基盤として使用され続けているのです。

つまり、ジャック・ウィッティンガム無くして、世界を熱狂させた映画『007』シリーズの成功とスタイルはあり得なかったと言っても過言ではありません。

3. 時を経て—ショーン・コネリーが『ネバーセイ・ネバーアゲイン』で締めくくった物語

ウィッティンガムたちが勝ち取ったこの「原案の権利」は、約20年後に思わぬ映画史の奇跡を引き起こします。

1980年代、プロデューサーのマクローリーは自らが保持する『サンダーボール作戦』の原案権利を行使し、本家のEONプロダクションとは別枠で『007』のリメイク映画を企画しました。

そこで白羽の矢が立ったのが、初代ジェームズ・ボンドであり、すでに役を降板していたショーン・コネリーでした。

かつて「二度とボンド役は演じない(Never again)」と宣言していたコネリーですが、ウィッティンガムらの手掛けた優れたプロットと、自身の代表作に対する強い情熱から、12年ぶりにボンド役に復帰することとなります。

タイトルは、妻から言われた「二度と演じないなんて言わないで(Never Say Never Again)」という言葉に由来し、1983年に『ネバーセイ・ネバーアゲイン』として公開されました。

コネリーはこの作品をもって、名実ともに自身の「ジェームズ・ボンド伝承」を見事に締めくくることとなったのです。

結び:影の功労者がいたからこそ生まれた名作

原作者イアン・フレミングが生んだ孤高のスパイ、ジェームズ・ボンド。 それに「スペクター」や大仕掛けなストーリーという華やかな命を吹き込み、シリーズ全ての雛形を作り上げた脚本家ジャック・ウィッティンガム。 そして、その原案が生んだ権利とプロットによって、最後にもう一度ボンドとして舞い戻り有終の美を飾ったショーン・コネリー。

『007』という作品が半世紀以上にわたって世界中で愛され続けている背景には、原作者の知名度だけでなく、ウィッティンガムなくしてはあり得なかった映画的スケール感と、裏で壮大な物語の礎を築いたクリエイターたちの情熱とドラマが存在していたのです。

今度『サンダーボール作戦』や『ネバーセイ・ネバーアゲイン』をはじめとする007映画を観直す際は、ぜひ映画の基礎を打ち立てた「ジャック・ウィッティンガム」というもう一人の生みの親に思いを馳せてみてください。