○現在は銀行で働いている私であるが、かつては保険会社で働いていた。保険会社に常駐するシステムエンジニアという職種である。
○その保険会社で担当していたシステム開発が収束に向かい、人員も少しずつ減っていき、残り二名となったタイミングでとんでもない仕事が来た。
○保険会社が合併するというのである。それだけならまだいいが、合併の担当要員としてアサインされてしまったのである。
○残り二名と言ったが、一人は間もなく40歳になろうかというベテランであるから問題ないが、問題はもう一人、つまり私。その当時は入社3年目の26歳である。
○その若造が合併協議会に週一回参加することになってしまった。なお、先に記したベテランの人も一緒であるのだが、そのベテランの人と私とでは担当領域が異なり、合併で担当しなければならないシステムの過半数の担当領域が事実上自分一人になっていた。
○この瞬間、シャレにならないことが起こった。2億5000万円分のコンピュータシステムのうち1億0500万円分を一人で作らなければならなくなったのである。
○しかも、期間は22ヶ月。
○この情報だけが保険会社に向かってしまい、「あの会社にはとんでもない優秀なエンジニアいる」という噂が広まってしまった。
○というタイミングで、素性がバレた。コンピュータの専門家どころか最終学歴は文系私大卒で、入社3年目の26歳。キャリアは入社年数相応のものしかない。
○このあたりで「話が違う」という言葉が飛び交ったようだが、今更引き返すなんて無理という状況になった。IT会社としても、保険会社としても、できるのはこの若造にどうにかさせる環境を整えることだけである。
○その結果こうなった。
○管理職待遇とするが、管理業務は不要。他部門から部長職を異動させるのでその者に管理業務を全部やらせる。管理職待遇となることでアクセス可能なデータの種類が増えるので、作り上げたプログラムの稼働確認に使えるデータ量も増える。
○ちなみに、管理職になったので給料も増えた。
○なお、もう一人のベテランの人であるが、この人については残る1億4500万円分のコンピュータシステムの開発のリーダーになっている。この人は何人もの人が対応できる部分が担当領域であったため、チームとしての開発が可能であった。
○プログラムを作り上げるのに要したのは6ヶ月。残る16ヶ月は作り上げたプログラムが正しく動くかどうかの確認。
○この確認作業に入ってようやく自分以外の人が参入できる。もっとも、確認の80%は作者である私が担当する。これが27歳から28歳にかけて。
○そして迎えた22ヶ月後、プログラム完成。合計2億5000万円のシステム開発が完了し、28歳の管理職が誕生することとなった。
○うん、まあ、それが自分のエンジニアとしてのピークだったわなぁ。そのときの給料が貯金になり、マンションの頭金になったし……。
○そのあと色々あって、ヒラに戻って、いまは出世欲も消え、管理職手当も失い、住宅ローンに苦しむ中高年サラリーマン。