○これは何と言っても親の介護である。何を言っているのかわからないと思うが、これこそ買ったほうが安い。
○どういうことかというと、何の前触れもなくいきなり呼び出され、色々な用件を言いつけられ、病院への付き添いを強要されるのである。この負担がものすごく大きい。
○要介護の人と同居していると、頻繁な掃除が必要になり、自分の時間が全くとれなくなる。睡眠時間も削られ、休日も失われる。
○親を施設に入所させたとしても安心はできない。体調を崩したので病院に搬送するから病院に来てくれという電話がいきなりやって来る。はっきり言って無理だ。
○さらに厄介なのが、無理を言って休ませてもらって、どうにかして時間の都合を付けて、無理に無理を重ねてどうにかして病院に付き添ったら「次は来週の火曜日に来院してください」と気軽に言われる。これで完全に心が折れる。
○心が折れるだけならまだいい。場合によっては失業の危機を迎える。職場の人は仕方ないと思ってくれるが、それで自分の仕事が減るわけではない。翌日以降の仕事に支障が出て、納期に間に合わなくなることもある。
○そこで、付き添い代行という商売に依頼することとなる。自分の代わりに親の通院に付き添ってもらうのであるが、実際に親の介護に直面する前はこの職業のありがたさを全く理解できていなかった。
○今になってものすごく理解するようになった。
○はっきり言って、親の介護に注ぎ込むための時間がないのである。時間は見つけ出す者ではない。「時間が無い」は答えである。本人が時間が無いと言っているのだから、他者が何を言おうと時間など無い。
○「どうせリモートワークで家にいるんだし、2時間ぐらい抜け出せない?」などと涼しい顔で言われたときは軽く殺意が抱くことになる。そもそもリモートワークだろうと、出勤していようと、仕事時間である。
○どう足掻いても休めないし、休もうものなら失業の危機というタイミングで、「悪いんだけど病院に来てくれない」なんて気軽に言われたときは荒れる寸前に陥ることになるし、断ったことも何度もある。
○施設に入った親からの病院への付き添い要請は、金を払って専門の人に任せることにしてからはどうにかなった。
○家族だからという理由で十分な医学知識を持っているわけでもないし、介護についての知識も介護技術もゼロの人間に何かをさせることは苦痛以外の何物でも無いし、そもそも病院で何の役にも立たない。
○介護を甘く見てはならないという点で考えねばならないのは、介護を受ける本人だけでなく、介護をしなければならない人間についてでもある。
○介護は介護を職業とする人間に任せなければどうにもならない。他に職業がある人間や子育てをしている人間に付け加えることができる代物ではない。
○それを気軽に言うところに、介護問題の一端がある。
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