○火曜日の当欄で、廃藩置県の功績の一つとして国内における貨幣の統一を挙げたが、そもそも国内における貨幣の統一がなぜ重要なのか。
○貨幣が統一されている範囲で一つの経済圏が成立するのである。
○日本国内ではどこでも日本円が通用するが、これは明治維新以後のこと。こう書くと「江戸時代までは両だろ」と思うかも知れないが、江戸時代の両は必ずしも共通貨幣ではない。
○理論上は両が共通貨幣であったが、金と銀とが別個の貨幣を構成し、そこに銅貨が加わっていたのが江戸時代である。主に東日本では金が、西日本では銀が貨幣の基軸であり、東日本と西日本との交易は金と銀とが入り交じっていた。
○そのため、江戸の商人が京都で商品を仕入れようとしても、江戸で使っている金をそのまま持ってきたのでは京都で買えない。買う前に手持ちの金を銀に交換しなければならないのである。
○しかも、金と銀の相場は毎日、さらには刻一刻と変化していた。これでは不便極まりないだけでなく、日本国内に経済のバラツキを生んでしまう。
○金が値下がりして銀が値上がりしているなら、人も物資も金経済から銀経済へ移ってしまう。金が値上がりするならその逆が起こる。
○その結果何が起こるか? 飢饉だ。
○飢饉は天災の要素もあるが人災の要素もある。
○江戸時代は何度か大飢饉があったが、全国的な飢饉というよりも地域間に格差のある飢饉であった。不作はたしかに理由であったが、地域間の経済のバラツキのほうが問題であった。
○ならば幕府の権限で食料を届けさせれば良いではないかとなるが、江戸時代の藩は現在の県以上に権力が強く、権力よりも経済の論理が働く。
○しかも、藩が独自の通貨を発行し、その通貨は藩の外には通用しない。こうなると、藩の内部での通貨の価値が下がる。とくに藩内で貨幣経済で生活している庶民の手にしている通貨の価値が下がる。
○通貨の価値が下がったとき、藩内で貨幣経済で生活している庶民は物資を手に入れることができない。藩の外から持ち込まれている物資を買うことができなくなっているのだ。
○独自の地域の通貨を作り出すというのは、国内に存在する地域間の経済格差をさらに広げてしまう悪影響を持つ。それが物資や人の移動だけであるならばまだ許容できるが、飢饉の根本原因になるとき、それは断じて受け入れられない話になる。
