偉大なる皮肉・固定電話編 | Short+α

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○かつて、自宅に電話があるというだけでステータスだった時代があった。


○徳薙零己の祖父はかなりの新しもの好きで、近所でただ一人のカメラの所有者で、町内会で最初にテレビを買い、その都度、奥さん(徳薙零己にとっては祖母)に怒られていた人であった。


○そういう祖父だからか、息子(徳薙零己にとっては父)の結婚のプレゼントとして選んだのは電話だった。当時は電話が自宅にあるというのがものすごいステータスだったから、息子の結婚の祝いとしては周囲から絶賛されるものだった。


○現在では考えられないであろうが、その当時は電話を持っていない家庭も珍しくなかった。上京した父が住まいを構えたのはただでさえ貧困家庭の多い地域である。その貧乏人の多いアパートで「あの新婚夫婦のところに電話があるんだって!」と大騒ぎになった。


○当時は、単に電話機を自宅に置いて電話線をつなぐだけでは電話として使うことができず、「電話加入権」という権利を買わないとならなかった。今もそれはあるにはあるが、当時はかなり覚悟を必要とする出費であった。


○父が結婚した当時、電話加入権の金額は1万円。1LDKのアパートの家賃が平均4000円、教員の初任給が1万8700円の時代である。当然ながら簡単に出せる金額ではなかった。


○その1万円を祖父は出した。最終的には我が子の結婚だから仕方ないと祖母は言ったらしいが、実家ではかなりガチな夫婦喧嘩があったらしい。


○その新婚家庭に鎮座した電話は、いまや昭和レトロの代名詞ともなった黒電話。「ダイヤルを回す」が当たり前の慣用句として成立していた時代である。


○父の新婚家庭に電話がある。そして、アパートの人だけでなく近所の人がことごとく電話を持ってない。するとどうなるか? 我が家に電話が架かってきて、近所の人を呼び出すという現象が起こった。


○近所の人が連絡先として我が家の電話番号を使うので、我が家の電話番号があちこちに知れ渡る事態となった。


○次第に近所の人が次々と電話加入権を買うようになり、我が家の電話は我が家だけの電話になった。


○徳薙零己の覚えている限りでは、昭和55年まで、自宅に電話がないという同級生がいた。


○何でそれが断言できるかというと、当時はクラス全員の住所・電話番号・誕生日が名簿として配られていたから。今だったら許されない話だ。


○ちなみに、現在でも固定電話の有無はそれなりにステータスになっている。契約を結ぶために住所・氏名とともに電話番号を書いてもらうとき、固定電話の番号で記すのと、携帯電話の番号で記すのとでは扱いが違う。


○個人の印象が違うとかいうレベルではなく、電話番号欄に固定電話の番号を記す人と携帯電話の番号を記す人とで営業のかけかたが違うのである。



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