#140novel 1)「愛することを忘れたまま年取った女なんて誰も見向きされないものよ。男から言い寄ってくるのは若い女だけ。何でかわかる?」「そりゃ、若い方がいいから……、若い方がいい理由って、何なんでしょうね?」「理由なんてないさ。年齢とともに言い寄る男は減っていくという事実があるだけだ」
11/10 17:43
#140novel 2)「あたしも若い頃はこんな人生になるなんて思ってなかったけどさ、いざ迎えたら、後悔しかないんだよね。若いときに決断しておけばこうならなかったのにってさ」「後悔ですか?」「男が言い寄ってくるのを待ってて、妥協しておけば、少なくとも母親にはなれた」
11/10 17:44
#140novel 3)「子供が欲しいとは思ったさ。だけど、もっと高い条件の男を求め続けて、気がついたら男との接点自体が無くなってたのよ。女友達と現実逃避することもあるけど、現実を変えたわけじゃ無い。私は誰の母親でも無い。妊娠しようとしたことも無い。この現実は変わらないね」
11/10 17:44
#140novel 4)「妊娠しようと考えない女は子供を産めない。わかるな?」「ええ」「結婚して、妊娠したいと考えている女性が妊娠できずにいる。これはどうにかしなけりゃいけない。でも、あたしみたいに結婚も考えず、妊娠も考えなかった女が独り身のまま年齢だけ重ねたら、それは自業自得ってもんさ」
11/10 17:44
#140novel 5)「男は、社会的にはともかく、生物学的にはかなり高い年齢になっても父親になれるだろ?」「たしかに、そうですね……」「そりゃあ子供を育てられるかどうかって問題はあるが、医学的には無理じゃない。その意味では、男の方が女より可能性は残されている。女はそうじゃないのよ」
11/10 17:45
#140novel 6)「身寄りの無い高齢女を看取ってくれる人がいると思う?」「……」「沈黙か。それもやむを得ないよね。言いづらいことだろうからさ。だけど、現実問題、結婚しなかった女に待っているのは、家の中で倒れても誰からも助けてもらえないまま死んでいく未来だけ。悲しいね」
11/10 17:45
#140novel 7)「犬や猫でも飼っていれば心の安らぎになるだろうけど、それはペットで、夫でも子供でもないのよ。子供が産めなかったとしても夫がいれば一人じゃ無い。それすら選ばなかった私は、君が帰って一人きりになったあと、静まりかえった我が家に一人。寂しいものよね」
11/10 17:45
#140novel 8)「年齢を重ねても恋愛を忘れない女はまだ希望があるの。子供が産めないにしても夫になってくれる人がいるかも知れないから。でも、年齢とともに恋愛も忘れていって、一人でいることを何とも思わなくなってくると、あるときどうしようもない孤独感に襲われるわけ」
11/10 17:45
#140novel 9)「孤独感と、過去の自分に対する後悔とで、どうしようもなくなる。人生をやり直したいと思うこともある。あたしのことを好きだと言ってくれた男の思いを受け入れていればこんなことにならなかったのにと、何度も何度も後悔する。だからといって今更その男のもとに行けるか?」
11/10 17:46
#140novel 10)この人の話を僕は格好良い話だと感じて聞いていた。でも、何だか違和感に包まれていた。その違和感の理由がわかったのは「言い訳」というフレーズが頭に浮かんだとき。彼女はさっきから延々と、自分が結婚しない高齢の独身女であることの言い訳をしていると感じた。
11/10 17:46
#140novel 11)独り身であることを正当化しようとして、男から言い寄ってこなくなった自分を自分で慰めているだけ。それで誰かが見向きしてくれるなどと考えたら、それはあまりにも傲慢だ。努力せず、一人であることから脱しようとしない傲慢を言い訳しているだけだ。
11/10 17:46
#140novel 12)この人だけが特別だと思わない。自らの境遇に不満を持つ人が、不満を訴えたり境遇を受け入れたりしている間は、何も変わらない。変わるのは、自分で自分の運命を変えようとした人だけだ。
11/10 17:46
#140novel 13)この人にいま僕が思っていることを訴えても、この人が何かアクションを起こすとは思えない。だって、僕が思っていることを馬鹿にするところから考えを始めているのだから。「今日はありがとうございました」と、僕はこの人の話を空返事で半ば強引に終えた。 -完-
11/10 17:47
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