「17番線から、東京発、仙台行き、MAXやまびこ149号が発車致します」
アナウンスが俺の身体に突き刺さる。
今、俺は地元の福島を目指して東京駅のホームに立っている。
希望を胸に東京行きの新幹線へ乗り込んだ高卒の春。両親の反対を押し切って、無理矢理東京に出た。
東京に出たときのために、高校生の時にアルバイトでこつこつ貯めていた。
職種は知り合いに頼み込んで入れてもらった営業職。東京に出てきた甲斐があったものだと喜んだ。
しかし、楽しかったのは最初だけ。
まだ右も左もわからないひよっこ社会人だった俺は先輩に一日中くっついて回った。
「わからないことはなんでも聞けよ」
そう言って俺を守ってくれていた先輩の態度は日を増すごとに変わっていき、最終的には
「いつまでも甘えてないで自分でやったらどうなんだ」
と言い放つようになった。
先輩の営業成績は崖から落ちるように落ち込んでいたらしい。八つ当たりのように感じた。
部長からも冷たい目で見られ、新人放置も甚だしいと感じながら一人で営業を始めた。
「すみません」「すみません」
何回頭を下げたかわからない。
得意先に契約を切られ、会社の信用が下がると、俺はついに営業を止めさせられて事務の仕事に回された。
事務の仕事といっても、書類をシュレッダーにかけたり、お茶を汲むだけの雑用係だった。
「雑用も立派な仕事なのよ」
清掃員のおばちゃんが語っていたが、俺の耳には届かなかった。清掃員の方がいい職に見えたほどだ。
ぐだぐだ一年間を過ごして、ついに俺は辞表を出した。
わかっている。自分がただ甘えただけなのだ。社会人なら誰でも通る道を、絶対越えられない壁のように感じた。
部長も
「これだからもやしっこは」
とけらけら笑っていた。
未熟だった。東京に「都会で働きたい」なんて理由で出てきたのがそもそもの間違いなのだ。
子供のままごとと変わらない。
実家に電話をしてみたが、何て言えばいいのかわからず
「母さん?俺だよ。今から福島に帰る」
とだけ伝えて切った。
自分は親不孝者だ。頭の中で何回も唱えた。
300㎞に近いスピードでレールの上を新幹線が駆け抜ける。後ろ後ろへと流れていく景色を、ぼんやりと見ていた。
「次は、福島~。福島~」
あぁ、次が福島か。
かさばった荷物を手に、乗り降り口へ歩いた。
一年ぶり。福島の空気は懐かしい味がする。故郷の味というのだろうか。気分が和らいだ。
「誰もいないか…帰り待つわけないもんなあ」
独り呟いてからホームを後にした。長いエスカレーターを下りて改札を通る。
適当にタクシーを拾って帰ろう。そう思い西口を出た。
「お帰り!!」
聞いたことがある声だと思ったら、なんと声の主は母さんだった。
「母さん!」
「元気だった?」
「あぁ、母さん、俺……」
母さんはハンカチで目元を押さえた。
「何も言わなくていい。福島でゆっくり休みなさい」
「うん…。これ、土産に」
左手に握られた紙袋から、包装紙に包まれた菓子を取り出した。東京銘菓の【ひよこ】だ。
「これしかなくて」
「あんたが無事に帰ってきてくれるだけでいいんだよ。お土産なんかなくても」
母さんが滲んで見える。人の前で泣くなんて子供の時以来だ。
「はやく相談すればよかったのに」
「ごめんな」
「父さんが待ってるわ。行きましょう」
「うん」
愛情を噛み締めつつ、車へ歩き出した。