関東大震災の記~vol.19 | 風景回廊scenicGALLERY~独断と偏見による視覚的美意識の創造と考察

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低音に我が身ユダネル日々在りき(笑)
創作活動の記録
なんとなく のほほん・・て、感じッス。

(一部読みやすいように、加筆・文体の変更をしてあります。)

僕は、どうにかして一刻も早く汽車に乗りたいものと
そればかりを念頭に置いた。

たまに来た上り列車は、田端に止まらずして向こうへ行ってしまい
日暮里から来た汽車は、又 ここへ止まらずに行ってしまった。

そうして漸く(ようやく)午後五時頃か、上り列車が王子の方からやって来た
と、思うと

神の恵みと云おうか、僕の願っていた田端駅で止まってくれた。



人々は、窓から這入る者、屋根に登る者と 先を争って乗った。

僕も今度こそは乗らなければと思った。けれど
混乱の中で、容易の事ではなかった。



若い女が、入り口の所まで行って なかなか乗れそうもなく
手間取っているので、僕は 後ろから押し上げてやった。

そして
僕はというと、愈々(いよいよ)乗ってしまった。

その時の心持ちと云って、僕はやうやう帰省の途に就けたことが思われて
安堵の胸を撫でおろし、ほっと溜息をついた。

けれど、車内の混雑と云ったら又、口には云えなかった。

一杯に這入った上、まだ窓から頭下しに入り込んで来る者
大声を上げて怒鳴る者
子供の泣き叫ぶ声

そうして、汽車は容易に発車せず
車内は、人の息や熱で 窒息するばかりであった。

僕は、便所の傍(そば)だったので 嫌な感じがした。
しかし、乗られたことを何よりの幸せと思った。

で、背負って居たバスケットを下ろして、両足の間に置いた。

汽車は、漸くにして動き出した。


続く
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