関東大震災の記~vol.14 | 風景回廊scenicGALLERY~独断と偏見による視覚的美意識の創造と考察

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低音に我が身ユダネル日々在りき(笑)
創作活動の記録
なんとなく のほほん・・て、感じッス。

(一部読みやすいように、加筆・文体の変更をしてあります。)

僕は、一応 故郷に帰って
又、再び出直そうと決心した。

それで、友達の山本君や沼里君等と駅に行って
小さな紙に【罹災民】と記した無賃乗車券を貰って来た。
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帰ってみると、家の旦那が皆を下に呼んで 暫くの間
善後策と云うか、対策問題に取りかかった。

旦那の云うには
「諸新聞社が復旧する迄、ここに居ようとする者は土方をしていてもらう」
と、いうのだ。

僕は、もう家に帰ることにしていたので 二階へ上がった。
暫くすると、後から友達が上がって来て
「君、帰る?僕も帰ることにするよ!」

そんな風にして、大概の者は帰省するようになった。



で、明日帰ろうか云ったが
今晩のうちに汽車を待って居なければ、とても乗れないと云うので
夕方になってより、僕等 信越線や東北線で帰る六名の者は
二階で、荷物を整えた。

そして、玄米のお握りを沢山戴いて 僕の風呂敷に包み
「給料は復活後に支払う」
と云う様な 証明書を拵(こしら)えて貰った。



その時は、寂しかった。
今宵起てば 何時逢えるか分からないのだ。
僕は、小さな名刺を拵えて 島袋君にやった。

「さあ、もうお起ちだよ」「新聞屋のお起ちだよ」

などと云って 皆、店員は戸外へ出た。
提燈の灯りが、ぼんやりと照らしていた。

北隣りのお嬢さんが此方を向いて、ひっそりと立って居た。
別れの盃だなどと云って、そこの井戸に行き
お嬢さんから カップに水を汲んで戴いて飲んだりした。
それから、旦那や奥さんやに お別れの挨拶をした。

或る友達は提燈を持って
「駅まで送って行ってやるよ」
なんて云っていた。

続く
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