職場の山で最近、アナグマを捕まえる罠を仕掛けることになった。

アナグマを捕まえる理由、

りくつが、いまいちよくわからない。

まわりの人たちもそう言っている。

あいつらなんもせんやろ、捕まえんでええて、と思っている。

でもネットで調べてみると、農作物に被害を及ぼすことがある、と出て来る。

アナグマに作物食べられてる人もいるんかなあ、

僕の周りではあまり聞いたことがないが。

僕が知らんだけかもしれない。


 

月曜日の朝、罠にエサを入れて来て下さいと言われて、

エサの袋を持って仕掛けに行った。

エサはドッグフードである。台所の排水口で使うネットに

ドッグフードを一つかみ入れて、

罠の奥の金具にぶら下げる。

前のエサは、ネットを破って食べられている。

罠のゲートは落ちていない。

アナグマではない。小さい鳥が食べてるのだ。

一度この辺にいるネコがかかったことがあった。

ネコは狙ってないので、逃がした。

 

僕は、自分が罠にエサを入れに来たのは初めてで、それまでよく見てなかったが、

ドッグフードはけっこういいやつっぽかった。

へー、こんなのを罠に使うんかな、誰か家で残ったのを持って来たのかも。

 

パッケージを見ていたら、

 

「 PRESCRIPTION

             DIET            

 

とあるのに気づいた。

「…プリスクリプションダイエット……!?」

僕は反応した。

「遺伝子的なものの、…減量…?」

みたいなイメージが一瞬浮かんだ。

しかしよく見ると、僕のアタマに浮かんだようなことではなく、

犬の健康に良いように考えられたドッグフードということであった。

 

僕が「プリスクリプション」という言葉ですぐに思い浮かべるのは、

マルクス・アウレリウスの『自省録』なのである。

去年の夏ごろだったか、図書館でまんが本の辺りを見てたら、

反対側の棚の本の背表紙に目が止まった。

『超訳 自省録』という本であった。

気になって手に取ってみると、大昔のローマ帝国の皇帝の語録のようなものであった。

パラパラめくっていると、

 

「運命は処方されている」

 

と書いてあった。

僕はこれがとても気に入った。

運命は決まっているとか、

切り拓いて行くものだとかではなく、

「処方されている」と。

処方されているものだから、

薬局でそれを受け取ってもいいし、

受け取らなくてもよい、

人の意志の働く余地、自由があるようだから、気に入ったのだろうか。

僕はその辺りの4ページくらいを読んで、

このフレーズをメモして持ち帰った。

 

 

僕はちょこっとしか読んでおらず、著者がどう考えたのかよく知らない。

そもそも超訳というのは著者の言葉を正確には訳してませんよということではないか。

しかし僕にとって大事なのは、ああ、いいな、なんか、と思ったこと、ではないか。

誰が言った、とか、本当にそう言ったのか、とかではなく。

そういうことにする。

 

まあとにかく、「運命は処方されている」という

フレーズが心に残った。

 

ここから僕が、得意の好きなように解釈で繋げて行ったいろんな考えが、

ドッグフードの袋を見た時にフワッと浮上して来たのである。

 

(続く)