八仙飯店之人肉饅頭
『八仙飯店之人肉饅頭』 (‘93/香港)
監督: ハーマン・ヤオ
この作品を観ないで、アジアのスプラッターホラーは語れないほどのマスターピースな映画、といってみる。
タイトルを見れば一目瞭然だ。「八仙飯店」の「人肉饅頭」。タブーな言葉が入ってますね。
そう、「人肉」なんですよ、これ。間違ってもグルメ映画ではないから。
この大ヒットした本作以降、2、3と続編も作られて、『香港人肉厨房』やら『人肉天婦羅』やらの亜流作品も
登場し、香港でちょっとした「人肉」ブームが起こったのがちょうどこの頃だ。
1986年、マカオで実際に起こった事件を元に製作されたというこの作品。え?本当に実話なのか?
日本だったら絶対に製作なんかされないだろうし、ましてや公開なんかに踏み切ったらどうなることやら。
ただ、香港は違うわ。気合が違うというか単なるバカというか。とにかく儲かるならなんでもいいから
やっちまえ、的な商魂には恐れ入るよ。
もともと「八仙飯店」の一従業員だったウォンは店主チュンが賭けマージャンの負け金を払わないことにぶち切れ(というか、イカサマで巻き上げたんだが)。
店主とその妻そして幼児5人の一家全員を殺害し店を乗っとった。
この一家の死体は手馴れた手つきでバラバラにし、ミンチにして肉まんの具にして店で売っていた。
肉まんがうまいと評判になる「八仙飯店」はそこそこ儲かるようになるのだが、短絡的な犯行はすぐに警察の目に留まり捜査がウォンに及んでいく。
犯人のウォンはぶっ飛んでて、突発的にすぐ切れるやつ。
もちろん計画性なんかまったくなく思い立ったらすぐぶっ殺しちゃういわゆる大バカで、
誰が見てもすぐばれるような証拠隠滅しかできない子供並みのオツムの持ち主だ。
犯人もバカなら警察もバカばかりで、まったく仕事にやる気がなくそもそもどう捜査したらいいのかの
基本を持ち合わせていないご様子。
前半こそ、このバカ警察連中のコント的なやりとりがコメディタッチでほのぼのムードで描かれる。
ただしまったく面白くない。B級映画に良くある、くだらないやりとりは単なる場つなぎ程度の弱さだ。
特にいつも愛人同伴で出署してくる署長には何の意味もない。
この連中がある失踪事件を追ううちにこの八仙飯店にたどり着くんだけど、
この映画は決して刑事ドラマでもなんでもないわけで、その捜査のいきさつをサスペンスタッチで
緊張感たっぷりに見せる、なんて大層なものではない。ひたすらぬるく犯人を特定していく。
ただ、そんなぬるま湯ムードの中でも、ウォンは相変わらずバカで従業員に腹を立てれば、
相変わらずぶっ殺して、また肉まんの具にしちゃってる。
拳銃で撃ち殺す、なんてことはしません。だって中華料理屋ですから、その辺にあるもので殺しちゃうわけだ。
女の股に割り箸の束をぶち込んだり、伝票刺しで目玉をぶっ刺す。痛いシーンが続出だ。
そんな感じで肉まんの具には事欠かず店はそこそこ繁盛。うん、肉まんの需要と供給・・・
こんな勢いで中盤以降は、目も当てられないほどの残酷シーンのオンパレード。
これに比べれば、ただ殺人シーンだけを見せるために作られた日本の『ギニーピック』シリーズなんて
昼ドラ並みの甘い香りと口当たりですよ。
中でも、圧巻なのが警察に捕まり、自供の中で回想として語られるチュン一家の惨殺シーンだ。
夫婦二人の殺害シーンはまだいい。とにかくトラウマになるのが、子供たちの連続首切断シーンだ。
こんなのよく撮ったよ、しかし。泣き叫ぶ子供達にもまったく容赦する気ゼロなんだから。
心臓の弱い方は絶対に観ない方がいいでしょう。ショックが大きすぎますから。ほんとすごいよ、ウォンいや香港。
このウォンの犯行シーンもさることながら、自白させるために執拗に繰り返される警察の拷問シーンもこれまたすごい。
殴る蹴るはデフォルトで覚せい剤打ったり水注射打ったりと、人権という言葉をすっかり忘れてしまう数々にも唖然とさせられた。
スプラッターホラーというのは、アメリカやイタリアなんかでゾンビ絡みも含めて星の数ほどあるけど、
これほど嫌なインパクトのあるホラーはそうそうないし、オレは観たことがない。
そもそも、実話を元にしたという映画ではあるがそこには一切のメッセージ性はないわけで、単純に娯楽作としてこれだけのモノを作ってしまうこと自体が後にも先にもないだろう。
遺族の方々が・・・ とかそんなことはまったく構わない姿勢。やっぱり物凄い商魂だわ。
主演のイカれ男ウォンを演じるのはアンソニー・ウォン。この作品で香港アカデミーの主演賞を受賞した彼は、
その後もB級映画界をまっしぐらかと思いきや、最近では傑作『インファナル・アフェア』シリーズや
『頭文字D THE MOVIE』などメジャー作品で自信満々の貫禄の演技を見せている。
演技派と呼ばれる連中のルーツを辿ってみるとこういうケースはぜんぜんレアじゃないけど、
この『人肉饅頭』での鬼畜っぷり全開な演技を知ってると、
すっかり更正したような彼が『インファナル・アフェア』でスーツ着てデカやってるのを観た時は笑えた。
『スーパーサイズ・ミー』を観ながらビックマックは食えるけど、さすがにこの『人肉饅頭』を観ながら
肉まんを頬張れるやつは物凄く腰の据わったヤツか単なるバカだと断言するよ。
とにかく後味の悪さとトラウマ指数は折り紙つき、間違っても気になるあの子とは観ないことをおススメします。
この映画、タランティーノは絶対観てるはず。しかもかなり好きなはずだ。