リアリズムの宿 | 映画まみれR

リアリズムの宿

『リアリズムの宿』 (‘03/日本)
監督: 山下敦弘


鳥取



邦画のなかでは、特に心底惚れてる作品のひとつ。


『どんてん生活』と『ばかのハコ船』はココロから笑える愛すべき秀作だった。
ストーリーはきわめて地味、役者も舞台も地味。でも、すごくあったかくてほのぼのとしてて
爆笑するというよりも、終始吹き出してしまうようなそんな映画を包むまったりとしたムードがたまらなかった。

その監督、山下敦弘の真骨頂ともいえる作品がこの『リアリズムの宿』。
つげ義春の原作「リアリズムの宿」と「会津の釣り宿」を微妙な語り口で現代風にアレンジした作品だ。
音楽は、『ジョゼと虎と魚たち』でもすばらしい曲を提供したくるりが、これまたこの映画にぴったりの
楽曲を提供している。


鳥取1



駆け出しの映画監督・木下俊弘と脚本家・坪井小助は顔見知りではあるが、友人と呼べるほどの仲ではない。
共通の知人である俳優・船木テツヲに誘われ、東京から旅に出たが、当日船木は寝坊し、
来られなくなったため、とりあえずと仕方なくふたりは宿を探しに鳥取のひなびた温泉街に向かうことになる。


街中とかでばったり遭遇して一番気まずいのが、ちょっと顔を知ってはいるけどお互い挨拶を交わしたり

二人っきりで話しこむほどの中じゃない人。
声をかけていいのか、それともそっと身を隠して気づかぬ振りをするほうがいいのか、迷うところだ。

この作品でひょんなことから一緒に旅をする羽目になるのが正にそんな二人なわけで、
のっけからひじょうに気まずいスタートのこの絶妙な設定がまず可笑しい。


ロードムービーなわけだけど、特に目的があるわけでもない。しかもまったく見知らぬ鳥取という土地に
たいして面識もない二人、という設定だけでもうすでにオナカいっぱいなわけだ。鳥取、というところがツボですよ。
旅を続ける中で遭遇する微妙な人たちとのやりとりと、だんだん打ち解けあう二人の
アドリブかのようなやりとりがほどよくブレンドされてなんともいえないオフビートな笑いが溢れてくる。

旅の道中で出会う人々もみんな一見普通だけど、普通じゃない曲者ぞろいで二人の旅に笑いを添えてくれる。


鳥取2



また、何しろいいのが配役。山下敦弘作品の常連、山本浩司。

個人的には、日本の役者では今後かなり期待大な人だ。なにがいいかって、まったく花のない反則ともいえる

その顔立ちと非常に頼りない雰囲気、セリフの絶妙な間といいすべてにおいてとぼけた演技が最高なわけだ。

そしてもう一人は、長塚圭史。劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」主宰として活躍している彼もまた、
山本浩司に負けず劣らず、頼りがいがありそうだけど実はそうでもない演技を普通に演じてくれる。


気取ったセリフも、心に残るいい言葉も特にはないが、
なんとなく情けない二人のセリフのやりとりはとっても素で、電車などでとなりの会話に耳を傾けるような
そんなスタンスだ。この微妙なやり取りが情けない中にもほのぼのとした笑いを誘ってくれる。
なんとなく幸せな気持ちになるけど、大笑いするほどでもない不思議な感覚にさせてくれる傑作だ。


最近は、また違った作風の『リンダ リンダ リンダ』を撮った山下監督だが、またこの『リアリズムの宿』の

ような淡々としたユーモア溢れる作品も期待したい。もちろん主演は山本浩司で。