sample1-2 十一月?日 晴れ | ウリトモ(∵)のブログ

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ここまでで解る人には解る様に黒木はスロットで生きる部類の人間だった

正確には出来るだけ楽にその日だけを暮らしていきたいだけの
「非生産で凄惨」な男だった

「東京で暮らす」
と思いその日に家出をする
高2の夏休みだった


家出と言っても施設から飛び出るだけだったので何も後腐れなど無い
むしろ家族でもない人間と暮らす毎日が苦痛で堪えきれなかった

それと…
元恋人の浮気が関係なかった訳でもない
多かれ少なかれあったと考えられる
とにかく嫌な事全てを記憶からも視界からも消してしまいたかった


それまでにバイトしたりパチンコでもスロットでもモーニングで稼いでいた300万を傍らに、今から起こる事すべてが自分を中心に廻っていくと、若さゆえの確信を持って東京に辿り着いた


事件は当たり前だが現場で起こる
事件は大抵その日に起こる

色んな不動産に門前払いを喰らい、雀荘で眠りながら打っていたら50万吹っ飛んだ

仕方ないから次の日にパチンコを攻略(黒木自身はそう思って打ってない)してたらアジア人にシマがどうこうと殺されかけた

助けてくれた「見るから893サン」にスロットを打てるかと言われて頷いたら、残り200万と引き換えに今の集団に入れられ一年以上同じ事をしている訳である

どうやら「見るから893サン」はスロットプロらしい

なんでスロットプロが装着物に「紫の満月」やら「金の満月」だかを身に付けてんだかは解らないが、本人が言ったから黒木は鵜呑みにした

黒木はとにかく疲れていた
東京には夢も幻想もなかった
あったのは弱い者が喰い物にされる当たり前の現実だった
100時間もせずに己の300万が無くなる現実を素直に受け入れた
自分が弱いのが悪いと


ためらうことなく承知した初めての仕事は
主に毎日朝の並びと「スロットプロ」が言った台を押さえるのが日課だった
黒木の入る以前にも人はいたが、リプレイハズシや台取りに失敗をしては「スロットプロ」に激しくブッ叩かれ辞めていった…と思う
たぶん辞めていったのだろう
黒木にとっては言われた事すら出来ない関心の無い人間達だった
気がつくと黒木の上にはスロットプロと、彼と行動を共にしているスロットプロ2号しかいなくなった


3ヶ月経つと赤岩が入ってきた

紹介された時にとにかく暴れたくてたまらない野獣の臭いがした
身体全体を使って自分の中の「暴力」を押さえつけている印象に見えた

ファーストフィーリングで肌に合わないと直感した
それでも黒木は「よろしく」と言って手を差し出すのだが、相手に舌打ちをされて以来歩み寄る事をしなくなった


実際、赤岩は喧嘩っ早くて面倒臭い人間であった
関心の無い人間ではなく関わり合いたく無い人間だった



青田と黄村はその一月後に「スロットプロ」が拾ってくる

コイツらはノリが良いので楽しい
だがそれだけのヤツらでもあった
他愛もない事を言って笑う時もあるがお互いに表面上のやり取りだった





そこからまた半年経ったのが今である

四人で開店待ちをしていたが、寒くなってきて当番制で「徹夜組」と「ファミレス組」に別れた
入った順で赤岩が一緒になるのだけが、黒木には苦痛だった

ただ赤岩がいくらウザくても寒さよりかはマシである

ファミレス組がサウナやら食事やら仮眠を取ってる間、徹夜組は並び続け、ファミレス組が戻って来るついでにコンビニ弁当を買っていくのがいつもの事になっていった


スロットプロ1号と2号は開店30分前に現れる、これもいつもの事だった

30分前には軽く周りを片づけて「1号2号待ち」をしてれば問題なかった


言われた台を押さえ
閉店近くまで7かbarを揃え
7だったらハズシをする

機種は様々だがやる事は常に同じだった

スロットプロが指定する台は大体良く当たるので特に気にせず『作業』が出来た

時間になったら出したコインを流しレシートを1号に渡す
15分も経つと1号が金を渡しにくる

酒を飲むなり女を抱くなりすれば飛んでいく様な金でも黒木には充分過ぎる金額だった
最悪でもファミレスで何か食って煙草を一箱買えれば充分だった
酒や女に目を向ける余裕があるならとにかく足を伸ばして寝たかった


無一文に近い黒木には天国の様な『作業』
「情報料」という名目で、勝とうが負けようが15,000円取られても手元には自由に使える金が増えていた

300万などとっくに越えるだけの金を手にしても黒木は作業に没頭した
嫌であろうと目の前の金は魅力的である
嫌であろうと住む家が無いのが現実である

閉店まで打てば疲れによって賑やかなファミレスでも少しは寝る事が出来る


いつしか黒木は並ぶ事も打つ事も自分が生活するには必要な事象だと捉える様になっていった