序章1:蛾の習性 | ウリトモ(∵)のブログ

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いやだ…
もう…いやだ…


なぜこの世は人が多い…
なぜこの世は男と女がある…
なぜ俺を平気で裏切る…




闇の中で見る夢の終わりはいつも同じだ
決まって以前つきあっていた女が他人に抱かれている場面
女が雌の顔になる
『俺』は廊下からそれを眺めている

一部始終がブラウン管の中に収まり「俺」がソファに座りながらなに食わぬ顔でそれを見つめている
おもむろに立ち上がりテレビのスイッチを消すと、また視界に闇が拡がってきた



一体どちらが今の俺の望みなんだろう?
真実を知った『俺』
全てを無かった事にしたかった「俺」

俺にとってのリアルは果たしてどちらかにあったんだろうか?

今となっては解らない
それどころか今は必要の無い事柄でしかない

そう…今は

なのにこの夢は俺を縛り続けたがる…




…ウトウトとそんな事を思っていると肩を思いっきり叩かれた

「黒木…時間…」


~1996年11月
時計は午前3時

軽くあくびをしてうなずく

「先に行ってるぞ」
起こした男はそう言ってコートを羽織るとファミレスから出ていった


「ンだょ…また俺が払うのかょ…てか人起こすのにどんな起こし方すんだょ…」
目の前の伝票を苦々しく見つめて愚痴をこぼしながら黒木は煙草に火をつけた


「大体アイツは無駄に時間に厳しすぎんだよ…コート着てたら偉いですか?寝るだけだから俺みたくジャージで充分だっての!ったく…鶏だって寝てるだろうになんで人間が起きなくちゃいけねぇんだょ…」
ブツブツ言いながら、くわえ煙草でトイレに行きそれなりに格好を整える


「はぁ…布団で寝てぇ…ウゼェ…なんもしたくねぇ…ばぁかバーカ、お前の父ちゃんダメ精子♪」
とりあえず目が合った化粧の濃い未成年者に聴こえないように笑顔でつぶやく
目が合った未成年は自分に気があると勘違いし、顔を赤らめて笑みをこぼす


「ンだょ…処女かょ…ダルいね…」
瞬時に後の事を察し、黒木は何事もなかったかのごとくテーブルに戻る



「ま…なんにしても打てば金になるから良いのか」
これからしたくない『作業』について無理やり気持ちを奮い立たせ、伝票をレジに持っていく


「ありがとうございます。本日のお会計5,208円でございます。」
(あのクソッタレ無駄に食いやがった…)
黒木はジャージのポケットから一万円を払い
「大きい方が千、二千、三…」
との言葉をさえぎり
「チャリ銭はあげる♪またね♪」
と4,000円を反対側のポケットに捩じ込むとファミレスを飛び出た


「ウゥ…さみぃ」
冬に当たり前の台詞を言ってもどうにもならない事とそれでも待ち合わせ場所に行く自分を惨めに思いながらファスナーを一番上まで締める
窓越しに未成年に手を振った後、新宿に住む一匹の『蛾』は人工的な明かりの方向へフラフラと向かうのだった…