QCサークルをやっていて、活動そのものに疑問を感じている人は決して少なくないと思われる。
しかしその一方で、非常に有益な活動が行われ、一定の成果を上げ、
その結果としてQCサークルに対して肯定的な意見を持っている人がいることも事実である。
なぜこのように大きな差が生まれてしまうのかを考えることは非常に意味のあることではあるが、
その前に、否定派である私がインターネットで「QCサークル」と検索すると綺麗事の記事ばかりが並び、
そこでは理想ばかり語られ、実情とは大きくかけ離れていると思った。
そこで実情を伝えようと思ったのがこの記事を書く理由である。
あらかじめ断っておくが、私はQCサークルを会社から強制され、適当にこなしているため、
本来のQCサークルというものにはあまり詳しくない。
そのため、所々間違いがあるかもしれないし、1社しか経験していないので、他社のことはわからない。
ただ、確実に言えることは、私の経験したQCサークルは”悪い見本”であるということである。
目次
1.Wikipediaの削除された記事
2.QCサークルの進め方
3.QCサークルへの批判
1.Wikipediaの削除された記事
Yahoo!で「QCサークル」と検索するとWikipediaが上位に来る。
今ではあっさりとした記事だが、昔はもっと説明が長かった。
Wikipediaでは過去の編集履歴を見ることができるので、調べればわかるが、
QCサークルに対するネガティブな内容が、ある時点でごっそりと削除されていたのである。
この削除が妥当だったかどうかわからない。
しかし、削除された記事はQC活動を始めるにあたり非常に有用な情報だと思うので、
ここに削除された記事を掲載したい。
時代と背景
QCサークルは高度経済成長の頃に盛んに活動されていた。しかし、1990年以降はバブル経済崩壊とともに消えつつある。その背景としては、会社のISOの導入が進んだことと、QCサークルは時間外の活動である故に給料の対象とならない非正規業務であり、時間外勤務による過労死など問題もあり、2000年以降はほとんど消滅したといえる。
問題点
*QCストーリーに活動手順として不適切な点がある。小改善たる日常管理を行う活動であり、「できるだけよくする」ためのPDCAフィード・バック活動であるため、目標の設定というステップは当初のQCストーリーには存在しなかった。しかし、その後、本来一発勝負のフィード・フォワードで行なう「目標の設定」というステップを導入したため体裁を考慮した目標を設定し、体裁に基づく達成率を発表する傾向を生み虚偽発表の活動へと傾斜した。さらに、実際の活動は、単純な問題解決型、課題達成型ではないので、これを無理にQCストーリーに合せようとすると虚偽発表にならざるを得ない。また、実際の活動は、テーマを決めた当初から「終了までの活動計画」を立てることは不可能なのに「立てた」と虚偽発表することが多い。
*好む好まざると虚偽発表をせざるを得ず、人間性の尊重に反する事態が多くなった。
*品質管理活動は、本来、予防活動が中心である。にもかかわらずQCストーリーは目先の効果を狙う活動になっていて、「予防よりは、失敗して起こしたトラブルの後始末の活動」を担当することになり、「予防なしのもぐら叩き」に陥った。
*当初は時間外の活動である故に上司等の干渉を受けない「自主的」(Independent)活動として出発したが、このことが給料の対象とならない非正規業務として過労死などの人間性の尊重に反する事態を導いた(名古屋地判:トヨタ堤工場事件)。改善は暇を見て行うほどに簡単ではない。そこで正規業務として勤務時間中に上司の指導を受けて行うようになり、この時点で自主的ではなく強制的な活動になったため浸透性にかけるようになり以後全国的にQCサークルは急激に減少するようになる。
*発表は、本来、相互啓蒙のために他のサークルを聴衆とし行うべきなのに、審査員に対して発表するという習慣が出来上がり、審査員の評価を高くする競走を招き、ほとんどがデータの改ざんや虚偽した発表が多く見られる。
*QCサークルは、既存の体制を大きく変更せずにムリ・ムダ・ムラを減らす活動に徹するべきで、大きな成果は方針管理で出さねばならない。ところが方針管理が、本来フィード・フォワードで行うべきところPDCAのフィードバック活動とする指導が行われ、うまくいかない故に、成果出しの役目をQCサークルにしわ寄せしてきた面がある。このことがデータを捏造した「高い目標」「高い成果」「高い達成率」の発表競争を招いた。
*QCサークルはPDCAを基調とした活動であるが、「QCサークルのやり方」自体はPDCAが回らない故に、QCストーリー通りに記入枠を設けた定型用紙を配布して活動を報告させるような旧態依然としたやり方に留まっている。
*QCサークルは小集団活動のため企業全体のまとまりに欠ける。
もしこれからQC活動を始めるのであれば、こうならないよう、過去の反省として活かしてほしい。
2.QCサークルの進め方
ここでは実際に私の経験に基づき、悪い見本であるQCサークルの進め方について紹介する。
読むにあたり、まず理解していただきたいのは、QCサークルとは「自発的にやるもの」という本来の原則と、
会社からの命令で強制的にやらされるものという相反する状態が根底にあるということである。
【テーマ選定】
活動を始めるにあたり最初に行うのがテーマの選定である。
その前段階としてメンバー集めもあるが、これは管理職が適当に選ぶ。選ばれたら強制的に参加となる。
QCサークルはテーマ完結までの期限が明示的あるいは暗黙的に決められているため、
テーマ選定の際には、短期間(数か月程度)で終わらせられる内容であること、
グループ(チーム)外の協力を必要とせず、グループ内で比較的簡単に解決可能な内容であることが
重視される。しかし、本来ならば緊急性と重要度を重視して選ばれるべきであると思う。
短期間で終わらせるためには、これから調査・分析を始めなければならない問題をテーマとして扱うことは
時間的に不適切である。
そのため既に問題点や解決策が何となくイメージできているものが必然的に選ばれる。
活動を進めていく過程で、最初にイメージしていた問題点よりも、
もっと別の本質の問題点が発見されることもあるが、
その場合は誰も聞いていなかったふりをし、何事もなかったかのように進められる。
活動期限が区切られているのだから、これは仕方がない。
もっと言えば、QCサークルは問題を解決することよりも活動することに意味があるのだから、
協調性、つまり輪を乱さず、何事もなく穏便に運営していくことが一番大切である。
【テーマの選定理由】
発表会では冒頭に、「なぜ数あるテーマの候補のうち、このテーマを選んだか」を説明するので、
とりあえず考えておく必要がある。
よく行われる手法が、候補として挙がったテーマを横に配置し、緊急度、重要性、解決可能性等を
縦に配置した表を作り、それぞれを5段階で評価し、
その中で最も高いスコアのものをテーマに選ぶという方法である。
一見すると客観的な方法であるように思える。
しかし実際には5段階評価というのは適当な理由を付ければ、好きなように調整できるため
客観的ではないし、事実、かなり個人的な都合にあわせて調整される。
つまり、スコアの最も高いテーマが選ばれるのではなく、選びたいテーマのスコアを最も高くするのである。
例えば、もし自由にスコアを付けていった結果、選びたいテーマのスコアが1位にならなかった場合、
そのテーマが1位になるように全体的にスコアの調整が図られる。
では、数ある候補の中からどのようにしてテーマは選ばれるか。
それには大きく2種類ある。
1つは、簡単に解決しそうなテーマ、かつそのテーマを選んだ理由を対外的に説明しやすいテーマである。
もう1つは、一番発言力の強い者による鶴の一声で決定される方法である。
【状況把握】
テーマ選定後は問題となっている課題の状況把握を行う。
本来なら客観的なデータに基づいた分析ができればベストであるが、そんな時間はない。
直観的にこれだという項目をリストアップし、このフェーズは短時間で終了する。
【要因解析】
ここでは、各メンバーが思っている要因をどんどんリストアップする。
しかし、リストアップは数が多ければよいというものではない。
他部署等、外部の人間には隠しておきたいことや、これを言うと人間関係がギスギスするといったものは
挙げるべきではない。
結果的に、言ってはいけないことが存在し、それを避けて議論が進むため、
非常に表面的な議論が展開される。
そしてその言ってはいけないことこそ、問題の本質である場合が多い。
【対策の実施】
要因解析の結果が本質でないことはメンバー全員がよく分かっているため、
メンバーも対策の実施に気合が入るはずがない。
そのためモチベーションの低下したサークルでは、とにかく簡単にできる対策が選ばれる傾向にある。
【効果の確認】
以上のように進められた結果であるから、当然大した効果があるわけはない。
しかし、それを正直に発表会で発表することはできない。
対策を実施したということは、実施前と実施後でわずかではあるかもしれないが、
何らかの変化はあったはずである。
それを様々な角度から見たり、時には都合よく解釈したりして、効果を無理やり探すことになる。
また、事前の発表練習の際に「この発表にはインパクトがない」と管理職に指摘された場合は、
今更活動をやり直すわけにはいかないので、
この「効果の確認」と「状況把握」がありもしない話に置き換わることが多い。
【今後の課題】
これはテーマ完結時に発表会を意識して考えられる。
基本的には発表会での質疑応答で、つっこまれたら危険な箇所を事前に潰しておくものである。
例えば、○○について質問・指摘されたら反論ができないと事前に予測できれば、
それを発表のスライドに今後の課題として載せておくことで、
質疑応答でつっこまれる危険を回避できる。
【発表資料の作成】
発表資料はQCストーリーに従って作られるのが一般的だと思う。
実際に発表資料をPowerPointで作ってみるとわかるが、
どうしても作りづらい、あるいは作れないスライドがあることに気付く。
とくに実際の活動のスケジュールや成果、また、とても客観的とはいえない分析結果を
堂々と正直に審査者である役員の前で発表できるわけがない。
ここでねつ造が行われるが、これはどこのサークルも同じなので特に罪悪感を感じる必要はない。
【発表会】
発表会では1グループにつき10分程度の持ち時間で発表が行われる。
10分程度なので事前に練習しておけば台本無しでも話せる時間であるし、
トークの上手い人であればいろいろ工夫をして、
審査員や聴講者を惹きつけるような素晴らしい発表をすることもできるだろう。
しかし実際は、発表者はスクリーンではなく台本を凝視し、
いかにも台本を読んでいるかのように非常に棒読みな発表が行われる。
なぜか。それは優秀賞に選ばれるとより上位の大会に参加しなければならないからである。
つまり、最低限、活動を頑張ったということは伝えなければならないが、
かといって優秀賞に選ばれるほどではないといった程々の発表が求められるのである。
質疑応答も完璧ではいけない。なぜならば質疑応答の結果を重視する審査員もいるからである。
完全に論破されたり、テーマそのものを全否定されたりしてはいけないが、
完璧に受け答えできてもいけない。そんな調整が質疑応答には必要なのである。
【お勧めのテーマ】
最後にお勧めのテーマを紹介しておきたい。
それは会社が設備投資の強化等、金で解決した問題を
後追いでテーマに選ぶことである。
金で解決というのはQCのテーマとしてやや適さないため
発表会で優秀賞に選ばれにくくなる。
また、会社の様々な活動に便乗する方法も有効である。
たまたま会社と同じことに取り組んでいたら、
会社が先に勝手に解決してくれた(からサークルとしては大したことは実施していない)という方向に
持っていくのである。
どちらにも共通して言えるのは、会社の動向をいち早く察知し、
あたかもサークルの方が先に動いていたかのように装うことである。
3.QCサークルへの批判
Wikipediaによると基本理念として以下の3つが挙げられている。
1.企業の体質改善・発展に寄与すること。
2.人間性を尊重し、生きがいのある明るい職場を作ること。
3.人間の能力を発揮し、無限の能力を引き出すこと。
QCサークルを何度か経験した人であれば
実際の活動は会社の利益の追求、すなわち1と3に偏り、
労働者の利益である2は軽視され、それどころか逆の方向に向かうことが珍しくないことを
感じているであろう。
さらに、役割と特徴を抜粋すると
1.人間尊重の精神に支えられた
3.自主的な
とあるが、QC活動中に一度もこれらの言葉を耳にすることはないと思う。
ではQCサークルの何が問題か。
1つは、各部署の特徴や性質を考えずに、トップの方針で全社的に実施を強制することである。
やる気がないのに無理やり強制しても効果がないことくらい誰でもわかる。
もう1つは、期間を区切られ「『いつまでに』テーマを終わらせなければならない」
と日常の仕事のようにノルマが課せられ、内容よりも締切と活動実績が重視されることである。
難しいテーマであれば数か月程度でとても終わるものではないし、
それが本当に業務の改善につながるのであれば、期限を区切らず長期的かつ継続的に取り組むべきである。
最後に、これからQCサークルを義務化して導入しようかなと考えている会社があるかもしれないので言っておきたい。
社内で新しくルールを作ったり、既にあるルールに追加をしたりすることは非常に簡単である。
しかし、一度作ったルールを撤廃することは非常に困難である。
QCサークルを義務化し、全社展開するときも同じことが言える。
「始めることは簡単かもしれない。しかし、一度始めたことをやめるのは、その何十倍も大変である」
やめるときがイメージできないなら初めからやるべきではないと思う。
そして始めたところで効果が表れるとは限らない。むしろ時間と金の無駄にしかならない可能性もある。
そこで私の好きな言葉を紹介して終わりとする。
「できることをやらない勇気」
しかしその一方で、非常に有益な活動が行われ、一定の成果を上げ、
その結果としてQCサークルに対して肯定的な意見を持っている人がいることも事実である。
なぜこのように大きな差が生まれてしまうのかを考えることは非常に意味のあることではあるが、
その前に、否定派である私がインターネットで「QCサークル」と検索すると綺麗事の記事ばかりが並び、
そこでは理想ばかり語られ、実情とは大きくかけ離れていると思った。
そこで実情を伝えようと思ったのがこの記事を書く理由である。
あらかじめ断っておくが、私はQCサークルを会社から強制され、適当にこなしているため、
本来のQCサークルというものにはあまり詳しくない。
そのため、所々間違いがあるかもしれないし、1社しか経験していないので、他社のことはわからない。
ただ、確実に言えることは、私の経験したQCサークルは”悪い見本”であるということである。
目次
1.Wikipediaの削除された記事
2.QCサークルの進め方
3.QCサークルへの批判
1.Wikipediaの削除された記事
Yahoo!で「QCサークル」と検索するとWikipediaが上位に来る。
今ではあっさりとした記事だが、昔はもっと説明が長かった。
Wikipediaでは過去の編集履歴を見ることができるので、調べればわかるが、
QCサークルに対するネガティブな内容が、ある時点でごっそりと削除されていたのである。
この削除が妥当だったかどうかわからない。
しかし、削除された記事はQC活動を始めるにあたり非常に有用な情報だと思うので、
ここに削除された記事を掲載したい。
時代と背景
QCサークルは高度経済成長の頃に盛んに活動されていた。しかし、1990年以降はバブル経済崩壊とともに消えつつある。その背景としては、会社のISOの導入が進んだことと、QCサークルは時間外の活動である故に給料の対象とならない非正規業務であり、時間外勤務による過労死など問題もあり、2000年以降はほとんど消滅したといえる。
問題点
*QCストーリーに活動手順として不適切な点がある。小改善たる日常管理を行う活動であり、「できるだけよくする」ためのPDCAフィード・バック活動であるため、目標の設定というステップは当初のQCストーリーには存在しなかった。しかし、その後、本来一発勝負のフィード・フォワードで行なう「目標の設定」というステップを導入したため体裁を考慮した目標を設定し、体裁に基づく達成率を発表する傾向を生み虚偽発表の活動へと傾斜した。さらに、実際の活動は、単純な問題解決型、課題達成型ではないので、これを無理にQCストーリーに合せようとすると虚偽発表にならざるを得ない。また、実際の活動は、テーマを決めた当初から「終了までの活動計画」を立てることは不可能なのに「立てた」と虚偽発表することが多い。
*好む好まざると虚偽発表をせざるを得ず、人間性の尊重に反する事態が多くなった。
*品質管理活動は、本来、予防活動が中心である。にもかかわらずQCストーリーは目先の効果を狙う活動になっていて、「予防よりは、失敗して起こしたトラブルの後始末の活動」を担当することになり、「予防なしのもぐら叩き」に陥った。
*当初は時間外の活動である故に上司等の干渉を受けない「自主的」(Independent)活動として出発したが、このことが給料の対象とならない非正規業務として過労死などの人間性の尊重に反する事態を導いた(名古屋地判:トヨタ堤工場事件)。改善は暇を見て行うほどに簡単ではない。そこで正規業務として勤務時間中に上司の指導を受けて行うようになり、この時点で自主的ではなく強制的な活動になったため浸透性にかけるようになり以後全国的にQCサークルは急激に減少するようになる。
*発表は、本来、相互啓蒙のために他のサークルを聴衆とし行うべきなのに、審査員に対して発表するという習慣が出来上がり、審査員の評価を高くする競走を招き、ほとんどがデータの改ざんや虚偽した発表が多く見られる。
*QCサークルは、既存の体制を大きく変更せずにムリ・ムダ・ムラを減らす活動に徹するべきで、大きな成果は方針管理で出さねばならない。ところが方針管理が、本来フィード・フォワードで行うべきところPDCAのフィードバック活動とする指導が行われ、うまくいかない故に、成果出しの役目をQCサークルにしわ寄せしてきた面がある。このことがデータを捏造した「高い目標」「高い成果」「高い達成率」の発表競争を招いた。
*QCサークルはPDCAを基調とした活動であるが、「QCサークルのやり方」自体はPDCAが回らない故に、QCストーリー通りに記入枠を設けた定型用紙を配布して活動を報告させるような旧態依然としたやり方に留まっている。
*QCサークルは小集団活動のため企業全体のまとまりに欠ける。
もしこれからQC活動を始めるのであれば、こうならないよう、過去の反省として活かしてほしい。
2.QCサークルの進め方
ここでは実際に私の経験に基づき、悪い見本であるQCサークルの進め方について紹介する。
読むにあたり、まず理解していただきたいのは、QCサークルとは「自発的にやるもの」という本来の原則と、
会社からの命令で強制的にやらされるものという相反する状態が根底にあるということである。
【テーマ選定】
活動を始めるにあたり最初に行うのがテーマの選定である。
その前段階としてメンバー集めもあるが、これは管理職が適当に選ぶ。選ばれたら強制的に参加となる。
QCサークルはテーマ完結までの期限が明示的あるいは暗黙的に決められているため、
テーマ選定の際には、短期間(数か月程度)で終わらせられる内容であること、
グループ(チーム)外の協力を必要とせず、グループ内で比較的簡単に解決可能な内容であることが
重視される。しかし、本来ならば緊急性と重要度を重視して選ばれるべきであると思う。
短期間で終わらせるためには、これから調査・分析を始めなければならない問題をテーマとして扱うことは
時間的に不適切である。
そのため既に問題点や解決策が何となくイメージできているものが必然的に選ばれる。
活動を進めていく過程で、最初にイメージしていた問題点よりも、
もっと別の本質の問題点が発見されることもあるが、
その場合は誰も聞いていなかったふりをし、何事もなかったかのように進められる。
活動期限が区切られているのだから、これは仕方がない。
もっと言えば、QCサークルは問題を解決することよりも活動することに意味があるのだから、
協調性、つまり輪を乱さず、何事もなく穏便に運営していくことが一番大切である。
【テーマの選定理由】
発表会では冒頭に、「なぜ数あるテーマの候補のうち、このテーマを選んだか」を説明するので、
とりあえず考えておく必要がある。
よく行われる手法が、候補として挙がったテーマを横に配置し、緊急度、重要性、解決可能性等を
縦に配置した表を作り、それぞれを5段階で評価し、
その中で最も高いスコアのものをテーマに選ぶという方法である。
一見すると客観的な方法であるように思える。
しかし実際には5段階評価というのは適当な理由を付ければ、好きなように調整できるため
客観的ではないし、事実、かなり個人的な都合にあわせて調整される。
つまり、スコアの最も高いテーマが選ばれるのではなく、選びたいテーマのスコアを最も高くするのである。
例えば、もし自由にスコアを付けていった結果、選びたいテーマのスコアが1位にならなかった場合、
そのテーマが1位になるように全体的にスコアの調整が図られる。
では、数ある候補の中からどのようにしてテーマは選ばれるか。
それには大きく2種類ある。
1つは、簡単に解決しそうなテーマ、かつそのテーマを選んだ理由を対外的に説明しやすいテーマである。
もう1つは、一番発言力の強い者による鶴の一声で決定される方法である。
【状況把握】
テーマ選定後は問題となっている課題の状況把握を行う。
本来なら客観的なデータに基づいた分析ができればベストであるが、そんな時間はない。
直観的にこれだという項目をリストアップし、このフェーズは短時間で終了する。
【要因解析】
ここでは、各メンバーが思っている要因をどんどんリストアップする。
しかし、リストアップは数が多ければよいというものではない。
他部署等、外部の人間には隠しておきたいことや、これを言うと人間関係がギスギスするといったものは
挙げるべきではない。
結果的に、言ってはいけないことが存在し、それを避けて議論が進むため、
非常に表面的な議論が展開される。
そしてその言ってはいけないことこそ、問題の本質である場合が多い。
【対策の実施】
要因解析の結果が本質でないことはメンバー全員がよく分かっているため、
メンバーも対策の実施に気合が入るはずがない。
そのためモチベーションの低下したサークルでは、とにかく簡単にできる対策が選ばれる傾向にある。
【効果の確認】
以上のように進められた結果であるから、当然大した効果があるわけはない。
しかし、それを正直に発表会で発表することはできない。
対策を実施したということは、実施前と実施後でわずかではあるかもしれないが、
何らかの変化はあったはずである。
それを様々な角度から見たり、時には都合よく解釈したりして、効果を無理やり探すことになる。
また、事前の発表練習の際に「この発表にはインパクトがない」と管理職に指摘された場合は、
今更活動をやり直すわけにはいかないので、
この「効果の確認」と「状況把握」がありもしない話に置き換わることが多い。
【今後の課題】
これはテーマ完結時に発表会を意識して考えられる。
基本的には発表会での質疑応答で、つっこまれたら危険な箇所を事前に潰しておくものである。
例えば、○○について質問・指摘されたら反論ができないと事前に予測できれば、
それを発表のスライドに今後の課題として載せておくことで、
質疑応答でつっこまれる危険を回避できる。
【発表資料の作成】
発表資料はQCストーリーに従って作られるのが一般的だと思う。
実際に発表資料をPowerPointで作ってみるとわかるが、
どうしても作りづらい、あるいは作れないスライドがあることに気付く。
とくに実際の活動のスケジュールや成果、また、とても客観的とはいえない分析結果を
堂々と正直に審査者である役員の前で発表できるわけがない。
ここでねつ造が行われるが、これはどこのサークルも同じなので特に罪悪感を感じる必要はない。
【発表会】
発表会では1グループにつき10分程度の持ち時間で発表が行われる。
10分程度なので事前に練習しておけば台本無しでも話せる時間であるし、
トークの上手い人であればいろいろ工夫をして、
審査員や聴講者を惹きつけるような素晴らしい発表をすることもできるだろう。
しかし実際は、発表者はスクリーンではなく台本を凝視し、
いかにも台本を読んでいるかのように非常に棒読みな発表が行われる。
なぜか。それは優秀賞に選ばれるとより上位の大会に参加しなければならないからである。
つまり、最低限、活動を頑張ったということは伝えなければならないが、
かといって優秀賞に選ばれるほどではないといった程々の発表が求められるのである。
質疑応答も完璧ではいけない。なぜならば質疑応答の結果を重視する審査員もいるからである。
完全に論破されたり、テーマそのものを全否定されたりしてはいけないが、
完璧に受け答えできてもいけない。そんな調整が質疑応答には必要なのである。
【お勧めのテーマ】
最後にお勧めのテーマを紹介しておきたい。
それは会社が設備投資の強化等、金で解決した問題を
後追いでテーマに選ぶことである。
金で解決というのはQCのテーマとしてやや適さないため
発表会で優秀賞に選ばれにくくなる。
また、会社の様々な活動に便乗する方法も有効である。
たまたま会社と同じことに取り組んでいたら、
会社が先に勝手に解決してくれた(からサークルとしては大したことは実施していない)という方向に
持っていくのである。
どちらにも共通して言えるのは、会社の動向をいち早く察知し、
あたかもサークルの方が先に動いていたかのように装うことである。
3.QCサークルへの批判
Wikipediaによると基本理念として以下の3つが挙げられている。
1.企業の体質改善・発展に寄与すること。
2.人間性を尊重し、生きがいのある明るい職場を作ること。
3.人間の能力を発揮し、無限の能力を引き出すこと。
QCサークルを何度か経験した人であれば
実際の活動は会社の利益の追求、すなわち1と3に偏り、
労働者の利益である2は軽視され、それどころか逆の方向に向かうことが珍しくないことを
感じているであろう。
さらに、役割と特徴を抜粋すると
1.人間尊重の精神に支えられた
3.自主的な
とあるが、QC活動中に一度もこれらの言葉を耳にすることはないと思う。
ではQCサークルの何が問題か。
1つは、各部署の特徴や性質を考えずに、トップの方針で全社的に実施を強制することである。
やる気がないのに無理やり強制しても効果がないことくらい誰でもわかる。
もう1つは、期間を区切られ「『いつまでに』テーマを終わらせなければならない」
と日常の仕事のようにノルマが課せられ、内容よりも締切と活動実績が重視されることである。
難しいテーマであれば数か月程度でとても終わるものではないし、
それが本当に業務の改善につながるのであれば、期限を区切らず長期的かつ継続的に取り組むべきである。
最後に、これからQCサークルを義務化して導入しようかなと考えている会社があるかもしれないので言っておきたい。
社内で新しくルールを作ったり、既にあるルールに追加をしたりすることは非常に簡単である。
しかし、一度作ったルールを撤廃することは非常に困難である。
QCサークルを義務化し、全社展開するときも同じことが言える。
「始めることは簡単かもしれない。しかし、一度始めたことをやめるのは、その何十倍も大変である」
やめるときがイメージできないなら初めからやるべきではないと思う。
そして始めたところで効果が表れるとは限らない。むしろ時間と金の無駄にしかならない可能性もある。
そこで私の好きな言葉を紹介して終わりとする。
「できることをやらない勇気」