ラーメン食べたい透明人間 -15ページ目

ラーメン食べたい透明人間

とらドラを愛してやまない物語中毒者。気が向いた時に更新します。

 とらドラ!19話で大河が最後に呟く「どうしたって」という台詞。この短い台詞に、大河が17年間重ねてきた感情、竜児に対する思いの強さが込められています。それを順に考察していこうと思います。

 

 

 父親への思い

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 2学期が始まりしばらく経った頃、大河の携帯に父親から度々連絡が入るようになる。それを無視し続けていると、今度は生活費の口座からお金を引き抜かれていたので、大河にせがまれ竜児が父親へ会いに行くことになった。

 家に帰った竜児は、もう1度やり直したいという大河の父親の伝言を伝える。が、大河はそれを拒絶する。

 

 

  「かわいそうなのは私の方よ!」と涙目で訴える大河。後に大河は父親のことなんてどうでもいい、と切り捨てますが、ではなぜ、この時はこんなに感情が動いたのだろうか。

 

 大河の父親は去年も同じように迎えに来たが、仕事を理由に大河の前から急にいなくなった。それ以前にも、生活費を振り込みで済ませ顔を合わせなかったり、大河が家を出た後もそのまま1人暮らしをさせていたり、親子の絆を結び直せないほどの距離が離れていた。大河は何度も信じてみたけれど、その度に裏切られて来たのではないか。

 

 何度も裏切られるうちに大河は「私が望んだものは絶対手に入らない。」と思うようになった。

 

 それを知らずに、父親が家の前まで来た時、それを無碍に追い払った大河に怒鳴ってしまう竜児。それが自分のエゴだと気づき自己嫌悪するが、大河はそれを受け入れる。半ば諦めながらも、父親だから、もしかしたら今回は違う結果になるかもしれない。そう願って。文化祭で何度も携帯を確かめたり、ミスコンの最後まで父親が来る可能性を捨てなかったことから、このことが伺える。

 

 過去のことを竜児に、今のことを実乃梨に話さなかったのは、これ以上誰かに父親のことを嫌ってほしくなかったから。そして、どうでもいいと切り捨てるのは、これ以上嫌いたくなかったからではないでしょうか。大河の母親は、離婚の時に別の男についていくことを選んだ。つまり父親のもとに大河は残されたのだ。だから父親は親子にとっての最後の砦で、完全に縁を切るようなことはしたくないんじゃないんでしょうか。

 

 

 北村との距離

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 金髪に染めた北村が、竜児の家に転がり込んできた。 心配していた2人だったが、いつもの調子の北村に安堵する。生徒会長になりたくないと呟く彼に、大河は励ましの言葉を口にする。

 

 夜中に目を覚ました大河は、北村が1人布団の中でないていた姿を見て、浮かれていた自分の愚かさを痛感する。

 

 高校に入学して、その素行の悪さから浮いていた大河をそのまま好きだと言ってくれた。文化祭で、父親に見捨てられた大河の手を取ってくれた。大河が1人でいる時に、北村は欲しい言葉を伝えてくれた。

 

 けれど北村が苦しんでいる時、大河はそれに気づくことができなかった。側にいてあげることができなかった。目に見えているものは、何光百年も離れた星のように遠く感じた。

 

 

 北村は生徒会長に告白した。大河は隣にはいられない、望まれていないことを痛感する。だけど、自分のできることはやろうとした。好きだから。そして、今までいろんなものを貰ったお返しに。間違っているのかも。わからない。ただ前に進むためには、こうすることしか思いつかなかった。

 

 サンタ

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 クリスマスが近づいてきたある日、竜児は大河の部屋で大量の小包を見つける。その中に父親と継母宛の荷物もある。そして他の荷物は、教会や児童福祉施設へサンタクロース名義のものだった。クリスマスが好きだと言ってはいたが、普段の行いから逸脱しすぎた姿に困惑する。

 

 中学までは所謂、お嬢様学校に通っていた大河。その学校ではボランティアが必須で、幾つかの施設で雑用などを行っていた。そういった施設に通う子どもたちに、例え親がいなくても誰かが見てくれているから、と伝えたかった。それは独善的な偽善で自己満足なだけの行為だと気づいているが、大河がそれを信じたかったのだ。両親が自分を見ていなくとも、世界には誰かが自分のことを見てくれているのだと。

 

 大河は幼い頃、サンタに会ったことがあるという。クリスマスの雪の日に、リビングのツリーの下で眠っている幼い大河のもとへ訪れた。プレゼントを渡し、いい子にしていたらまた会いに来るよ、と言ってくれた。それは現実かどうかも判別付かない夢。だけれどそれは、とても幸せな思い出だった。いい子にしていれば、いつか自分のことを見てくれる誰かが現れると、そう信じて生きてきたのだった。

 

 クリスマスイヴの夜、パーティから帰宅した大河は部屋で一人佇んでいた。結局クリスマスの時期限定のいい子にしていたって、サンタは現れてくれないのだ。だから今年もひとりぼっち。だが、夢に縋っていれば、なんとか生きてける。そんな気がしていた。

 

 コツコツと、窓を叩く音で目が覚める。いつの間にか眠っていたようだ。その音は寝室から響いてくる。恐る恐る様子を見に行くと、そこには窓に捕まり今にも落ちそうなきぐるみのサンタがいた。慌てて引き上げ尋ねると、自分はサンタだと首肯した。

 

 こんな馬鹿げたことがあるだろうか。大河はサンタをリビングに連れていき、ガラスのツリーを自慢した。親指を立てサンタはツリーを褒める。それが嬉しくて、大河は思わず抱きついた。夢のよう、しかしこれは現実だ。夢が現実になったのだ。

 

 ひとしきり笑った後、きぐるみの頭を外し夢のような時間は終わりを告げる。竜児が実乃梨に会えるよう、脅迫に近い真似事をしたと言うのに、当の本人がこんなところにいては、折角の努力が水の泡になる。私は1人で大丈夫だと竜児を部屋から追い出し、またリビングには静寂が戻った。

 

 竜児と実乃梨は両思い、そう信じていた。2人が付き合ったらこれまでのようにいられない。海へ遊びに行った夏、二人が結ばれればその隣には自分がいられなくなることには気がついていた。その夢は今夜で終わってしまうのだと気づく。竜児の名前を呼ぶことが出来ない。竜児の隣を歩いてはいけない。それがいやだった。

 

 

 失ってから初めて気づく。北村の傷を許せなかった時、自分の傷を厭わなかったのは、竜児がいてくれたからだ。暴力という間違いを犯した時、その手を掴んでくれたのは竜児だった。北村へずっと想いを寄せれたのも、あの日、同じ電柱を一緒に蹴っ飛ばしてくれた竜児がいたからだ。竜児がそばにいなければ、恋をすることさえ出来ない。縋っていたのは夢ではない。自分のことを見てくれる誰かとは竜児だったのだ。

 

 どうしたって 

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 大河は正月の初詣で北村と偶然出会い、失恋大明神に「竜児に対する好きな気持ち、全部消して。私を強くして」と拝んだ。1人で生きていけたのに、今じゃ竜児なしでは立ち上がれないくらい弱くなってしまった。

 

 冬休み最終日、竜児は家にも来ず避けているような態度の大河に、真意を尋ねる。

 

 すると、実乃梨に振られたのは、大河に竜児が必要だと思われていたから。だから1人で生活できることを証明して、竜児と一緒になって欲しいから。だから頑張れ、と竜児を励ました。

 

 両親のことが好きだったが、家から出ていってからは「どうでもいい」と言えるようになった。文化祭の日、父親に裏切られても、次の日にはいつもどおりの大河に戻れていた。だから好きになってしまった竜児と別々に暮らすことによって、気持ちを消そうと考えた。そうすればまた、1人で立ち上がれるくらい強くなれると信じて。

 

  「どうしたって」とは、大河がこれまで人生で培ってきたそのものだ。家から出て、夢に縋り、1人で生きてきた。それは「私が望んだものは絶対手に入らない。」からだ。だから傷つくのを恐れて、竜児の家に行かないようにした。失恋大明神に拝み、実体ないものに縋ろうとした。けれど、それらは全く効果はなかった。竜児に対する愛情は、切れない親子の縁よりも、初めてありのままの自分を好きになってくれた北村よりも強くなった。今まで囚われ続けた世界の法則をも壊してでも一緒になりたかった。

 

 そしてこの台詞と同時に「オレンジ」が流れている。前回説明したとおり、この詞は相反する2つの感情が描かれている。ここでの二つの感情とは、”実乃梨と竜児がうまくいって欲しい””竜児の隣りにいたい”という感情だ。お互い共存していて、どちらも同じくらい強い思いなのだ。

 

 その隠した感情、17年間で1番強い感情が滲み出た瞬間が「どうしたって……竜児のことが……好きなんだもん……」という台詞から伝わってきます。竜児と市民プールへ泳ぎの練習に行った際、自分の気持ちがわからないと言っていた大河でしたが、ようやく本当の自分の気持ちを見つけることができた。さらにEDのオレンジを同時に流すことでシーンの重さが増し、台詞が終わると同時に曲が「気づいてよねえ」と流れる粋な計らい。曲自体も盛り上がるところなので、視聴者の気持ちも高揚する素晴らしいシーンだと思います。

 

 

 それでは今回はこのへんで。ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸せが世界にあると知った。けれどその幸せから逃げ出してしまった。幸せをつかむためには、逃げずに立ち向かわなければならない。