【さよ朝】物語は本物になれるのか ―変わるものと変わらないもの、それぞれに映る世界― | ラーメン食べたい透明人間

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とらドラを愛してやまない物語中毒者。気が向いた時に更新します。

 私がこの作品を見たのは、公開されてから一週間後でした。

 

 知識無しで観たにもかかわらず、スルスルっと頭に設定が入ってきて、気がついたときには滂沱の涙を流してました。

 

 この感情はすでに知っていた。母性に感動したわけでも、人と一緒になれないマキアに同情したわけでもない。恋だ。この映画を観ていた二時間、俺は本気でマキアに恋をしていたのだ。

 

 この作品は親子(母親)の絆を描いた作品だとよく耳にします。それ自体は間違いだと思わないのですが、私はクリエイター、もっと正確に言えば、岡田麿里監督自身の願いを描いた作品だと感じました。

 

 ここではエリアルとイオルフの三人を順に追っていき、ストーリーを解き明かしていこうと思います。

 

 

 エリアル

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 自我が芽生えた頃にはいつもそばにマキアがいた。マキアはいつもエリアルのことを思ってくれていたので、自然と彼女を母親として好きになっていた。幼馴染のディタにバカにされてもその気持は揺るがなかった。

 

 

 マキアの仕事に興味を持ち、織物を習う。イオルフの編み物は素材が変わっても、織り方で文字を表現できるので、エリアルにもそれを習得することが出来た。

 

 ある日、ミドたちと飼っていたオノラが死んだ。動物も人も、いつかは死んでいなくなってしまうんだと、この時初めて理解した。だから大事な人がいなくならないよう、自分が守らなければと思った。

 

 マキアに連れられ貨物船に乗り込んだ。初めての船ではしゃいでいたが、マキアが知らない人と親しくしていて、自分以外に向ける好意にモヤモヤした気持ちになった。

 

 それから知らない土地で知らない人たちとしか会話をせず、なんだか違う人間になったようだ。不満を漏らすといつものようにお腹をくすぐってくれた。いつものマキアで安心した。

 

 荷物を纏めメザーテからヘルム農場に帰ると思いきや、別の場所に行くらしい。ミドやラングに会えないと思ったが、マキアがいてくれれば寂しくなんか無かった。

 

 しかし新しい宿で暮らすようになってから、マキアがまたかまってくれなくなった。寂しさから織り物を仕立てようとするが、帰ってきたマキアに叱られてしまう。辛そうな姿を見ていられず、外に飛び出た。

 

 服を脱ぎ、マキアを笑わせることに成功した。泣いてる姿なんて見たくなかった。自分が、マキアのことを守ろうと思った。マキアはずっとこのままがいいと言ったが、成長しなければ守ることが出来ない。大人になってマキアを守る、そう宣言した。

 

 

 各地を転々としている間に、15歳になったエリアルは、ドレイルの街で工場に勤めていた。仕事が終わり、同僚に連れられマキアの働く酒場に訪れる。

 

 美人のマキアは、客に人気だった。見た目が変わらないマキア、そして全く似てない容姿から、なんとなく血のつながりは無いのだと悟っていた。この頃には親子ではなく兄弟と周囲に説明しているくらい、エリアルは成長していた。

 

 すると、同じ酒場にメザーテの軍に入隊したラングと再開した。家に帰っても、親しそうに話している二人に嫉妬して家を出た。

 

 見た目が似てないので、仕事仲間からは駆け落ちしているのだと誤解されていた。ラングとマキアの間にも何か隠し事があるような気がするし、他人がマキアに色目を使っているのも気に食わなかった。ふてくされていると同僚に酒を勧められ、自棄になり浴びるように酒を飲んだ。

 

 泥酔して帰ったが、マキアの態度は冷たかった。足元がふらついて、子供の頃に織った織り物を踏んでしまう。「かあさん」と記されているそれを大事に抱えるマキアに腹を立てた。自分で稼ぐようになり、身長もマキアより大きくなってもまだ子供扱いされることが嫌だった。その思いを伝えるも拒絶され、つい親だと思ってないなんて思ってないと口にする。

 

 後日、ラングに軍に入れてもらえないか志願する。マキアを母ではないと言ったことを叱責されたが、エリアルはマキアを母ではなく対等に守りたいと思っていたのだ。子供扱いされる現状を変えたくて、強くなりたいと願った。それは表向きの感情で、弱く自分の感情を制御することが出来ないエリアルは、マキアの側にいると傷つけてしまうと気づいた。だから、強くなりたいと。ラングはその気持ちを読み取り、軍に入れることを承諾した。そしてエリアルはメザーテに向かうため、マキアの元を離れた。

 

 

 軍に入りメザーテで生活を始めると、幼馴染のディタと再開した。二人は恋仲になり、さらには子供も授かった。

 

 21歳になり出産を間近に控えたある日、バイエラと戦争が起ころうとしていた。ラングにマキアが囚われてるかもしれないと聞いても、彼女の強さを信頼していて、精神的に自立しているのがわかる。ほどなくして戦争が始まってしまう。

 

 海、そして陸からも敵国が攻め込んでくる。エリアルは陸側の応援に向かうため移動するが、その最中にマキアと再開する。しかし敵と交戦している味方を助けるために、戦地に赴いた。

 

 マキアと一緒に生活している時、それが世界の全てだった。だが兵士になり、自分の力だけで生き、大切な人を作り、帰る場所もできた。それを守りたかった。だからマキアではなく、仲間の元へと向かったのだった。

 

 さらに戦争が激化していく。城門が落とされ、敵軍が城内になだれ込んでくる。それを止めるべく、メザーテも全力で応戦する。大量の骸が転がる戦場で、エリアルは必死に迎え撃った。死体が流した血に足元を取られ、左足を負傷する。そして……

 

 目が覚めるとマキアが寄り添っていた。いつの間にか気絶していたようだ。周囲には傷を負った兵が多数いるが、城下町は静寂に包まれていた。エリアルは戦争が終わったことを察する。そしてディタとの子が生まれたこと、本当の母親のことを聞かされる。

 

 

 ずっと感づいてはいたが、マキアと血の繋がりはなかった。だが、それでも母親として側にいて欲しかった。マキアは”偽物”だったかもしれない。けれども、エリアルに優しさを、強さを、愛を教えてくれたのはマキアだった。マキアだけが母親だった。「母さん!」と呼びかけるも、マキアはエリアルの元を去ってしまう。

 

 家に帰ると、生まれたばかりの子を抱いたディタがベッドに座っていた。自分の子を抱え、本物の父親になれたことを実感する。

 

 「愛してるよ」

 

 エリアルがマキアに愛を教わり、ディタを愛したように、この子も誰かを愛するのだろう。そうやって繋がっていくんだと知った。エリアルはこの場所を、家族を守ることを誓った。

 

 エリアルだけを見ると、母性愛、親子愛を描いていると言える。しかしこれだけなら、イオルフの設定が意味をなしていない。次からはマキア、クリム、レイリアの視点から、ストーリーを追っていきます。

 

 

 マキア

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 イオルフの民は数百年の時を生き、ヒビオルという布に日々の出来事を織りながら生活している。

 

 この設定を聞いた時、イオルフとは”物語”の暗喩ではないかと感じた。もしくは”物語に出てくるキャラクター”。

 

 一度生まれると消えず、見た目が変わらず長い時を生きる。そしてヒビオルが物語の媒体であると考えた。

 

 人里離れた土地、つまり物語に触れない人間たちとの断絶を表したものじゃないかと。そこでヒビオル(作品)を作り続けるイオルフ(創作者)。そこからさよ朝は始まる。(単語で表現するために創作者と表現しましたが、イオルフが岡田麿里さんを投影してるってわけではないです。あくまでキャラクターが動いて物語が作られる、という意味で創作者と表記しました)

 

 

 静かに暮らしていたマキアだったが、イオルフの血を求めたメザーテが村を襲う。赤目病になったレナトに捕まり、偶然にも逃げ出すことに成功してしまう。

 

 帰る場所と仲間を失い森の中で途方に暮れていたが、流浪の集落から赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。そこには山賊に襲われ絶命した母親と、それに抱かれる幼子の姿が。たまたま居合わせたバロウに、集落が全滅したことを告げられる。この赤ちゃんもまた、帰る場所と仲間を失っているのだった。

 

 似た者同士、マキアはこの赤ちゃんを育てることに決めた。バロウには止められたが、この赤ちゃんが生きる証なのだと、私の”ヒビオル”なんだと、そう心に誓って。

 

 

 しかし、意気込んだものの、赤ちゃんの食事を与えることすらできず、ヤギ小屋に忍び込んでミルクを与えようとした。しかし思い通りに乳を与えることが出来ず、ミドに見つかってしまう。

 

 ミドはヘルム農場で、ヤギのミルクから作ったチーズなどを売って生活し、母親一人で長男のラング、弟のデオルを育てている。夫は赤目病になって暴走したレナトに殺されたらしい。マキアをダレルの雑貨屋に連れて行き、そこでヒビオルを売ることで生活費を稼げるよう工面してくれた。

 

 それからはヒビオルを織りながら、エリアルの母として月日は流れた。最初はエリアルが男か女かもわかっていなかったが、ミドを手本に母親であろうとした。

 

 

 エリアルが6歳になった時、ミドが飼っていたオノラが死んだ。 「みんな死んでしまうの?」とエリアルは口にする。ミドもラングもエリアルも、みんなマキアより先にいなくなってしまうのが辛くて、思わず泣き出してしまう。「母ちゃんは泣かないぞ!」ラングのこの言葉に、強くなろうとマキアは思った。

 

 それからしばらくして、ダレルのお店にヒビオルが売られる。それには、レイリアがメザーテの王子と政略結婚させられることが綴られていた。ミドにエリアルを預かってもいいと言われたが、母親として側にイてあげたかった。辛い道のりだとわかっていたが、エリアルを連れてメザーテに向かう。

 

 メザーテに向かう船の中、クリムと再開する。クリムによれば、他にも生き残ったイオルフと共に、レイリアを奪還するようだ。メザーテに到着してから同胞と落ち合い、作戦当日を待つ。作戦が気がかりでエリアルに拗ねられるが、自分は母であるということを忘れないように振る舞う。

 

 作戦当日、クリムによってレナトが暴れパレードが混乱した隙に、レイリアを連れ出すことに成功する。なんとか路地裏まで連れ出すことが出来たが、レイリアは仲間の元には行けないという。レイリアはすでに王子との子を身籠っていたのだった。それでも諦めきれず説得しようとしたが、追手に見つかってしまう。が、バロウに抱えられその場を後にする。

 

 作戦が失敗し、レイリアが王宮に残ると決めた以上、マキアがメザーテに居る理由はなくなった。ミドのところに戻っても、長居することも出来ない。これからのことを考えると辛かったが、エリアルがいればそれでよかった。

 

 メザーテはイオルフの血を求めていた。自分がイオルフだと知られてしまえば、レイリアのように囚われてしまうかも知れない。レイリアを取り戻すために歯向かったりもした。さらにバロウには、他者と違うものは忌避され利用されるとも忠告された。だから素性を知られる訳にはいかなかった。なので、ヒビオルを売って生活することが出来なくなった。旅先で仕事を探すが、なかなか見つけられず、エリアルを宿に預け一人で夜まで街をあるき回ったが、色よい返事は帰ってこなかった。

 

 宿に戻ると、エリアルが織り機でヒビオルを織っていた。身を隠して生きねばならない辛さと、仕事が見つからない憤りで、思わずエリアルに当たってしまった。宿を飛び出すエリアル。思わず追いかけようとしたが、織り機に足を引っ掛けて転んでしまう。織りかけのヒビオルには「かあさん」と綴られていた。母と呼ばれて必要とされているのであれば、それに応えたい。マキアは宿を飛び出し、必死にエリアルを探す。

 

 

 雨の中、ようやくエリアルを見つけたと思ったら、服だけがそこに置かれていた。エリアルは辛そうなマキアを励ましてくれたのだった。いつもマキアがしてきたように。その優しさに泣きそうになるが、「もう泣かない」と約束をする。エリアルを心配させないために、強くなるために、そう誓った。

 

 各地を転々とし、気がつけばエリアルは15歳になっていた。ドレイルの街では、食堂でウェイターをしていた。ある日、ラングが店を訪れ、9年ぶりの再開に心を踊らせる。ラングは軍人として、この街に配属されたようだ。

 

 仕事が終わるとラングを家に招き入れ、これまでの思い出と思春期に入ったエリアルの愚痴を漏らす。

 

 それから数日後、ラングはマキアがバイエラに狙われていることを耳にする。それをマキアに警告し、ヘルム農場に帰らないかと提案する。しかし、ミド達に迷惑をかけたくなかった。けれどラングは、迷惑だと思わないでほしい、一人で背負い込んでほしくなかった。そしてマキアの将来も一緒に背負いたいと告白した。それをマキアは、やんわりと断った。エリアルとどうすれば側にいれるのか、そればかりを考えていた。ラングと一緒になってしまえば、エリアルを一人にしてしまう。それが嫌だった。

 

 ある日の夜遅く、エリアルが酷く酔って帰宅した。酔った勢いか甘えようとしてくるが、母親としてそれを受け流す。「かあさん」と織られたヒビオルをまだ大切にしていることから、そのことが伺える。しかしエリアルはマキアを母親と思ってないと口にする。エリアルの母親で居れてないことに、酷くショックを受ける。

 

 

 後日、ラングと言い争いをしているエリアルを偶然見つけてしまった。エリアルはマキアに母親とは違う、別の感情を抱いていることを耳にしてしまう。マキアに向けていない言葉を聞かなかったことにして、その場を立ち去った。

 

 エリアルは軍に入るため、メザーテで下宿することになった。これを機にマキアもドレイルを去り、別々に暮らすことにした。別れの当日、マキアは母親としてエリアルを見送った。マキアは、どうすればエリアルとずっと一緒にいられるか考えていた。だからあの日、宿を飛び出したエリアルが守ると約束してくれた言葉を大切にしていた。母親でいることで、側にいれると思っていたのだ。だから離れていくエリアルに胸を痛めた。「嘘つき……守ってくれるって約束……嘘つき……やだよ……」

 

 

 メザーテを出た時は自分の感情をエリアルにぶつけてしまうけれど、9年経って自分よりもエリアルの感情を大事にしているマキアに心打たれました。母親として成長しているのがわかります。

 

 

 エリアルを見送った後、メザーテの敵国バイエラに囚われ幽閉されてしまう。そこにはかつての同志、クリムもいた。

 

 

 バイエラが戦争を起こすと同時に、クリムに連れられレイリアを奪還するために戦地へ向かう。途中で騎乗していた馬が流れ弾に当たってしまい、森を走って抜けようとするがクリムとはぐれてしまう。

 

 森を抜け、荒れた広場に出てきたが、城まではまだ距離がある。すると、こちらに向かってくる足音が聞こえ、咄嗟に振り返る。そこには成長し鎧を着たエリアルが立っていた。別れた6年分成長した姿で。しかし戦火がすぐそこまで迫っており、エリアルは仲間を助けるべく、戦場へ向かった。

 

 一人になりさらに森を走るマキアだったが、斜面に足を滑らせてしまう。小高い広場からメザーテを見下ろしてみると、まるでイオルフから森へ逃げ出した夜のようだった。あの日聞いたエリアルの泣き声と重なるように、女性のうめき声が聞こえた。声を辿り森を抜けると、そこには破水した女性がいた。急いで医者を呼ぼうとするが、その女性はエリアルとの子を身籠っていたのだ。マキアは出産の手伝いをすることを決意する。

 

 出産は困難を極めた。しかしその苦痛に耐え、元気な女の子が生まれた。生まれたばかりの子に指を差し出すと、初めてエリアルとあった日のように指を掴んだ。そしてそこには”本物”の母親がいた。こうやって人は繋がっていくんだと。マキアが紡ぎ織った”ヒビオル”はこうして受け継がれていくんだと悟った。

 

 6年前、エリアルと別れてからずっと一人で過ごした。永遠とも呼べる長い時間、自分と呼べるものすら曖昧になっていったが、エリアルのことを思うだけでそれは保たれた。”エリアルを愛する”ことこそが自分なんだと。例えこの先何も得られなくとも、エリアルと過ごした時間は変わらないのだと。愛する気持ちは”本物”であると知った。心の裡にある”ヒビオル”にちゃんと刻まれている。それはエリアルも同じだと信じていた。

 

 城下町まで降り、負傷したエリアルに付き添った。そして目を覚ましたエリアルに子供が生まれたこと、本当の母親のことを話した。エリアルと共に過ごし、失う悲しみを、辛さを、痛みを知った。けれどその苦しみは、幸せだった時間がもたらしたものだった。愛する辛さの裏には、それ以上に受け取った愛があった。

 

 「エリアルが呼ぶ名前が、私の名前になる」

 

 その愛の前に、名前など関係なかった。その形そのものがマキアであり、エリアルだった。

 

 人間と同じ時間を生きれないマキアは、エリアルの元を去ろうとする。エリアルが側にいて欲しいと願うならそうするつもりだったが、そうならないとはなんとなくわかっていた。マキアのことを母と呼んでくれるエリアル。その一言で今まで信じてきたものが”本物”になった証であり、親離れしたエリアルには、マキアは必要のないものだった。

 

 マキアは自分が生きる世界へと歩き始めた。

 

 

 クリムとレイリア

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 この二人は「時間を止めたもの」と「時間を止められたもの」というイオルフの命題ともいえるものがテーマになってると思います。

 

 

 里で愛し合っていた二人、しかしメザーテの侵攻により引き裂かれてしまう。レイリアはメザーテに囚われ、クリムは里から逃げ生き長らえていた。

 

 城に囚われたレイリアは、よくレナトの檻に来ていた。翼を持っているのに、逃げ出そうともしないレナトに悪態をつく。長い歴史を刻んだヒビオルが織られ続けるヒビオルの塔。そこは人間に知られることもなく、ただそこにあるだけの歴史。そんなところがヒビオルの塔に似ていると思った。

 

※レナトについて

 レナトは何度かストーリーに出てくる「翼を持った一族」だと思われます。そしてこの後(レイリアがメドメルを産み、ヘイゼルに飽きられた頃。マキアがドレイルで暮らしているあたり)イオルフと同じ、伝説の中でしか生きれない存在と言ったように、レナトも”物語”を暗喩しているのではないかと。イオルフの民が古い伝承というように、イオルフよりもさらに昔の、いわゆる古典を指している。赤目病は自身が炎に包まれることから、焚書のことかなと妄想したり。(これについてはレイリアの「外に出ない感情が身を焦がし、やがて燃えてしまう」という言葉通りの意味かもしれないが)

 

 クリムはレイリアを奪い返すべく、各地で仲間を集めた。そしてレイリアが表に出てくるパレードを狙う計画を立てる。作戦は成功したが、レイリアはすでに王子との懐妊しており、ついには連れ出すことは叶わなかった。

 

 しかし諦めることが出来ないクリムは、その後も仲間と共にレイリアを奪還しようと試みる。マキアにはエリアルがいるので、その後の行動に支障が出る可能性があり、もう手伝わなくていい旨をヒビオルに綴り渡した。

 

 その後、なんとか城内に潜入するも、イゾルたちに阻まれ仲間を失った。それでも生き残ったクリムは、バイエラに亡命する。

 

 メドメルを出産して母親になったレイリアだが、育児は侍女に任され、部屋に軟禁されて娘に会うことすら出来なかった。イオルフの長命を血筋にしたかったメザーテだったが、メドメルには受け継がれなかった。なので次の子を産ませようとするが、ヘイゼルがそれを拒んだ。娘にも会えず、仲間を皆殺しにされた(と思っている)レイリアは、一人になってしまった。

 

 バイエラでメザーテ侵略を計画している中、クリムはマキアに怨恨を募らせていた。仲間と愛する人を失ったレイリアとクリム。その反面、自分だけ最愛の人と一緒にいることが許せなかった。そしてドレイルにいるマキアを連れ去り、バイエラに幽閉した。

 

 侵略の準備が整い、マキアを連れてメザーテに向かおうとした。染めていた髪はほぼなくなり、マキアは昔のような金髪に戻っていた。クリムはそれ(マキアがイオルフから出ていってから積み重ねた時間)を切り捨て、みんなで里に帰り元通り生活することを求めた。

 

 軍が侵攻している隙にメザーテに潜入し、途中馬が撃たれマキアとはぐれてしまうが、城までたどり着くことができた。

 

 

 再開したレイリアと一緒に帰ろうとするクリムだったが、すべてを失ったと思っていたレイリアは、自分の娘(時間が進む世界)を愛してしまっていた。里を出てから一心にレイリア(時が止まった世界)を愛していたクリムとは、大きく思いがズレてしまっていた。もう同じ時を歩めないと知ったクリムは一緒に死のう(時を止めよう)とするが、レイリアを助けに来たイゾルに撃たれてしまう。

 

 「マキアもレイリアも……どうして時を進むんだ……」

 

 物語は物語の中でしか生きれない、世界と関わることを拒んだクリムは、レナトの檻で息絶える。

 

 バイエラの猛攻に耐えきれず、メザーテはついに落城した。そして城の塔にでレイリアはメドメルと再開する。メドメルはレイリアと同じくらいまで成長しており、さらに自分を母親だと認識していなかった。そしてレイリアは自分の時を止めてた城(檻)から、世界から飛び出した。

 

 

 

「私は……飛べる……!」

 

 そのまま下まで落下したと思ったが、レナトに乗ったマキアに拾われる。

 

 「私の事は忘れて!自由に生きて!」

 

 人間以外の胎(はら)から生まれ、忌み嫌われたメドメル。人間ではないレイリアは、その世界では共に歩んでいくことは出来ない。だから母親のことは忘れて、”物語”に縛られず自由に生きて欲しいと願った。

 

 しかし、マキアはこう語る。

 

 「大丈夫。絶対に忘れないから」

 

 時が進む人間の世界は、痛み、汚れ、腐敗し、やがて朽ちていく。だけどその消えゆく世界で、懸命に生きる人間の美しさを、愛を、マキアとレイリアは知ったのだ。何も知らずにイオルフを飛び出した時、マキアが見た世界は灰色だったが、愛を知ってから見る世界は、光輝いていた。こんな美しい世界、忘れれるわけがないとレイリアも呟く。

 

 「お母様って、とてもお綺麗な方なのですね」

 

 メドメルが見た美しい物語も、忘れられることなんて無いのだろう。

 

 

 エピローグ

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 それから数十年後、マキアはヘルム農場へ戻ったエリアルの元を訪ねた。そこには孫にあたるリリィがいた。ディタは3年前に亡くなったらしい。娘のミリアに案内され、年老いたエリアルの近くに座る。

 

 「ただいま、エリアル」

 

 「おかえり、マキア」

 

 エリアルを看取ったマキアは、初めて会った時に着せたヒビオルを掛ける。そして心に刻んだヒビオルで、エリアルという”ヒビオル”は完結した。

 

 帰り道、マキアは声を上げて泣く。しかしマキアは知っていた。この悲しみより大きな愛を、エリアルから受け取っていることを。

 

 「愛すれば一人ぼっちになってしまう」

 

 そうマキアに長老は諭したが、別れは悲しいだけではなかった。生きている限り、心に刻んだ”ヒビオル”がある限り、決して一人にはならないのだと、マキアは旅路で学んだのだった。

 

 だから、また人に出会おうと思う。悲しみよりも大きな喜びに出会うために。永遠のような長い時を生きる少女は、また新たな旅路に踏み出した。

 

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 いかがだったでしょうか。ここまでが私がなぜこの物語を愛しているかという説明だったんですけど、ちゃんと伝わっているか少し不安です。

 

 ”物語”は”創作”であり”偽物”である。そんな”偽物”がひとりぼっちの少年を”本物”にした。エリアルは誰かを愛することを選びましたが、別にそれ以外の道を選んだとしても、マキアという本物であろうとした”物語”が教えてくれた感情は、現実で戦える力になるんだと教えてくれているんだと感じました。

 

 私はマキアに恋してると言いましたが、正確に言えば憧れです。憧れと恋は違うだろ!っていうのはわかっていますが、俺はこの感情にまだ恋と呼ぶことしか出来ないのでご勘弁を。

 マキアは確かに偽物で、偽物だからこそ、綺麗すぎて、優しすぎて、そういうものに感情を動かされない人からしたら、嫌悪されたり、嫉妬の対象になるかもしれません。

 けれど偽物でも、本物になりうる力があるんだと、偽物でも信じて生きてもいいんだと肯定されたような思いです。

 私もマキアのような綺麗で優しい、そんな本物になりたいと思わせてくれる作品でした。

 

 だから現実の恋愛が最高なんだ!というストーリーではないと思ってます。

 

 そして最後に岡田麿里監督自身の願いということについてなんですが、これは映画が終わったラストカットにあります。

 

 レナトとイオルフが一緒にいる世界。そこには新たなイオルフと人間の姿も見えます。イオルフの民は人間と同じような服を着て、バロウのような肌の色が違う子供も見受けられる。以前、イオルフの水は綺麗すぎて魚も住めない状態だったけれど、時が経ち緑が増え、魚も住むようになった。

 世界と物語が干渉し、共存して高め合う。そしていずれ新しかった物語も、古い物語と一緒になり、また新たな物語が生まれる。描いた物語が世界にとってより良いものになってほしい、という思いが込められているような気がします。

 

 マキアやレイリアが灰色の世界から色づいた世界へ、そういった”物語(偽物)”が救われたお話だったと私は思います。