もし将来の増税の発表が信じられるものならば、どのくらい将来の期待産出量と将来の金利を修正するのか。
IS: Y'=A(Y',T',r')+G'
LM:M'/P'=Y'L(r')
':期待を意味する
Y:産出量
A:民間支出
T:租税
r:金利
G:政府支出
M/P:貨幣供給量
上の数式の通りIS関係において、将来の産出量は将来の民間支出と将来の政府支出に依存します。将来の民間支出は、将来の産出量と将来の租税と将来の金利に依存します。LM関係は、将来の貨幣供給量が将来の貨幣需要に等しいことを意味しています。将来の貨幣需要は将来の金利と将来の所得水準に依存しています。
T'の増加は可処分所得を減少させ、金利を一定とすれば民間支出を減少させます。IS曲線は左にシフトさせます。したがって、もし人々が今日、増税以外に将来、金利が下落し同時に産出量が減少すると予想します。したがって、赤字削減プログラムや消費税(付加価値税)増税の発表のシグナルはT'^eを減少させ、r'^eを下落させます。
これは、人々が予想する唯一の政策変更が増税であるという仮定の下での議論です。そうではなく中央銀行が緊縮的財政政策を支持するというシグナルを市場に送るということを仮定します。つまり、もし政府が厳しい緊縮的財政政策を始めれば中央銀行は支出、すなわち産出量に対する逆効果を和らげるために金融緩和政策をとるとというシグナルを供給するとします。IS曲線が左にシフトした場合、中央銀行が産出量の減少を避けるために金利を下落させ、LM曲線を下にシフトさせる用意があるというシグナルを供給するのです。したがって、もし人々が将来、財政政策と金融政策の両方が変化すると予想するならば、シグナリングの効果はT'~eを増加させ、Y'~eを変化させず、r'^eを下落させます。
では、緊縮的財政政策によってゲームのルールが変更された時、今期の経済活動がどうなるかという最初の問題に戻ります。政策の変更に反応して、現在のIS曲線をシフトさせる要因は4つ存在します。
①現在の増税;それはIS曲線を左にシフトさせます。
②将来の期待された増税:それはIS曲線を左にシフトさせます。
③将来の期待所得の減少:それはIS曲線を左にシフトさせます。ただし、中央銀行が将来の緊縮的財政政策によるこの効果を相殺するように金融政策を行うと期待する人が多くなれば、この効果は弱くなります。
④将来の金利の下落:それはIS曲線を右にシフトさせます。なぜなら、低い金利が支出を刺激するからです。また、中央銀行が金融緩和政策によって緊縮的財政政策の効果を相殺させると期待する人が多いほど、この効果はますます強くなります。
増税パッケージがずっと後の方で重くなる、つまり増税のほとんどが将来に起こると仮定します。その結果、現在の税はわずかしか増加しないため、現在の増税を通した現在の支出に対する直接的効果は小さくなります。また、消費者は将来の期待された増税に対してあまり反応しないので、将来の増税のシグナルもまた現在の支出に対してほとんど直接的な効果をもたないと想定します。最後に金融市場は、中央銀行が貨幣供給量を増加させること、つまり金利を低くして将来の産出量と所得に影響を与えないようにすることによって、将来の緊縮的財政政策の効果を相殺する、と信じていると想定します。この金融政策が所与であれば、将来の産出量の予測は変わらず、将来の金利は下落すると予想されます。
以上のすべてを考慮します。もしこれらの条件がすべて満たされる(つまり将来の利子率は今より低くなると予想され、将来の産出量は不変と期待され、かつ現在の税がほとんど上昇しない)のであれば、増税パッケージは支出を純増させ、したがって今日の産出量を増加させると結論付けられます。
これは、政策にまつわる不確実性がよくわかる例となります。賢明に計画された増税パッケージは経済活動の縮小をもらさないかもしれなません。しかし、上のように想定したすべての仮定が現実と合うわけではないでしょう。たとえば、将来にいくほど重くなる増税というのは、痛みを伴う手段を後に残すことを意味しています。したがって、増税を延期することはプログラムの信認を低下させる、つまり政府が実際にそのような痛みを伴う政策を将来とるという確率を減らすかもしれません。そして金融市場は、増税の機会が失われて赤字が高いままにとどまり、それが将来の金利の下落ではなく上昇をもたらすのではないかという観測をもつようになるでしょう。ただし、日本やアメリカ、イギリスのような政府債務が自国通貨建ての国においては名目経済成長率が堅調に伸長している限り税収が確保されるので増税が延期されたからといって金利が上昇するというのは考えにくいことです。また、現在この3か国には超過準備が大量に存在しています。景気回復局面では貸出はそれほど増えず、民間銀行における余剰資金が国債に回るため、なかなか名目金利は上昇しないのです。
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