子供の頃、大人は教えてくれなかった。

「大人には本当の事しか伝わらないんだよ。」

大人は「嘘をついてはいけません」と言った。
子供はそれが分からないから嘘をつく。


クライアントの破産も、調停も訴訟も差押も競売も、すっかり麻痺した頃、独りで飲み歩くようになった。

望んでそうなった訳でもない。25時に仕事を終えると同僚は言った。
「いやいや、真っ直ぐ家に帰ろうよ。」

仕事とプライベートの不協和音を整えようと、また好奇心も手伝って、夜な夜な飲み明かすようになった。
そこには世話好きな、恰好いい男と恰好いい女がいて、20代半ばの若造に大人の遊び方と大人のルールを教えてくれた。

その当時よく足を運んだバーに、数年ぶりに顔を出した事がある。
日本人なのだがロバート・デニーロ似?のマスターは、当時いつも言っていたようにこう言った。

「やあ!H!久しぶり!何日ぶりだ?元気そうだな、さすが俺の息子だ。」

そう言って微笑んだ。


昨夜は最近知り合った同年代の税理士と、赤坂の蕎麦の旨い店で飲む。案の定頭のいい男で楽しい酒。

今夜は、可愛がっていただいてる不動産会社社長とその№2と仕事の話。その後、鰤大根の旨い店で飲む。
恰好いい大人の男と飲む酒も当然に楽しい。


あの時は、仕事に対して何かが変だとは気付いていたが、蕎麦や鰤大根の旨さも、本当の事も分からなかった。

年を重ねれば、浅はかと感じるのかも知れないが、きっと今の考えは嘘では無いと思う。