明治が歴史になったとき 佐藤雄基編
評・苅部 直政治学者東京大教授
日本の近代史に関して、大学で本格的に研究・教育が行われるようになったのは、戦後に入ってからである。
大久保利謙
は、その出発の時期から講義を行い、研究者を育てた第一世代の歴史学者。
明治の政治家、大久保利通の孫でもあった。
この本は「史学史としての大久保利謙」という副題がついている。
さまざまな角度から、歴史学そのものの歴史のうちに、その業績を位置づけた論集である。
戦前と戦後の世相の変化を「史料の運命において肌身で感得した」という大久保利謙の言葉が重い。
戦前から憲政史の史料収集にたずさわり、戦後は国立国会図書館の憲政資料室の運営も担った人物である。
戦後改革による社会の変動で、旧特権層の史料が大量に放出・公開された。
みずからも華族として境遇の転変を体験したことから生じる、複雑な思いがこもっている。
マルクス主義歴史学に対する違和感や、丸山眞男ら政治学系の研究者とのすれ違いなど、
明治史研究が始まる過程のドラマも追体験できる。
歴史学それ自体がまた、歴史の重要な登場人物なのである。
(勉誠出版、2800円)
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