北海道だけじゃない! 全国で広がる国産小麦

パン用小麦で人気急上昇、「ゆめかおり」が関東で事実上の統一品種に

 
配信より
 

 手間をかけて高品質な小麦を作れば価格に反映される仕組みができたことで、研究会の賛同者は次第に増え現在16名。2020年の出荷は470トン、2021年は見込み数量で670トンと、1,000トンが視野に入ってきた。こうした一連の取り組みが評価され、令和元年度全国麦作共励会(集団の部)で、全国農業協同組合中央会会長賞を受賞、令和2年度農業普及活動高度化全国研究大会で農林水産大臣賞を受賞している。

 

 販路を拡大していく過程で、研究会では関東エリアの製パン会社やベーカリーを対象にした圃場見学会なども行っているが、そこに参加したのが、茨城県の製パン会社・リバティーフーズ社長の鳥山雅庸さんだ。大手コンビニエンスストアに供給する製パン会社で、地元素材を取り入れた地域商品の開発を行っている。それまでこの大手コンビニエンスストアのパンで使用された国産小麦は北海道産のみだった。本州産小麦としては初のテスト販売まで、製粉会社やチェーン本部との度重なる調整を経て、2年がかりで実現にこぎつけた。

 

茨城パン小麦栽培研究会のメンバーとリバティーフーズの鳥山さん(提供:茨城パン小麦栽培研究会)

茨城パン小麦栽培研究会のメンバーとリバティーフーズの鳥山さん(提供:茨城パン小麦栽培研究会)

 

 「これまで小麦は生産者と消費者の方のつながりが感じられることは薄かったと思います。しかし、3週間の販売期間中、地元の店の方たちが盛り上がってくれて、コーナーにポップを立てたりチラシを置いてくれたりしました。それを見て『茨城県で小麦を作っているなんて知らなかった』などお客様からの反響も大きなものがありました」と鳥山さん。

 

 実際、「地元で面識のない方からも声をかけていただいたり、またやってほしいとメッセージをいただいたりもしました」(高橋会長)

 

 県内のベーカリーなど「ゆめかおり」の使用店は40軒以上になり、境町や坂東市では、地元産小麦で焼いたパン給食の日を設けている。研究会としては、将来的にはもっと多くの学校に、地元産小麦でのパン食を目指していきたい考えだ。

地産地消の取り組みで新規開拓や安定需要を掘り起こす

 こうした茨城県の取り組みだけでなく、「九州北部4県、北関東4県、東海3県など他の主産地でも、品種の転換が着実に進展し、国産小麦の地産地消的な動きが目立っています」(吉田さん)。

 

 九州では、「ミナミノカオリ」が福岡県、佐賀県、大分県、熊本県の4県で作られ、北海道のように製粉会社の求めに対応できる供給体制が整いつつある。地元産小麦で作ったパンを売りにした地元ベーカリーがあちこちに登場しているだけでなく、地元の製粉会社がホームベーカリー用に「ミナミノカオリ」を100%使用したパン用強力粉「南のめぐみ」「みなみの穂」などのブランドを展開。「地産地消的な取り組みが増えていくことで、地元産小麦に対する評価が高まり、ひいては新規用途開拓や地元産小麦全体のイメージアップにつながることも期待されます」(吉田さん)。

 

 山口県では、「県内の学校給食パンの小麦粉を 100%山口県産にする」という目標を2012年に達成した。県とJAが助成し、地元の製粉会社、製パン会社、給食会などの努力により、山口県産小麦「ニシノカオリ」で実現した。

 

「その後、『ニシノカオリ』よりも収量や製パン性に優れ、瀬戸内海に面している土地に向いている小麦として作られたパン用小麦『せときらら』が登場すると、15年産では『せときらら』への品種転換がほぼ終了しました。地元ベーカリーなどでも取り扱われ、2013年に作付け面積7ヘクタールから始まりましたが、2019年には1,069ヘクタールと爆発的に伸びています」(吉田さん)

 

 少子高齢化で人口が減り国内消費量全体が減少しているなか、外国産が80%以上を占めている小麦の世界では、外国産よりもいいものを作れば、市場を拡大することができる。特にパン用や中華麺用はまだまだ需要が作れるジャンルであることを、各地のケースが証明している。