チトランバンジャン峠からは稜線を登り返してその後急激に下り、その後は小さく上り下りして最後にゴールのハッティバンまで樹林帯の下り道。残り約13km。

そんなところで、ヒョウにつかまってしまった。4本足じゃなくて、空から降ってくる方の。峠でのGPS標高表示が低かったのは、低気圧の前線が近づいて気圧が低くなっていたからなんだ!

ゴロゴロという雷鳴はそんなに近くないけれど、みるみる空は黒くなり、直径1センチもありそうなヒョウと雨が降ってきた。わー!と、丁度出てきた民家の軒先に避難した。30分ほど雨宿りし、ヒョウと雨が止んだところで先に進む。雷は恐いけれど、日没前にゴールしなきゃドツボだ!

正規の50kmコースと合流する尾根上の最高標高地点には、意外なことにしっかりした茶店があった。ここには最後のチェックポイントがある筈なんだけど、係員は誰も見かけない。と、スタート地点で見かけたもうひとりの女性参加者。うら若いネパール人おねえちゃんランナーが飛び出してきた。

「わぁ、おばさまが来た!私ね、ここまで来たんだけど独りだけで、雷とヒョウが恐くて雨宿りしてたのよ。一緒に行く人いればもう恐くないわ。私も行くわ」

足の速い彼女だが、私に合わせてくれる。そりゃ独りでは心細いよね。だが、さっきより激しいヒョウが降ってきた。わあわあわあ。みるみるトレイルが真っ白になる。

IMGP1311

もう引き返せないし、とにかく前に進もう。今まで何度も行ったことがあるチャンパデビまで行けば、ゴールも近い。コースは所々トレイルだが、殆どは石積みの道と階段だ。とにかく石積みを追っていけばよい。が、一箇所、彼女が「そっちじゃなくてこっち」と、トレイルの道を指し示す。向こうにはきれいな石積みの道が見えるのに。見ると木の幹に赤いリボンが結びつけてある。私は見落としていた。でも、向こうじゃないのかな?とも思いつつ先を行くと、ものすごい急傾斜の下りとなった。もうこうなったら下って下ってどこかに着くだろう。

彼女はものすごいスピードで、もう見えなくなった。自分がどこに向かっているのか混乱してきた頃、突然、チャンパデビの祠に飛び出した。

IMGP1318

力の女神チャンパデビに挨拶を。

あ゛、周りは深い冷たい水たまりになっていたのに気づかず、足がずぶ濡れだ。ええい、ままよ。ゴールは遠くない。きれいな石積みの階段を下る。何てことのない道なのに、脚が終わってる。ストックを頼りによたよたと下るしかない。そのあとは少しの登り返しなのだが、その少しの登りにあえぐ。ルートセッターが4本脚の方のヒョウに遭遇した樹林帯に入る。道がぬかるんでいて滑りやすい。転ばぬように気をつけながら、もう遠くないゴールを目指して走る。客観的に見れば早歩き?てなスピードだったかもしれないが、やっぱり走っていた。

まだゴールは見えないが、フェスティバル参加者のためのテント村が見えた。あ、ゴールゲートだ。誰もいないけど、気にしないや。そしてリゾートの門まで。

あ、誰かいるぞ。

「おめでとう~、おつかれさま」

やっとやっと、大会のちゃんとした役員に迎えられた。33kmコースの筈だが、自分のGPSは42km強の距離を叩き出していた。ずいぶん遠回りしたんだな。

そのままリゾート内の大会本部にしつらえられた、ガスストーブの前に連れて行かれた。走るのを止めると、震えが来るくらいの寒さだ。しばらくして、リチャードもやってきた。

IMGP1322
 
30分ほど後、カトマンズから湯たんぽとテルモスにコーヒー、ポップコーンと着替えを持って亭主と息子も車で到着。ああ、やっと終わった。のだが、実は、まだ終わっていなかった。

つづく