初めに

 

ここでは、今から1400年前に書かれた、聖ヨアンネス・クリマコスによって書かれた

「天国の梯子」を翻訳・解説しております。

 

1400年前にイエス・キリストを信じて生きてきた人々の様子が生き生きと伝わる本で、現代のカトリックの人々も霊的に成長するために読んでいる本です。

 

彼らの禁欲的な生活は、現代のいわゆる「キリスト教」のイメージとは違うかもしれません。

しかし、彼らの美徳的生活の根本には、伝統的な、そして教えの真髄とも言えるものが隠されています。

 

「キリスト教ってなんだろう」と思っている方にも、参考になるかと思われます。

 

7世紀に書かれたとはいえ、現代の人間関係の悩みなどに通ずる教えがたくさん盛り込まれているので、ぜひゆっくりと読んでみてください。

 

 

 

 

サバのヨハネ(別名アンティオコス)の教え

 

111. 霊的な借金を返す物語 

 

ヨハネはかつて、こんな話をしました。 

「アジアのある修道院に、とても優しく穏やかな長老の弟子になった男がいました。

 

長老は彼を特別に可愛がり世話を焼きましたが、

男は『特別扱いされるのは自分の魂のためにならない』と判断し、

長老にお願いして修道院を去ることにしました。

(長老には他にも弟子がいたので、それほど迷惑はかかりませんでした。)

 

彼は長老からの紹介状を持ち、ポントスにある別の共同修道院に入りました。

その最初の夜、彼は夢を見ました。

誰かが自分の『霊的な借金(罪や欠点)』の計算をしており、

その恐ろしい請求書にはなんと『金100ポンド』もの借金が残っていたのです。

 

目を覚ました彼は、『ああ、哀れなアンティオコスよ(これが彼の名前でした)、

お前の借金はまだまだ返しきれないぞ!』と嘆きました。

 

彼はその修道院で3年間、一切の文句を言わずに服従し、

よそ者として皆から見下され、侮辱されて過ごしました。

 

すると再び夢の中にあの人物が現れ、

借金を10ポンドだけ返済したという証書をくれました。

彼は目を覚まして言いました。

『まだたったの10ポンドか!残りはいつになったら返せるのだろう。

哀れなアンティオコスよ、お前にはもっと苦労と恥辱が必要だ』。

 

それ以来、彼はわざと愚か者を装い、皆への奉仕は決して怠らないようにしました。

無慈悲な先輩修道士たちは彼が喜んで仕えるのを見て、

修道院の最もきつい仕事をすべて彼に押し付けました。

そのような生活を13年続けた後、また夢にあの人物たちが現れ、

ついに『借金完済の領収書』を渡してくれたのです。

 

だから彼は、修道院の仲間からどんな理不尽な扱いを受けても、

『これは自分の借金を返すためだ』と思い出し、勇敢に耐え抜いたのです。」

 

実は、賢明なヨハネは自分自身の経験を、

まるで他人のことのように語っていたのです。

正体を隠すために「アンティオコス」という仮名を使っていました。

しかし実際には、忍耐と服従によって自らの借金の証書を見事に打ち破ったのは、

ヨハネ自身だったのです。

 

112. 三人の弟子への異なる導き 

この聖なる人が、徹底した服従によって、

どれほど素晴らしい「洞察力の賜物」を得ていたか聞いてください。

 

彼が聖サバの修道院にいた時、3人の若い修道士が弟子入りを志願してきました。

彼は喜んで迎え入れ、旅の疲れを癒やすために手厚くもてなしました。

3日後、長老は彼らに言いました。

「兄弟たちよ、私は生まれつき色欲に弱い人間なので、

あなたたちを弟子として受け入れることはできません」。

 

しかし、長老の立派な行いを知っていた彼らは、

その言葉を真に受けず、どうしてもと懇願し続けました。

 

ついに長老は折れ、彼らが謙虚に助言を受け入れると見抜いた上で、

一人一人に全く違うルールを与えました。

 

  • 一人目への言葉:「主はあなたに、霊的な父のもとで静かに隠遁生活を送ることを望んでおられます。」
  • 二人目への言葉:「自分の意志を捨てて神に委ね、十字架を背負って共同修道院の兄弟たちと共に忍耐強く生きなさい。そうすれば天に宝を積むでしょう。」
  • 三人目への言葉:「『最後まで耐え忍ぶ者は救われる』という言葉を深く胸に刻みなさい。そして、できる限り最も厳しく、要求の多い人を自分の指導者に選び、毎日浴びせられる侮辱や嘲笑を、ミルクや蜂蜜のように甘く飲み干しなさい。」

すると三人目の兄弟が尋ねました。

「父よ、もしその指導者がだらしない生活をしていたらどうすればいいのですか?」

 

長老は答えました。

 

「たとえ彼が罪を犯しているのを見たとしても、離れてはいけません。

自分自身に『友よ、お前は何のためにここに来たのか?』と問いかけなさい。

そうすれば、あなたの中からすべての高慢が消え去り、

欲望はしぼんでいくのがわかるでしょう。」

 

113. 霊的な戦いの激しさ 

主を畏れ敬いたいと願う私たちは、全力で戦わなければなりません。

美徳を学ぶ学校にいるはずなのに、

悪意や悪徳、ずる賢さや怒りばかりを身につけてしまわないように。

 

一般人や船乗り、農民として生きている間は、

王の敵(悪魔)もそれほど激しく攻撃してきません。

 

しかし、ひとたび王の軍服を着て、盾と剣と弓を持ち、

兵士として立ち上がったのを見ると、

敵は歯ぎしりをして全力で滅ぼしにかかってくるのです。

 

だから、決して眠りこけてはいけません。

 

 

114. 悪い環境の影響 

知恵や教養を得るために学校に入った純真で美しい子どもたちが、

他の生徒の影響を受けて、

ずる賢さと悪徳しか学ばないのを見たことがあります。

聡明な人なら、これが何を意味しているかわかるでしょう。

 

 

115. 毎日の自己吟味 

真剣に技術を学ぶ職人が、毎日上達しないわけがありません。

しかし、自分の進歩に気づく人もいれば、

神の計らいによってあえて気づかないままの人もいます。

優秀な商人は、その日の損益を毎晩必ず計算します。

しかし、一日の結果を正確に知るためには、

毎時間帳簿をつけていなければなりません。

毎時間の記録があってこそ、一日の本当の姿が見えてくるのです。

 

 

116. 叱責を受けたときの態度

愚かな人は、非難されたり怒鳴られたりすると、

傷ついて言い返そうとするか、あるいは非難から逃れるために、

心からの謙虚さもないのにすぐ謝ってしまいます。 

しかし、あなたが嘲笑されたり叱られたりしたときは、

黙って耐え、その霊的な治療(浄化の炎)を受け入れなさい。

 

そして、医者(相手)の治療が終わってから許しを請うのです。

相手が怒っている最中に謝っても、受け入れてはもらえないからです。

 

 

117. 共同生活の敵

あらゆる情念(欲望や弱点)と戦う中で、

共同生活を送る私たちが常に警戒すべきなのは

「食欲」と「怒り(イライラ)」の二つです。

 

共同生活の場には、この二つを刺激する要因がたくさんあるからです。

 

 

118. 悪魔の巧妙な罠 

悪魔は、服従の生活をしている者には

「絶対に不可能な高い目標」を望ませます。

逆に、隠遁生活をしている者には「その生活に合わない考え」を吹き込みます。 

 

経験の浅い初心者の心の中を覗いてみてください。

そこには、静寂、過酷な断食、絶え間ない祈り、

虚栄心の完全な克服、死への絶え間ない思い、

怒りの完全な喪失、深い沈黙、卓越した純潔などへの

非現実的な憧れが渦巻いています。

 

悪魔は、彼らが順を追って成長するのを妨げるために、

わざと早すぎる完璧を求めさせ、結局は挫折させるのです。 

 

一方で、隠遁生活をしている者に対して、

悪魔は「人をもてなすこと、兄弟愛、共同生活、病人の訪問」が

いかに素晴らしいかを説き、

今の生活に焦りを感じさせようとします。

 

 

119. 隠遁生活の厳しさ 

本当の意味で隠遁生活を送ることができるのは、

ごくわずかな人だけです。労働を励ます神の慰めと、

戦いを助ける神の力を得た者だけが可能なのです。

 

 

120. 自分に合った指導者の選び方 

私たちは自分の弱点(情念)と服従の性質を見極め、

それにふさわしい霊的な父(指導者)を選ばなければなりません。 

もしあなたが色欲に弱いなら、

誰にでも愛想よく食事を振る舞うような人ではなく、

食事の慰めを一切許さない禁欲的な人を指導者に選びなさい。

 

もしあなたが高慢になりやすいなら、

優しく穏やかな人ではなく、

厳格で妥協しない人を指導者に選びなさい。

 

 予知能力を持つ人を探すのではなく、

間違いなく謙虚であり、自分の心の病気を治すのに

ふさわしい性格と環境を持つ人を選ぶのです。

 

そして、指導者が常に自分を試しているのだと考える習慣を持てば、

決して道を外れることはないでしょう。 

もし指導者がいつもあなたを叱責し、

それによってあなたが指導者に対する深い信仰と愛を得たなら、

聖霊が目に見えない形であなたの魂に宿っていることを知りなさい。

 

 

121. 叱責を受けたときの心構え

 侮辱や理不尽な扱いに耐えられたからといって、

自慢したり喜んだりしてはいけません。

むしろ、指導者を怒らせるような悪い行いをしてしまった自分を嘆き悲しみなさい。 

驚かないで聞いてください。

「神に対して罪を犯すより、霊的な父(指導者)に対して罪を犯すほうが恐ろしい」

のです。

神を怒らせても指導者がとりなしてくれますが、

指導者を怒らせてしまったら、

誰も私たちのために神にとりなしてくれる人はいなくなるからです。

 

122. 沈黙すべき時と、弁明すべき時

非難されたとき、いつ黙って感謝して耐えるべきか、

いつ弁明すべきかを注意深く見極めなさい。

 

 私としては、自分自身が侮辱されただけの時は、

すべて沈黙すべきだと思います。

 

それは自分の霊的な利益になるからです。

しかし、他の人が巻き込まれている場合は、

愛と平和の絆を壊さないために、きちんと弁明して誤解を解くべきです。

 

 

123. 服従の価値 

服従の生活から逃げ出した人は、

後になってその本当の価値を語るようになります。

離れてみて初めて、自分がいかに天国のような場所にいたかを実感するからです。

 

 

124. 忍耐がもたらす強さ

 無執着(情念からの解放)と神に向かって走る者は、

誰からも非難されない平和な日を「大きな損失」と考えます。 

風に揺さぶられる木が地中深くに根を張るように、

服従の中で試練に耐える者は、強くて揺るぎない魂を得るのです。

 

 

125. 霊的な視力の回復

 隠遁生活の中で自分の弱さを思い知り、

そこから場所を変えて「服従」の道に身を委ねた者は、

苦労することなく霊的な視力を取り戻し、

キリストを見出すことができます。

 

 

126. 結びの言葉

 兄弟であるアスリートたちよ、走り続けなさい。

もう一度言います。走り続けなさい。 

「主は、炉の中の金のように(あるいは共同生活の中で)

彼らを試し、全焼のいけにえのように御胸に受け入れられた」

という知恵の言葉を胸に。 

永遠の父と、聖なる尊い御霊とともに、

主ご自身に栄光と永遠の支配がありますように!

アーメン。

 

 

解説

111. 霊的な借金を返す物語

  • この世での辛いことやストレスは、「自分の人間性を磨くための試練(借金返済)」と捉え直すことで、困難を乗り越える忍耐力が生まれます。

112. 三人の弟子への異なる導き

  • 万人に共通の正解はありません。自分の性質に合った環境や指導を選びましょう。また、理不尽な環境に置かれたときは「自分は何のためにここにいるのか」と初心に返ることで、感情に流されずに済みます。

113. 霊的な戦いの激しさ

  • 何か新しい良い習慣を始めようとしたり、高い目標を持ったりすると、必ず邪魔や誘惑が入るものです。それは「自分が前進している証拠」だと捉え、気を引き締めましょう。

114. 悪い環境の影響

  • 環境が人に与える影響は絶大です。自分が身を置く環境や、日常的に付き合う人間関係には十分に注意を払い、自分を高める場所を選びましょう。

115. 毎日の自己吟味

  • 一日の終わりに、今日学んだことや反省点を振り返る習慣(日記や振り返りメモなど)を持ちましょう。日々の小さな積み重ねと確認が、確実な成長に繋がります。

116. 叱責を受けたときの態度

  • クレームや厳しい指摘を受けた時は、すぐに言い訳したり形だけ謝ったりせず、まずは相手の言葉を真摯に受け止めましょう。お互いの感情が落ち着いてから誠実に対応するのが最善です。

117. 共同生活の敵

  • 職場や家庭など、人と関わる環境では「些細なイライラ」や「衝動的な欲求」がトラブルの種になります。アンガーマネジメントや欲求のコントロールに意識的に気を配りましょう。

118. 悪魔の巧妙な罠

  • 「一足飛びの完璧」を求めたり、「隣の芝生は青く見える」と現状を否定したりするのは危険です。焦らず、今の自分にできることから着実にステップアップしていきましょう。

119. 隠遁生活の厳しさ

  • 人は完全に一人では生きていけません。安易に孤独を選ばず、支え合える仲間やコミュニティの存在を大切にしましょう。

120. 自分に合った指導者の選び方

  • メンターや上司を選ぶ環境にある時は、自分に優しくしてくれる人より、自分の弱点や欠点を的確に指摘し、あえて厳しい課題を与えて成長させてくれる人を選んだ方が、結果的に自分のためになります。

121. 叱責を受けたときの心構え

  • 怒られた時に「うまく耐え切った」「やり過ごした」と満足するのではなく、「なぜ怒らせてしまったのか」という根本的な原因に目を向け、自分の行動を改めることが重要です。

122. 沈黙すべき時と、弁明すべき時

  • 自分への不当な評価にはグッと堪える忍耐も必要ですが、チームや他人に迷惑がかかるトラブル・誤解については、感情的にならず客観的に事実を説明して事態を収拾しましょう。

123. 服従の価値

  • 今ある環境や、厳しくも導いてくれる人のありがたみは、失ってから気づくことが多いものです。日々の当たり前の環境に対して、感謝の気持ちを忘れないようにしましょう。

124. 忍耐がもたらす強さ

  • 困難やストレスのない平穏な日々も良いですが、時には自分に負荷をかけるような挑戦や試練を歓迎しましょう。逆境こそが、自分の芯を強くし、成長させてくれる機会です。

125. 霊的な視力の回復

  • 自分の限界や弱さを認めることが成長の第一歩です。意地を張らず、素直に他者のアドバイスや指導に耳を傾けることで、抱えていた問題の解決策があっさりと見つかることがあります。

126. 結びの言葉

  • 人生は長期戦です。途中で苦しい時も、それは自分を鍛える試練だと信じて、歩みを止めずに前を向いて進み続けましょう。

 

 

終わりに

 

私はカトリックに改宗してもう7年になります。

毎日勉強し、お祈りし、日常生活で実践していく中で、

どうしても行き詰まったり、悩んだり、焦ったりします。

 

それは子育てや、習い事や、仕事でも同じです。

 

しかし、感情的に判断しないことや、

あらゆる誘惑の可能性やそれに左右されない心、

ジャーナリングの習慣をつけること、

辛いことが起きても、それを「借金返済」だと思うことなど、

この章には有意義な教えがたくさんあります。

 

霊的生活に挑戦している私たちにとっては、毎日が戦いですが、

現実に毎日、私たちは確実に、この世との別れに近づいています。

 

そのとき私たちは神と対峙し、現世での行いや考えが曇りなく、神のみ前に、露わになるのです。

 

神への「借金」を限りなくゼロにするために、

真っ直ぐに天に登っていくために、

私たちにできることは、学び、祈り、実践していくことです。

 

その中でたくさんの「試み」があるでしょう。

怒りや食欲は私にもコントロールしがたい、難しい課題です。

 

しかし焦らず、着実に、天国のはしごを昇っていくために、

この本を翻訳して、少しでも多くの人に「伝統的カトリック」というものを届けたいと思っています。

 

読んでいただきありがとうございました。